13:45 〜 14:15
[T2-O-3] (招待講演)海底地すべり地形調査と非静水圧二層流モデルによる津波計算
キーワード:海底地すべり、津波、シミュレーション、二層流モデル
地震性津波は地震動を伴っているため揺れで津波の来襲を予期できるが,海底地すべりによる非地震性津波は地震動を伴わないか,あるいは弱いため,津波の来襲を見誤る恐れがある.我々は海底地すべりのリスク評価のため,海底地すべり痕の地形調査を実施しており,本発表ではこれまでに実施した調査結果について報告する.さらに,海底地すべり津波の予測を目的に開発した非静水圧二層流モデルを紹介する.
2009年に駿河湾内で発生したMw 6.5の地震では,地震規模から推定されるよりも大きい最大波高90cmの津波が焼津で観測された.駿河湾には静岡県が運用している駿河湾深層水取水施設が震源域にあり,地震を境に深層水の温度と濁度に急激な変化が見られた.その後,ROVを用いた海底調査により深層水取水管が海底地すべりによって破壊され下流に押し流されていることが明らかとなった.さらに,深海巡航探査機「うらしま」の海底付近からのマルチナロービーム測深により取得された水平分解能1mという超高分解能海底データから,取水管が流出した場所から約900m上流で,特徴的な地すべり地形である馬蹄形の滑落崖が見られた.馬蹄形の滑落崖の全長は約450m,比高は約10~15mであった.また,馬蹄形の滑落崖の南東方向にある緩い海底谷では,流れがあった痕跡も認められた.
四国室戸岬の東の沖の大陸棚と土佐ばえ北側で,神戸大学深江丸でマルチナロービーム測深を行った.測線間隔500mで測深し,結果として水平分解能25mでの海底地すべり地形データを取得した.調査海域の水深はおよそ400m~1800mである.大陸棚の海底地すべり痕では,4つの馬蹄形の崩壊跡が見られる.最大の崩壊跡の崩壊土砂体積はおよそ4.8km3である.海底地すべりによってできる斜面底部の崩壊堆積物が不明瞭であること,コア資料によれば約1万年前から現在まで海底堆積物が連続的に堆積していると解釈されるため,この大陸棚の地すべり痕は古いと思われる.一方,土佐ばえ北側斜面の痕跡の大きさは東西方向に約1.9km,南北方向に約2.3km,厚さ約60mであった.こちらの地すべり痕では舌状の崩壊堆積物が確認できる.開口性のリニアメントや,地すべり痕の上流側で新たな亀裂もあり,活動的であると解釈される.
海底地すべりによる津波の発生のモデル化は大きく分けて3つの方法がある.ひとつ目は何らかの方法で海水中の海底地すべりによる海底の変動を推定し,それを海面変化として津波計算に与える方法である.2つ目はWatts et al.(2005)によって提案された海底地すべり津波の発生モデルである.彼らは海底地すべり津波を模擬した水理実験と数値解析から海底地すべりによる初期水位分布の経験式を導いた.3つ目は,地すべり体と海水の運動とを双方向に連動させて解く二層流モデルである.先の2つの方法は静的な津波の発生だが,二層流モデルは上層と下層が相互に影響しながら計算が進む.海底地すべり津波では,上層が海水層に,下層が地すべり体(土石層)に対応する.土石層は海水よりも高密度な流体としてモデル化されている.このため,地すべり体も移動に伴って形状が変化する.二層流モデルでは,一般に波の波長が水深よりもかなり長いという静水圧近似が用いられているが,海底地すべりによる津波は地震による津波よりも波長が短く,非静水圧効果を無視できないはずである.そこで,本研究では,津波発生における非静水圧効果をKajiuraのフィルタ(Kajiura, 1963)を考慮することで,津波伝搬における非静水圧効果をブシネスク型の分散項を上層(海水層)に導入することで取り入れた.なお,Kajiuraのフィルタは,毎時間ステップに海水層と土石層をカップルしながら導入されている.Kajiuraのフィルタを考慮しない場合は,高速な土石層の移動により海面が大きく変動するが,フィルタを考慮した場合は滑らかな海面変動となった.また,我々が調査した四国室戸沖の海底地すべりを波源としたシミュレーションでは,津波の伝播過程における分散性も確認された.
引用文献
Kajiura, K. (1963), The leading wave of a tsunami, Bull. Earthquake Res. Inst., 41, 535–571.
Watts, P. (2005), Tsunami generation by submarine mass failure. II: predictive equations and case studies, J. Waterw. Port Coast. Ocean Eng., 131, 298–310.
2009年に駿河湾内で発生したMw 6.5の地震では,地震規模から推定されるよりも大きい最大波高90cmの津波が焼津で観測された.駿河湾には静岡県が運用している駿河湾深層水取水施設が震源域にあり,地震を境に深層水の温度と濁度に急激な変化が見られた.その後,ROVを用いた海底調査により深層水取水管が海底地すべりによって破壊され下流に押し流されていることが明らかとなった.さらに,深海巡航探査機「うらしま」の海底付近からのマルチナロービーム測深により取得された水平分解能1mという超高分解能海底データから,取水管が流出した場所から約900m上流で,特徴的な地すべり地形である馬蹄形の滑落崖が見られた.馬蹄形の滑落崖の全長は約450m,比高は約10~15mであった.また,馬蹄形の滑落崖の南東方向にある緩い海底谷では,流れがあった痕跡も認められた.
四国室戸岬の東の沖の大陸棚と土佐ばえ北側で,神戸大学深江丸でマルチナロービーム測深を行った.測線間隔500mで測深し,結果として水平分解能25mでの海底地すべり地形データを取得した.調査海域の水深はおよそ400m~1800mである.大陸棚の海底地すべり痕では,4つの馬蹄形の崩壊跡が見られる.最大の崩壊跡の崩壊土砂体積はおよそ4.8km3である.海底地すべりによってできる斜面底部の崩壊堆積物が不明瞭であること,コア資料によれば約1万年前から現在まで海底堆積物が連続的に堆積していると解釈されるため,この大陸棚の地すべり痕は古いと思われる.一方,土佐ばえ北側斜面の痕跡の大きさは東西方向に約1.9km,南北方向に約2.3km,厚さ約60mであった.こちらの地すべり痕では舌状の崩壊堆積物が確認できる.開口性のリニアメントや,地すべり痕の上流側で新たな亀裂もあり,活動的であると解釈される.
海底地すべりによる津波の発生のモデル化は大きく分けて3つの方法がある.ひとつ目は何らかの方法で海水中の海底地すべりによる海底の変動を推定し,それを海面変化として津波計算に与える方法である.2つ目はWatts et al.(2005)によって提案された海底地すべり津波の発生モデルである.彼らは海底地すべり津波を模擬した水理実験と数値解析から海底地すべりによる初期水位分布の経験式を導いた.3つ目は,地すべり体と海水の運動とを双方向に連動させて解く二層流モデルである.先の2つの方法は静的な津波の発生だが,二層流モデルは上層と下層が相互に影響しながら計算が進む.海底地すべり津波では,上層が海水層に,下層が地すべり体(土石層)に対応する.土石層は海水よりも高密度な流体としてモデル化されている.このため,地すべり体も移動に伴って形状が変化する.二層流モデルでは,一般に波の波長が水深よりもかなり長いという静水圧近似が用いられているが,海底地すべりによる津波は地震による津波よりも波長が短く,非静水圧効果を無視できないはずである.そこで,本研究では,津波発生における非静水圧効果をKajiuraのフィルタ(Kajiura, 1963)を考慮することで,津波伝搬における非静水圧効果をブシネスク型の分散項を上層(海水層)に導入することで取り入れた.なお,Kajiuraのフィルタは,毎時間ステップに海水層と土石層をカップルしながら導入されている.Kajiuraのフィルタを考慮しない場合は,高速な土石層の移動により海面が大きく変動するが,フィルタを考慮した場合は滑らかな海面変動となった.また,我々が調査した四国室戸沖の海底地すべりを波源としたシミュレーションでは,津波の伝播過程における分散性も確認された.
引用文献
Kajiura, K. (1963), The leading wave of a tsunami, Bull. Earthquake Res. Inst., 41, 535–571.
Watts, P. (2005), Tsunami generation by submarine mass failure. II: predictive equations and case studies, J. Waterw. Port Coast. Ocean Eng., 131, 298–310.