14:00 〜 14:15
[R2-O-5] オマーンオフィオライトの蛇紋岩化した地殻―マントル境界におけるFe(III)の分布
キーワード:蛇紋岩、マグネタイト、Fe(III)、オマーンオフィオライト
海洋リソスフェアにおける蛇紋岩化作用は、かんらん石中のFe(II)を酸化すると同時に水を還元して水素を発生する。この反応は、酸素の乏しい海洋底の生物圏においてエネルギーを供給する重要なプロセスである。蛇紋岩化作用に伴って生成するFe(III)を含む主要鉱物は磁鉄鉱であるが、海洋底試料の磁化率は、必ずしも密度変化(蛇紋岩化作用の進行度)と線形的な相関があるわけではない(Fujii et al., 2016)。その1つの要因として、蛇紋石にはFe(III)が固溶することが指摘されているが、測定の煩雑さなどのために、その系統性はいまだによくわかっていない。本研究では、オマーンオフィオライトの陸上掘削で得られた地殻-マントル境界の試料(CM1A, CM2B)について、含水量測定、組織観察とともに、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設(Photon Factory)においてX線吸収分光の測定を実施した.粉末試料でのバルク測定(at BL12C)、薄片試料でのマッピング測定(解像度~20ミクロン,at BL15A1)により,Fe(III)/Fe(total)の比率とその分布を決定した。また、磁化率の測定結果と合わせて、数百メートルからマイクロスケールでのFe(III)の分布について考察する。CM1Aは下部地殻-地殻マントル遷移帯―上部マントルを貫く400mのコアであり、CM2Bは地殻マントル遷移帯から上部マントルにかけての300mのコアである。どちらも著しく蛇紋岩化作用が進んでおり、はんれい岩中のかんらん石は10-70%程度、地殻マントル遷移帯のダナイトはほぼ100%, 上部マントルのハルツバージャイトは70-80%程度蛇紋岩化作用が進んでいる(Kelemen et al., 2021; Yoshida et al., 2020)。全ての岩相において、メッシュ組織などを形成しながら浸透的に蛇紋岩化作用を起こしているのはリザダイト+ブルース石+磁鉄鉱であるが、CM1Aでの遷移帯中のダナイトには、特徴的なアンチゴライト脈のネットワークが形成されている。このアンチゴライト脈は、しばしばその周辺にブルース石の反応帯を持ち、磁鉄鉱が濃集している。バルクのFe(III)/Fe(total)比は含水量(LOI )が増加するほど線形的に増加し、はんれい岩で0.2-0.4, ハルツバージャイトで0.35-0.6、ダナイトで0.45-0.65 であった。また、Fe(III)/Fe(total)のマッピング測定の結果、リザダイトで0.3-0.4、アンチゴライト脈で0.2-0.3と,オマーンオフィオライトの蛇紋石の中にも相当量のFe(III)が含まれることが明らかとなった。一方で、磁化率から得られた磁鉄鉱の量とLOIの関係を見ると、蛇紋岩化作用が進行度はほぼ変わらなくても、ダナイト(2-9 wt%)の方がハルツバージャイト(0-3wt%)よりも磁鉄鉱の量が多く、ダナイトの中で磁鉄鉱の量は大きなバリエーションがあることがわかった。また、全岩のFe総量を合わせて考えると、ダナイトにおいては、Fe(III)は主に磁鉄鉱に含まれて存在し、ハルツバージャイトでは主に蛇紋石に存在していることがわかった。以上のことから、ハルツバージャイトを主とする上部マントルでは蛇紋岩化作用によって磁鉄鉱は出来にくいが、Fe(III)蛇紋石を生成することによって水素を発生するポテンシャルを持っている。一方で、ダナイトは、磁鉄鉱を作りながら蛇紋岩化作用が激しく進行している。一部、磁化率のばらつきは、オブダクションのステージの局所的な流体流入に伴うアンチゴライト脈の形成時期に、磁鉄鉱の溶解析出により不均質な分布を作っているためであると考えられる。Fujii, M., Okino, et al., 2016. Geocemistry, Geophysics, Geosystems, 17, 5024-5035.Kelemen, P.B., Matter, I.M., et al. 2020. Proceedings of the Oman Drilling Project, doi.org/10.14379/OmanDP.proc.2020.Yoshida, K., Okamoto, A., et al., 2020. Journal of Geophysical Research, solid earth 125, doi.org/10.1029/2020JB020268