09:15 〜 09:45
[T3-O-1] (招待講演/ハイライト)スロー地震の活動様式とその地質学的背景
キーワード:スロー地震、微動、超低周波地震、スロースリップイベント、沈み込み帯
世話人からのハイライト紹介:スロー地震研究の第一人者小原さんによる講演です.スロー地震の基礎的な解説はもとより,南海トラフを中心とした地震・測地観測に基づく最新の研究成果,スロー地震の地質学的背景など内容盛り沢山.講演を聴いて学び,議論し,スロー地震の理解に向けて今後地質学がどのような役割を果たせば良いか,一緒に考えましょう!参考:ハイライトについて
【はじめに】 スロー地震とは,通常の地震に比べて断層すべりがゆっくり進行する現象であり,近年の高密度地震・地殻変動観測網によって明らかにされてきた.地震現象は震源断層とその周囲の構成物質に支配されるが、スロー地震を生み出す地質学的環境はどのようなものであろうか.本講演では,その解明の一助となることを期待し,最近の結果を含めて主に西南日本におけるスロー地震を概観する.
【深部スロー地震の分類と主な特徴】 西南日本では、スロー地震が固着域の深部側と浅部側に分かれて活動する。先に発見された深部スロー地震は、時定数の違いによって4種類に大別される。①すべりが数か月から数年継続する長期的スロースリップイベント(SSE),②数日程度継続する短期的SSE,③卓越周期が数10秒の超低周波地震(VLF),④数Hz程度の低周波微動.このうち、短期的SSEとVLF,微動は時空間的に同期し(Episodic Tremor and Slip:ETS)、活動域は走向方向に細長く広がり、複数セグメントに分かれて周期的に活動する。長期的SSEはETSと固着域の間の細長い領域に分布し、やはりセグメント構造を有する.ETSを構成する微動とVLFの間の帯域は脈動のため検出は困難であったが、最近スタッキング解析により微動やVLFに同期したシグナルが検出され、スロー地震が広帯域に及ぶ連続的現象であることが確認された。
【浅部スロー地震の新たな発見】 固着域より浅部の南海トラフ近傍では,陸域観測網によるVLFの発見以降、海底地震計によって微動・VLFが、さらに掘削孔を活用した間隙水圧計によって短期的SSEが発見された。SSEによる圧力変化はVLF積算モーメントの時間変化とよく一致し、これらがETSとして一体的な現象であることを示している。また、音響GNSSによる海底地殻変動観測で長期的SSEも検出され、スロー地震の組み合わせが浅部と深部で共通することが分かった。浅部ではトラフ軸に沿って異なる種類のスロー地震やカップリングの強い領域が分布しており、浅部の方が深部より不均質が強いと言える。この浅部の強い不均質性は日本海溝でも共通かもしれない。
【世界のスロー地震】 環太平洋の多くの沈み込み帯では深部スロー地震、その中でも長期的SSEがよく検出されているが、西南日本以上にETSが活発なCascadiaでは長期的SSEが検出されていない.固着域より浅部側のスロー地震は、日本周辺以外ではコスタリカのみで検出されている。ニュージーランドでもヒクランギ沖の浅部でスロー地震が起きるが、これは固着域より深部側で房総SSEに似ている。これらのスロー地震の発生様式の違いは,沈み込み帯を比較・分類する新たな指標として注目されている。
【スロー地震と地下構造】 スロー地震活動は走向方向に不均質であり、その主な原因は震源付近の水と考えられる。例えば、深部微動には上盤への水の浸透の違いによるプレート境界付近の間隙水圧が影響し、また浅部VLFも低速度異常と一致することが示されている。一方、深部スロー地震は深さ方向に長期的SSEとETSに分かれるとともに、ETSはその狭い幅の中でも深いほど活動間隔が短い。このような深さ依存の系統的遷移性は、脆性延性の不均質性や粘性の温度依存性を考慮したモデルで説明可能である一方、長期的SSEとETSというすべり現象の急変は、上盤地質構造における大陸性下部地殻とマントルウェッジの違いによるとも考えられる。
【房総SSEのテクトニクス】 スロー地震の構造地質学的解釈は、房総SSEについてなされている。房総SSEは西南日本で頻発するSSEとは異なり、約1週間の継続期間で約6年間隔で発生し、すべり域の下端付近で通常の地震の群発活動を伴う。この周辺の地下構造探査データ再解析の結果、沈み込むプレートの最上層が剥がれて上盤の底部に付加する底付け作用が生じている領域がSSE域と一致したことから、SSEは力学境界が物質境界からプレート内部に遷移するステップダウンに伴う内部変形であると考えられる。
【スロー地震の地質学的メカニズム】氏家らは、メランジュ内に濃集したクラックシール石英脈が、数年以内の間隔で繰り返し発生した剪断・開口クラック破壊を記録しており、それがETSの微動であると推定した。この周期は観測結果と調和的であり、さらに過去のETSの履歴の推定が試みられている。これは、現状しか把握できない地球物理学的モニタリングに対して、時間軸を広げる重要な意義を有する。一方、それでも我々が取得しうるデータは現在のプレート境界に起きるスロー地震と地表露頭に記録されたスロー地震の化石だけであり、スロー地震の痕跡を連続的にトレースすることができれば、日本列島形成史の解明にも貢献するものと期待される。
【深部スロー地震の分類と主な特徴】 西南日本では、スロー地震が固着域の深部側と浅部側に分かれて活動する。先に発見された深部スロー地震は、時定数の違いによって4種類に大別される。①すべりが数か月から数年継続する長期的スロースリップイベント(SSE),②数日程度継続する短期的SSE,③卓越周期が数10秒の超低周波地震(VLF),④数Hz程度の低周波微動.このうち、短期的SSEとVLF,微動は時空間的に同期し(Episodic Tremor and Slip:ETS)、活動域は走向方向に細長く広がり、複数セグメントに分かれて周期的に活動する。長期的SSEはETSと固着域の間の細長い領域に分布し、やはりセグメント構造を有する.ETSを構成する微動とVLFの間の帯域は脈動のため検出は困難であったが、最近スタッキング解析により微動やVLFに同期したシグナルが検出され、スロー地震が広帯域に及ぶ連続的現象であることが確認された。
【浅部スロー地震の新たな発見】 固着域より浅部の南海トラフ近傍では,陸域観測網によるVLFの発見以降、海底地震計によって微動・VLFが、さらに掘削孔を活用した間隙水圧計によって短期的SSEが発見された。SSEによる圧力変化はVLF積算モーメントの時間変化とよく一致し、これらがETSとして一体的な現象であることを示している。また、音響GNSSによる海底地殻変動観測で長期的SSEも検出され、スロー地震の組み合わせが浅部と深部で共通することが分かった。浅部ではトラフ軸に沿って異なる種類のスロー地震やカップリングの強い領域が分布しており、浅部の方が深部より不均質が強いと言える。この浅部の強い不均質性は日本海溝でも共通かもしれない。
【世界のスロー地震】 環太平洋の多くの沈み込み帯では深部スロー地震、その中でも長期的SSEがよく検出されているが、西南日本以上にETSが活発なCascadiaでは長期的SSEが検出されていない.固着域より浅部側のスロー地震は、日本周辺以外ではコスタリカのみで検出されている。ニュージーランドでもヒクランギ沖の浅部でスロー地震が起きるが、これは固着域より深部側で房総SSEに似ている。これらのスロー地震の発生様式の違いは,沈み込み帯を比較・分類する新たな指標として注目されている。
【スロー地震と地下構造】 スロー地震活動は走向方向に不均質であり、その主な原因は震源付近の水と考えられる。例えば、深部微動には上盤への水の浸透の違いによるプレート境界付近の間隙水圧が影響し、また浅部VLFも低速度異常と一致することが示されている。一方、深部スロー地震は深さ方向に長期的SSEとETSに分かれるとともに、ETSはその狭い幅の中でも深いほど活動間隔が短い。このような深さ依存の系統的遷移性は、脆性延性の不均質性や粘性の温度依存性を考慮したモデルで説明可能である一方、長期的SSEとETSというすべり現象の急変は、上盤地質構造における大陸性下部地殻とマントルウェッジの違いによるとも考えられる。
【房総SSEのテクトニクス】 スロー地震の構造地質学的解釈は、房総SSEについてなされている。房総SSEは西南日本で頻発するSSEとは異なり、約1週間の継続期間で約6年間隔で発生し、すべり域の下端付近で通常の地震の群発活動を伴う。この周辺の地下構造探査データ再解析の結果、沈み込むプレートの最上層が剥がれて上盤の底部に付加する底付け作用が生じている領域がSSE域と一致したことから、SSEは力学境界が物質境界からプレート内部に遷移するステップダウンに伴う内部変形であると考えられる。
【スロー地震の地質学的メカニズム】氏家らは、メランジュ内に濃集したクラックシール石英脈が、数年以内の間隔で繰り返し発生した剪断・開口クラック破壊を記録しており、それがETSの微動であると推定した。この周期は観測結果と調和的であり、さらに過去のETSの履歴の推定が試みられている。これは、現状しか把握できない地球物理学的モニタリングに対して、時間軸を広げる重要な意義を有する。一方、それでも我々が取得しうるデータは現在のプレート境界に起きるスロー地震と地表露頭に記録されたスロー地震の化石だけであり、スロー地震の痕跡を連続的にトレースすることができれば、日本列島形成史の解明にも貢献するものと期待される。