日本地質学会第128年学術大会

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口頭発表

T1.[トピック]広域観測・微視的実験連携による沈み込み帯地震研究の新展開

[1ch101-04] T1.[トピック]広域観測・微視的実験連携による沈み込み帯地震研究の新展開

2021年9月4日(土) 08:00 〜 09:00 第1 (第1)

座長:木下 正高

08:00 〜 08:15

[T1-O-1] 日向灘沖での九州パラオ海嶺沈み込みが熱構造に及ぼす影響

*木下 正高1、仲田 理映1、橋本 善孝2、濱田 洋平3、IODP日向灘掘削 提案者一同 (1. 東京大学地震研究所、2. 高知大学、3. 海洋研究開発機構)

キーワード:九州パラオ海嶺、熱流量、IODP掘削、スロー地震

100%の固着の挙動を示す南海トラフ地震発生帯の西方境界は不明確である.日向灘沖の地震活動は南海トラフ主要部とは明らかに異なることが知られており,また最近のVLFEやSSEなど,SEの発見により,日向灘の固着率は弱いとされるが,その実態はいまだ不明である.その実態解明に向けて,現在IODP掘削提案を提出準備中である(Nakata 他,JpGU2021).地震断層の挙動を知るためには,広域探査データをベースとして,プレート境界断層や上盤からの試料採取等により,破壊の素過程に迫ることが必要である.本発表では,新たに得られた熱流量データから日向灘沖の熱・水理構造を推定する. JAMSTECの構造探査測線7本に沿ってBSR反射面が同定され,その深度から熱流量を新たに得た.九州パラオ海嶺(KPR)の延長線を境にその東では50-100mW/m2,西では25-40mW/m2と顕著に異なる.その変化はKPR延長上でわずか20㎞程度で起きているようである.KPR延長上の東側では,局所的に100mW/m2を超える高い熱流量があるが,それは南海トラフ軸付近に見られるものと同じである.同様の高い熱流量が西側に見られないのは,BSRやプローブからの熱流量が存在しないためかもしれない. 日向灘沖の熱構造は,Yoshioka (2007, EPSL)による数値計算結果が詳しい.その結果,KPRの西側(古い地殻が沈み込む)では熱流量が低いためプレート境界面の温度が低く,その結果として海側では地震が発生しないと主張した.今回はこの解析をベースとして,新たに得られたデータを加え,KPRをはさんだ両側地殻の熱交換や斜め沈み込みの影響を考慮したモデル計算を行った.トラフ軸から陸側に100㎞以内では,プレート傾斜角が4度程度で南海トラフと日向灘沖で変わらないことから,九州パラオ海嶺を境として東側と西側の年齢差が20Maであるとし,年間7㎝で沈み込んでいるとした.25Ma b.p. に四国海盆が形成後現在まで計算を行い,得られた熱流量を観測結果と比較した. 計算結果は,上記観測熱流量とほぼ整合的である.また東側での100mW/m2の熱流量は,沈み込む前の計算値とほぼ合っていることから,四国海盆側では100から50まで急激に減少していることが説明できる.KPRおよび西側の熱流量をよく見ると,minimumの地点はKPRの延長上にあり,地磁気異常から推定された沈み込んだ海山の位置や,Tremorの位置に一致しているように見える. 特に,KPRの沈み込んだ直後(地磁気異常あり)の地点で,急激に熱流量が変化しているようであり,局所的な間隙水移動の影響の可能性を指摘しておく.