[PH17] 表記による想起されるイメージの違い
在日中国人留学生と日本人大学生の調査より
キーワード:表記、イメージ、大学生
問題と目的
日本語の漢字表記,ひらがな表記とカタカナ表記に対するイメージの比較研究されてきている。岩原・八田(2004)は,漢字表記は「堅い」「難しい」「知的な」,ひらがな表記は「幼い」「柔らかい」「簡単な」,カタカナ表記は「外国」「冷たい」「気取った」という感情的意味を内包しているため,文章を書く時に,これらの感情的意味を考慮することで,効果的に文脈情報を伝達しようとしていると指摘している。杉島・賀集(1992)は,ひらがな表記は,漢字表記,カタカナ表記に比べ,概して力量性次元の正方向にあり,表記間の差が力量性次元で顕著であると指摘している。このように,漢字,ひらがな,カタカナはそれぞれ独自のイメージを伝えられることが明らかになっている。
漢字はそもそも中国から伝わってきたものであるため,日中同形語を研究材料とした日本人と中国人のイメージの比較研究もある(e.g., 佐々木,2010; 張,2017)が,日中同形語以外の漢字とひらがな,カタカナ表記自体に対して,日本語学習者はどのようなイメージを持っているのかについては研究されていない。さらに,イメージを測定する代表的な方法とされているSD法を用いた研究もされていない。
そこで,本研究では,在日中国人留学生と日本大学生を対象とし,SD法を用いて漢字,ひらがな,カタカナに対するイメージの相違について比較・検討を行うことを目的とする。本稿では,日本人大学生の結果を報告する。
方 法
被調査者 A大学日本人学生83名を対象とした。
材料 評定概念は予備調査に基づき抽出された10語(「きれい」「まんが」「めがね」「けが」「りんご」「ゆり」「きざ」「ついたて」「もくれん」「ぶどう」)を,3表記した,30項目を用いた。評定尺度は評価性次元として「好きな-嫌いな」「きれい-きたない」「気持ちの良い-気持ちの悪い」の3形容詞対,力量性次元として「強い-弱い」「重い-軽やか」「かたい-やわらかい」の3形容詞対,及び活動性次元として「親しみやすい-親しみにくい」「読みやすい-読みにくい」「活動的な-受動的な」の3形容詞対,合計9形容詞対を7用いた。質問項目として,「各表記を見て感じるイメージを形容詞対で評定し,あなたのイメージにあてはまるところに○をつけてください」と教示し,7件法で回答を求めた。
結果と考察
因子分析 形容詞対について因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,第1因子は,「評価因子」,第2因子は「力量因子」,第3因子は「活動因子」と命名した。「活動的な-受動的な」を除いたこれら3つの因子について分析した。
分散分析 すべての因子においてことばの主効果,表記の主効果とこれらの交互作用は有意であった。ここでは,活動因子を例として,分散分析の結果を述べる。10語の3つの表記それぞれの活動因子の得点をプロフィールとしてFigure 1に示した。
ことばの主効果(F (9, 738) = 67.99, p<.001, η2=.45),表記の主効果(F (2, 164) = 146.03, p<. 001, η2=.64)とも有意であった。さらに,これらの交互作用(F (18, 1476) = 13.42, p<.001, η2=.14)も有意であった。各効果について多重比較(Holm法)を行ったところ,概して,カタカナより漢字,漢字よりひらがなの方が活動的であることがわかった。しかし「きざ」と「まんが」では,カタカナとひらがなの2つの表記に違いがみられないことがわかった。
この結果から,表記による想起されるイメージの差異が日本人大学生に見られるが,それはことばによって異なることが明らかになった。今後,留学生と日本人学生を比較していく。
日本語の漢字表記,ひらがな表記とカタカナ表記に対するイメージの比較研究されてきている。岩原・八田(2004)は,漢字表記は「堅い」「難しい」「知的な」,ひらがな表記は「幼い」「柔らかい」「簡単な」,カタカナ表記は「外国」「冷たい」「気取った」という感情的意味を内包しているため,文章を書く時に,これらの感情的意味を考慮することで,効果的に文脈情報を伝達しようとしていると指摘している。杉島・賀集(1992)は,ひらがな表記は,漢字表記,カタカナ表記に比べ,概して力量性次元の正方向にあり,表記間の差が力量性次元で顕著であると指摘している。このように,漢字,ひらがな,カタカナはそれぞれ独自のイメージを伝えられることが明らかになっている。
漢字はそもそも中国から伝わってきたものであるため,日中同形語を研究材料とした日本人と中国人のイメージの比較研究もある(e.g., 佐々木,2010; 張,2017)が,日中同形語以外の漢字とひらがな,カタカナ表記自体に対して,日本語学習者はどのようなイメージを持っているのかについては研究されていない。さらに,イメージを測定する代表的な方法とされているSD法を用いた研究もされていない。
そこで,本研究では,在日中国人留学生と日本大学生を対象とし,SD法を用いて漢字,ひらがな,カタカナに対するイメージの相違について比較・検討を行うことを目的とする。本稿では,日本人大学生の結果を報告する。
方 法
被調査者 A大学日本人学生83名を対象とした。
材料 評定概念は予備調査に基づき抽出された10語(「きれい」「まんが」「めがね」「けが」「りんご」「ゆり」「きざ」「ついたて」「もくれん」「ぶどう」)を,3表記した,30項目を用いた。評定尺度は評価性次元として「好きな-嫌いな」「きれい-きたない」「気持ちの良い-気持ちの悪い」の3形容詞対,力量性次元として「強い-弱い」「重い-軽やか」「かたい-やわらかい」の3形容詞対,及び活動性次元として「親しみやすい-親しみにくい」「読みやすい-読みにくい」「活動的な-受動的な」の3形容詞対,合計9形容詞対を7用いた。質問項目として,「各表記を見て感じるイメージを形容詞対で評定し,あなたのイメージにあてはまるところに○をつけてください」と教示し,7件法で回答を求めた。
結果と考察
因子分析 形容詞対について因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,第1因子は,「評価因子」,第2因子は「力量因子」,第3因子は「活動因子」と命名した。「活動的な-受動的な」を除いたこれら3つの因子について分析した。
分散分析 すべての因子においてことばの主効果,表記の主効果とこれらの交互作用は有意であった。ここでは,活動因子を例として,分散分析の結果を述べる。10語の3つの表記それぞれの活動因子の得点をプロフィールとしてFigure 1に示した。
ことばの主効果(F (9, 738) = 67.99, p<.001, η2=.45),表記の主効果(F (2, 164) = 146.03, p<. 001, η2=.64)とも有意であった。さらに,これらの交互作用(F (18, 1476) = 13.42, p<.001, η2=.14)も有意であった。各効果について多重比較(Holm法)を行ったところ,概して,カタカナより漢字,漢字よりひらがなの方が活動的であることがわかった。しかし「きざ」と「まんが」では,カタカナとひらがなの2つの表記に違いがみられないことがわかった。
この結果から,表記による想起されるイメージの差異が日本人大学生に見られるが,それはことばによって異なることが明らかになった。今後,留学生と日本人学生を比較していく。