09:45 〜 10:00
[T4-O-6] 始新世日本に起きた2回の地殻改変イベント:古第三系砂岩の後背地年代解析からの予察
キーワード:前弧盆地、古第三紀、後背地、砕屑性ジルコン、三波川変成岩、中央構造線
中新世に起きた日本海の拡大は現在の列島の形を決めた主要なイベントであったが、その直前の古第三紀の古地理の詳細については未解明の点が多く残されている。とくに低温高圧型三波川変成岩の最初の地表露出(成田ほか, 1999)および低角度の古中央構造線(plaeo-MTL; 磯﨑・丸山, 1991)の活動開始の時期がともに始新世であったと推定されている(長谷川ほか, 2019; 磯﨑ほか, 2020; 中野ほか, 2021)。演者らの研究グループは弧-海溝系の構成要素が比較的良く保存されている白亜紀に注目し、当時の火山弧周辺および前弧で堆積した砂岩の後背地の変遷を砕屑性ジルコン年代の大量測定によって解明してきた(Aoki et al., 2014; 中畑ほか, 2016; 堤ほか, 2018; 長谷川ほか, 2018; 石坂ほか, 2021など)。10,000粒を越すジルコン年代測定の結果、白亜紀日本の後背地の地殻構成が、先白亜紀付加体などの多様な地質体の組み合わせからほぼ白亜紀の火成岩類のみへと、白亜紀中葉アルビアンに非可逆的に変化したことが明示された(長谷川ほか, 2020)。またこの体制は古第三紀暁新世まで継続し、白亜紀中葉(100 Ma)から暁新世末(56 Ma)までの約4500万年間は極めて安定した前弧堆積場が存続したたことも確認された(磯﨑ほか, 2020; 中野ほか, 2021)。
一方、その直後の始新世および漸新世での後背地地殻の変遷については、これまで年代情報が不足していた。そこで、演者らは日本各地に産するこれらの年代の前弧砂岩について検討を進めている。本発表では、九州天草の始新統弥勒・本渡層群、山口西部の漸新統日置層群・幡生層、四国西部の始新統ひわだ峠礫岩と平田層、そして北海道中央部の始新統石狩層群から得られた結果について予察的に考察する。
各地層から採取した砂岩中の砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定(最若粒子の年代:YSGおよび1σYC)の結果、平田層は漸新統最上部、また幡生層はおそらく始新統と、各々従来とは異なる堆積年代が判明した。さらに年代スペクトルを比較した結果、始新世に明瞭な2回の後背地地殻構成の変化が検出された。すなわち、白亜紀後期から暁新世まで、前弧域にほとんど供給されていなかった先白亜紀(ジュラ紀、石炭・ペルム・三畳紀、原生代前期)の古期粒子が始新世前期に流入し始め、さらに始新世後半には原生代後期粒子が前弧に流入し始めた。前者は、それまで後背地に支配的に露出していた白亜紀火成岩類に加えて、おそらくその下位のジュラ紀付加体も地表砕剝され、古期粒子がリサイクルされたことを、また後者は、さらに大陸(大・南中国地塊西側の揚子ブロック)から新たな種類の砕屑物が直接供給された始めたことを記録している。前者は、始新世最前期に三波川変成岩が最初に地表露出したタイミングであり(成田ほか, 1999)、変成岩の構造的上位に累重していたジュラ紀付加体の地表削剝を示している。これはKubota et al. (2020)が指摘した正断層活動の時期とよく一致する。一方、後者は初生的な低角度MTLが活動を開始した時期、またKubota et al. (2020)が先砥部時階と呼んだ逆断層活動の時期にあたる。おそらく弧地殻の大陸側部分が長距離海洋側へ移動した時期と推定される。その後、中新世直前まで同様大陸地殻からの古期砕屑粒子の流入が継続した。
これまで年代データの不足から詳細不明であった日本海拡大直前の日本の弧-海溝系の前弧地殻変遷について、砂岩の砕屑物の年代組成の変化から初めて具体的な議論が可能となりつつある。
文献: Aoki et al. (2014) Terra Nova 28, 139-149; 長谷川ほか(2019, 2020) 地学雑 128, 391-417, 129, 397-421; 石坂ほか(2021) 地学雑 130, 63-83; 磯﨑ほか(2020) 地質雑 126, 639-644; 磯﨑・丸山(1991) 地学雑 100, 697-761; Kubota, Y. et al. (2020) Tectonics, 39, e2018TC005372; 中畑ほか(2016) 地学雑 125, 353-380; 中野ほか(2021 印刷中) 地学雑 130; 成田ほか(1999) 地質雑 105, 305-308; 堤ほか (2018) 地学雑 127, 21-51.
一方、その直後の始新世および漸新世での後背地地殻の変遷については、これまで年代情報が不足していた。そこで、演者らは日本各地に産するこれらの年代の前弧砂岩について検討を進めている。本発表では、九州天草の始新統弥勒・本渡層群、山口西部の漸新統日置層群・幡生層、四国西部の始新統ひわだ峠礫岩と平田層、そして北海道中央部の始新統石狩層群から得られた結果について予察的に考察する。
各地層から採取した砂岩中の砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定(最若粒子の年代:YSGおよび1σYC)の結果、平田層は漸新統最上部、また幡生層はおそらく始新統と、各々従来とは異なる堆積年代が判明した。さらに年代スペクトルを比較した結果、始新世に明瞭な2回の後背地地殻構成の変化が検出された。すなわち、白亜紀後期から暁新世まで、前弧域にほとんど供給されていなかった先白亜紀(ジュラ紀、石炭・ペルム・三畳紀、原生代前期)の古期粒子が始新世前期に流入し始め、さらに始新世後半には原生代後期粒子が前弧に流入し始めた。前者は、それまで後背地に支配的に露出していた白亜紀火成岩類に加えて、おそらくその下位のジュラ紀付加体も地表砕剝され、古期粒子がリサイクルされたことを、また後者は、さらに大陸(大・南中国地塊西側の揚子ブロック)から新たな種類の砕屑物が直接供給された始めたことを記録している。前者は、始新世最前期に三波川変成岩が最初に地表露出したタイミングであり(成田ほか, 1999)、変成岩の構造的上位に累重していたジュラ紀付加体の地表削剝を示している。これはKubota et al. (2020)が指摘した正断層活動の時期とよく一致する。一方、後者は初生的な低角度MTLが活動を開始した時期、またKubota et al. (2020)が先砥部時階と呼んだ逆断層活動の時期にあたる。おそらく弧地殻の大陸側部分が長距離海洋側へ移動した時期と推定される。その後、中新世直前まで同様大陸地殻からの古期砕屑粒子の流入が継続した。
これまで年代データの不足から詳細不明であった日本海拡大直前の日本の弧-海溝系の前弧地殻変遷について、砂岩の砕屑物の年代組成の変化から初めて具体的な議論が可能となりつつある。
文献: Aoki et al. (2014) Terra Nova 28, 139-149; 長谷川ほか(2019, 2020) 地学雑 128, 391-417, 129, 397-421; 石坂ほか(2021) 地学雑 130, 63-83; 磯﨑ほか(2020) 地質雑 126, 639-644; 磯﨑・丸山(1991) 地学雑 100, 697-761; Kubota, Y. et al. (2020) Tectonics, 39, e2018TC005372; 中畑ほか(2016) 地学雑 125, 353-380; 中野ほか(2021 印刷中) 地学雑 130; 成田ほか(1999) 地質雑 105, 305-308; 堤ほか (2018) 地学雑 127, 21-51.