日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R19[レギュラー]応用地質学一般およびノンテクトニック構造

[1ch214-18] R19[レギュラー]応用地質学一般およびノンテクトニック構造

2021年9月4日(土) 14:30 〜 15:45 第2 (第2)

座長:山崎 新太郎、西山 賢一

15:30 〜 15:45

[R19-O-5] 東京都区部の3次元地質地盤図に基づく地盤の類型化と地盤震動特性

*中澤 努1、長 郁夫1、小松原 純子1、納谷 友規1、野々垣 進1、宮地 良典1、尾崎 正紀1、坂田 健太郎1、中里 裕臣2、鈴木 毅彦3、中山 俊雄4 (1. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター、2. 農研機構農村工学研究部門、3. 東京都立大学、4. 東京都土木技術支援・人材育成センター)

キーワード:第四紀、層序、埋没谷、地盤震動特性、東京都区部

近年,首都圏の地下浅部の地質層序・堆積相の研究がすすみ,その成果をもとに3次元地質モデリングが実施され,2021年5月には東京都区部の3次元地質地盤図[URL1]が公開された.今回演者らは,この3次元地質地盤図で示された地質層序・堆積相構成をもとに東京都区部の地盤を類型化し,それぞれの地盤について常時微動観測を行うことで,地盤類型区分に対応した地盤震動特性の把握を試みたので報告する.
武蔵野台地東部の地下浅部に分布する“東京層”は,土木建築工事の基礎工事や地下水流動など応用地質学的な観点から古くから関心が持たれているが,“東京層”の層序,形成年代については長らく不明であった.都市域の地質地盤図「東京都区部」では,武蔵野台地東部の“東京層”を,層相,テフラ,花粉化石群集などをもとに再検討した結果(中澤ほか,2019,2020;納谷ほか,2020など),従来“東京層”と一括りにされていた地層には,時代の異なる複数の海進–海退サイクルが混在していることが明らかとなり,それらは薮層(MIS 9),上泉層(MIS 7e),東京層(MIS 5e)に区分された.このうち東京層(MIS 5e)は下部と上部に分かれ,下部は開析谷を埋積する主に軟らかい泥層からなる.今回,膨大なボーリングデータをもとに3次元地質モデリングを実施することで,現地形からは分からない東京層(MIS 5e)の谷埋め泥層の分布を抽出することができた.この東京層の谷埋め泥層の分布域で常時微動観測を実施したところ,地盤震動の増幅特性を示すとされるH/Vスペクトルには1〜2 Hzとやや低周波に明瞭なピークが認められた.特に含泥率がほぼ100%の泥層の層厚が20 m以上に達する世田谷地域の埋没谷では1 Hzに明瞭なピークが認められた.一方,この開析谷の分布域以外の地域では同深度に薮層,上泉層の海成の砂層を主体とする地層が分布する.このような地域ではH/Vスペクトルに4 Hzとやや高周波にピークが認められた.このように武蔵野台地においても地下の地質状況,特に谷埋め泥層の分布を反映して地盤震動特性が場所により大きく異なることが明らかになった.
東京低地の沖積層については大正関東地震直後の復興局の先駆的な調査以降,層序学的,堆積学的,応用地質学的な研究が数多く行われてきた.東京低地下の沖積層は,河川やエスチュアリー成の礫層や砂泥互層からなる七号地層と,その上位の内湾成の軟らかい泥層を主体とする有楽町層に区分されることが多い.
都市域の地質地盤図「東京都区部」では,膨大なボーリングデータを使用して,これまでにない極めて詳細な沖積層基底の形状を明らかにした.沖積層基底に相当する埋没地形は,埋没谷底と埋没平坦面1〜4に区分される.ここでは埋没谷底を軸とし,その右岸側の埋没平坦面2及び埋没平坦面1,左岸側の埋没平坦面1を横断する東西測線上(上野〜小岩測線)にて常時微動観測を行った.その結果,埋没谷底や埋没平坦面2に相当する地域ではいずれも1 Hz付近にピークをもつH/Vスペクトルが得られた.この測線に沿う埋没平坦面1, 2及び埋没谷底相当地域の平均深度はそれぞれ10, 30, 60 m程度であるが,埋没谷底相当地域には,礫層や砂泥互層からなる七号地層が30 m程度の厚さで分布する.沖積層が厚い埋没谷底相当地域とそれよりも沖積層が薄い埋没平坦面2相当地域でピーク周波数が同程度となったのは,埋没谷底相当地域のピーク生成が沖積層基底ではなく,およそ七号地層と有楽町層の境界に由来するためと考えられる.実際,埋没平坦面2相当地域のピークは極めて明瞭だが,埋没谷底相当地域ではピークは幅の広いなだらかな山状となった.これは埋没平坦面2相当地域では埋没段丘礫層と沖積層(有楽町層相当)の物性のコントラストが極めて大きい一方で,埋没谷底相当地域における七号地層と有楽町層の物性コントラストはそれほどまでには大きくないことに対応している.他方,埋没平坦面1相当地域のH/Vスペクトルは高周波まで比較的フラットな特性を示した.これは平坦面が浅く,沖積層が薄いためと考えられ,低地でありながら,場所によりAVS30(深度30 mまでの平均S波速度)はローム層が厚い台地よりも大きい値を示した.
このように層序・堆積相の再検討と3次元地質モデリングにより地盤の類型化が可能となり,地盤類型区分ごとの地盤震動特性を知ることで,都市平野部の地震ハザード予測の効率化と高精度化が図られるものと期待される.
文献
中澤ほか(2019)地質雑,125,367–385.
中澤ほか(2020)地調研報,71,19–32.
納谷ほか(2020)地質雑,126,575–587.
[URL1] 都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/