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[R2-O-2] (ハイライト)谷川岳石英閃緑岩体のジルコンU–Pb年代:新たな標準試料としてのポテンシャル
キーワード:ジルコンU-Pb年代、標準試料、谷川岳石英閃緑岩
世話人からのハイライト紹介:ジルコンのウラン鉛年代測定は広く普及しているが、データの質の保証には2次標準試料が不可欠である。特に日本列島のような若い造山帯の地質研究では若い年代の標準試料ジルコンが重要で、既存のものでは川本花崗閃緑岩体ジルコン(OD-3, 33 Ma)が挙げられる。本発表は、さらに若い約3 Maの標準試料の候補として検討した谷川岳石英閃緑岩体のジルコン年代測定結果と岩石学的特徴を報告する。参考:ハイライトについて
1. はじめに
ジルコンのU–Pb年代測定は,特に近年のLA-ICP-MSの技術向上とともに大きく発達し,世界中に広く普及している年代測定のひとつである.その測定時には年代値を評価するための標準試料が,重要な役割を果たしている.世界的に普及している標準ジルコンとしては91500 [1]やPlešovice [2]などが挙げられる.近年では新生代の年代を示す若いジルコンも測定の対象となり,1 Maよりも若いジルコンが報告されている例も多い.国内ではOD-3 [3]が標準ジルコンとして普及しているが,10 Maよりも若い低Pb濃度のジルコンを評価するための標準試料は存在しない.本研究では中部日本に分布する鮮新世深成岩体の中から,標準ジルコンとなり得る岩石(TNG1)を採取し,若い標準ジルコンの確立を目指して年代測定をおこなっている.本発表ではその結果を報告し,TNG1の標準ジルコンとしてのポテンシャルを議論する.
2. 地質概説およびサンプル記載
サンプリングをおこなった谷川岳石英閃緑岩は新潟・群馬県境に位置し,主に中粒の石英閃緑岩~花崗閃緑岩からなる [4].本岩体からは3.91 ± 0.27 Maから3.10 ± 0.39 Maの黒雲母K–Ar年代[5, 6]と4.4–1.9 MaのジルコンFT年代[7]が報告されている.採取されたサンプル(TNG1)は変質を被っていない中粒の花崗閃緑岩で,斜長石,石英,カリ長石,黒雲母,角閃石,直方輝石,単斜輝石および鉄–チタン酸化物からなる.それ以外にアパタイトおよびジルコンが副成分鉱物として含まれる.
3. ジルコンU–Pb年代
採取したサンプル(TNG1)を粉砕し,水簸,パンニング,磁選,重液分離を通してジルコンを分離した(約100 gで100粒以上).分離したジルコンをエポキシ樹脂にマウントし,カソードルミネッセンス(CL)像を撮影した上で,新潟大学理学部地質科学教室設置の213nm ND-YAGレーザーアブレーションシステムを連結したquadrupole ICP-MSでジルコンU–Pb年代を測定した. TNG1のジルコンの最大径はおよそ300 μmに及び,顕著な波動累帯を示す粒子は少なく弱い累帯を示すものが多い.U–Pb年代を測定した粒子(n = 28)のうち75%がコンコーダントと判断され,3.42 ± 0.08 Ma(MSWD = 2.2;probability fit = 0.2%)の238U–206Pb加重平均年代を得た.
4. 標準試料としてのポテンシャル
得られたジルコンの組織や年代値は,TNG1が年代的に均質であり,年代値が非常に良くまとまっていることを示唆している.[2]はジルコンの標準試料に要求される6つの条件を示しているが,それに従えばTNG1は新たな標準試料としてのポテンシャルがあると言える.①「Pb/U同位体比の均質でよくまとまること」:年代値の誤差は小さく,年代値の良いまとまりを示している.②「普遍鉛が少ないこと」:75%の粒子がコンコーダントと判断され,普遍鉛は少ないと考えられる.③「測定に適したU濃度」:U濃度は未測定なものの,測定に十分なシグナルが得られた.④「結晶構造が測定に適したものであること」:メタミクト化などは受けていないため,測定に適している.⑤「複数回の測定が可能な粒子の大きさ」:単粒子としては非常に大きいものではないものの,複数回測定することは可能である.⑥「一般に広く普及できること」:露頭規模も大きく,サンプルの枯渇はしばらく発生しないと考えられる.また,新潟大学に充分な試料を保管している.以上からTNG1は,新たな標準ジルコンとしてポテンシャルがあるサンプルであると考えられる.しかしながら,ジルコンのスタンダードとして確立するためには,同位体非平衡補正や他の手法(例えばMC-ICP-MSやSHRIMPなど)での更なる測定が望まれる.
(補足)サンプルが必要な方は第一著者(yamada.raiki.geo@gmail.com)宛てに連絡をください.
引用文献 [1] Wiedenbeck et al. (1995) Geostand. Geoanalytical Res., 19, 1–23. [2] Sláma et al. (2008) Chem. Geol., 249, 1–35. [3] Iwano et al. (2013) Isl. Arc 22, 382–394. [4] 茅原ほか(1981)5万分の1地質図幅「越後湯沢」および同説明書. [5] 川野ほか(1992)岩鉱,87,221–225. [6] 佐藤(2016)群馬県立自然史博物館研究報告,20,85–104. [7] 雁沢・久保田(1987)第94年地質学会要旨,194.
ジルコンのU–Pb年代測定は,特に近年のLA-ICP-MSの技術向上とともに大きく発達し,世界中に広く普及している年代測定のひとつである.その測定時には年代値を評価するための標準試料が,重要な役割を果たしている.世界的に普及している標準ジルコンとしては91500 [1]やPlešovice [2]などが挙げられる.近年では新生代の年代を示す若いジルコンも測定の対象となり,1 Maよりも若いジルコンが報告されている例も多い.国内ではOD-3 [3]が標準ジルコンとして普及しているが,10 Maよりも若い低Pb濃度のジルコンを評価するための標準試料は存在しない.本研究では中部日本に分布する鮮新世深成岩体の中から,標準ジルコンとなり得る岩石(TNG1)を採取し,若い標準ジルコンの確立を目指して年代測定をおこなっている.本発表ではその結果を報告し,TNG1の標準ジルコンとしてのポテンシャルを議論する.
2. 地質概説およびサンプル記載
サンプリングをおこなった谷川岳石英閃緑岩は新潟・群馬県境に位置し,主に中粒の石英閃緑岩~花崗閃緑岩からなる [4].本岩体からは3.91 ± 0.27 Maから3.10 ± 0.39 Maの黒雲母K–Ar年代[5, 6]と4.4–1.9 MaのジルコンFT年代[7]が報告されている.採取されたサンプル(TNG1)は変質を被っていない中粒の花崗閃緑岩で,斜長石,石英,カリ長石,黒雲母,角閃石,直方輝石,単斜輝石および鉄–チタン酸化物からなる.それ以外にアパタイトおよびジルコンが副成分鉱物として含まれる.
3. ジルコンU–Pb年代
採取したサンプル(TNG1)を粉砕し,水簸,パンニング,磁選,重液分離を通してジルコンを分離した(約100 gで100粒以上).分離したジルコンをエポキシ樹脂にマウントし,カソードルミネッセンス(CL)像を撮影した上で,新潟大学理学部地質科学教室設置の213nm ND-YAGレーザーアブレーションシステムを連結したquadrupole ICP-MSでジルコンU–Pb年代を測定した. TNG1のジルコンの最大径はおよそ300 μmに及び,顕著な波動累帯を示す粒子は少なく弱い累帯を示すものが多い.U–Pb年代を測定した粒子(n = 28)のうち75%がコンコーダントと判断され,3.42 ± 0.08 Ma(MSWD = 2.2;probability fit = 0.2%)の238U–206Pb加重平均年代を得た.
4. 標準試料としてのポテンシャル
得られたジルコンの組織や年代値は,TNG1が年代的に均質であり,年代値が非常に良くまとまっていることを示唆している.[2]はジルコンの標準試料に要求される6つの条件を示しているが,それに従えばTNG1は新たな標準試料としてのポテンシャルがあると言える.①「Pb/U同位体比の均質でよくまとまること」:年代値の誤差は小さく,年代値の良いまとまりを示している.②「普遍鉛が少ないこと」:75%の粒子がコンコーダントと判断され,普遍鉛は少ないと考えられる.③「測定に適したU濃度」:U濃度は未測定なものの,測定に十分なシグナルが得られた.④「結晶構造が測定に適したものであること」:メタミクト化などは受けていないため,測定に適している.⑤「複数回の測定が可能な粒子の大きさ」:単粒子としては非常に大きいものではないものの,複数回測定することは可能である.⑥「一般に広く普及できること」:露頭規模も大きく,サンプルの枯渇はしばらく発生しないと考えられる.また,新潟大学に充分な試料を保管している.以上からTNG1は,新たな標準ジルコンとしてポテンシャルがあるサンプルであると考えられる.しかしながら,ジルコンのスタンダードとして確立するためには,同位体非平衡補正や他の手法(例えばMC-ICP-MSやSHRIMPなど)での更なる測定が望まれる.
(補足)サンプルが必要な方は第一著者(yamada.raiki.geo@gmail.com)宛てに連絡をください.
引用文献 [1] Wiedenbeck et al. (1995) Geostand. Geoanalytical Res., 19, 1–23. [2] Sláma et al. (2008) Chem. Geol., 249, 1–35. [3] Iwano et al. (2013) Isl. Arc 22, 382–394. [4] 茅原ほか(1981)5万分の1地質図幅「越後湯沢」および同説明書. [5] 川野ほか(1992)岩鉱,87,221–225. [6] 佐藤(2016)群馬県立自然史博物館研究報告,20,85–104. [7] 雁沢・久保田(1987)第94年地質学会要旨,194.