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[R5-O-3] 東京都区部武蔵野台地地下の薮層基底面にみられる段差状分布の成因
キーワード:東京層、東京礫層、中部更新統、層序、堆積相
はじめに
産総研では2021年5月に東京都区部の3次元地質地盤図を公開した[URL1].東京都区部の地質地盤図では,層序ボーリングの解析結果に基づき層序区分を更新し,従来“東京層”と呼ばれていた地層の大部分が,下総層群の薮層に相当することが示された.また,従来“東京礫層”と呼ばれていた礫層のかなりの部分が薮層基底の礫層であることが分かってきた.
東京都区部の武蔵野台地における薮層基底の標高は,台地の西側で高く,台地の南側では東に向かって,台地の北側では北東に向かって低くなり,大局的には現在の台地面の標高分布と似た傾向を示す.一方で,薮層基底には標高が急変する部分があり,基底面が複数の平坦面から構成されているようにも見える場所がある.“東京礫層”に分布深度が急変する場所があることは以前から指摘されており,地下に伏在する断層など,地質構造を推定する根拠とされることもあった(例えば,豊蔵ほか,2007).従って,礫層の標高変化に関しては,礫層の形成年代を含め,その分布形態の成因を慎重に検討することが重要である.
本研究では薮層基底礫層分布の成因を明らかにするために,ボーリングコアの層相,珪藻化石,テフラ対比に基づき,各ボーリング地点の堆積環境と堆積当時の地形条件を検討した.さらに,ボーリング柱状図データにより堆積相分布を側方へ追跡することにより,千代田区と台東区の間に見られる,急変する礫層分布の成因を考察した.
薮層の堆積相の特徴
ボーリングコアにみられる武蔵野台地地下の薮層は,礫層及び泥層からなる下部と,主に砂層からなる上部に分けられる.
上部の層相は各地点で類似しており,基底部は貝殻片を含む砂層からなり,その上位は淘汰の良い極細粒〜細粒砂が重なり,さらに上部では白斑状生痕化石(Macaronichnus segregatis)が観察される.これらは外浜〜前浜・後浜の堆積物と考えられ,上部の下面は,外浜侵食によって形成されたラビンメント面と解釈される.
下部は地点によってその層相と層厚が大きく異なる.台東区上野公園や板橋区大山では,最下部の礫層の上に層厚約10 mの内湾成の泥層と泥質砂層が重なる.千代田区紀尾井町では,礫層の上に層厚約2 mの淡水成の泥層と泥炭層が重なる.江東区有明では礫層を欠き,下位の地蔵堂層の前浜堆積物の上に,層厚約2 mの内湾成泥層が直接重なる.
薮層基底地形と礫層分布の成因
堆積相の特徴から,基底部に礫層を伴う厚い泥層は,低海水準期に形成された谷地形が海水準の上昇に伴って内湾化して形成された谷埋め堆積物と考えられる.一方,礫層を伴う薄い淡水成泥層も谷埋め堆積物と考えられるが,その堆積場は海水準よりも高かったと考えられる.つまり,礫層や泥層の標高差は,堆積当時から存在した可能性が高い.
ボーリング柱状図データに基づけば,紀尾井町と上野公園の間の薮層下部の基底は,深度が異なる2つの平坦面から構成される.紀尾井町の平坦面は浅く,上野公園の平坦面はやや深く,2つの平坦面の境界付近では礫層の深度が急変する.一方で,砂層からなる薮層上部の基底面(ラビンメント面)には,礫層の深度が急変する地点において,大きな標高の変化は認められない.
これらの堆積相の分布から,紀尾井町と上野公園間にみられる薮層基底の2つの平坦面は,東京低地の地下の埋没段丘のような,薮層基底の開析谷内に発達した異なる段丘面であると考えられる.この解釈に従えば,少なくとも千代田区と台東区に間に見られる薮層基底礫層の段差構造は,断層によって形成された可能性は低く,当時の地形を反映したものである.
低地に位置する江東区有明のボーリングコアでは薮層の基底に礫層が分布しないことから,この地点では開析谷は形成されなかったことを示す.現時点では,低地の地下まで薮層基底の礫層の分布を追跡できていないが,薮層の開析谷の縁で礫層は不連続になることが予想される.
以上の検討から,薮層基底の礫層の分布は,堆積当時の地形を反映して,かなり複雑である可能性が示された.この結果は,礫層の分布を利用して地質構造を推定する際には,礫層の形成年代だけではなく,過去の地形の条件なども総合的に考慮して判断する必要性を示唆している.
文献
[URL1] 産総研地質調査総合センター・東京都土木技術支援・人材育成センター,都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/
豊蔵ほか(2007)地学雑誌,116,410–430.
産総研では2021年5月に東京都区部の3次元地質地盤図を公開した[URL1].東京都区部の地質地盤図では,層序ボーリングの解析結果に基づき層序区分を更新し,従来“東京層”と呼ばれていた地層の大部分が,下総層群の薮層に相当することが示された.また,従来“東京礫層”と呼ばれていた礫層のかなりの部分が薮層基底の礫層であることが分かってきた.
東京都区部の武蔵野台地における薮層基底の標高は,台地の西側で高く,台地の南側では東に向かって,台地の北側では北東に向かって低くなり,大局的には現在の台地面の標高分布と似た傾向を示す.一方で,薮層基底には標高が急変する部分があり,基底面が複数の平坦面から構成されているようにも見える場所がある.“東京礫層”に分布深度が急変する場所があることは以前から指摘されており,地下に伏在する断層など,地質構造を推定する根拠とされることもあった(例えば,豊蔵ほか,2007).従って,礫層の標高変化に関しては,礫層の形成年代を含め,その分布形態の成因を慎重に検討することが重要である.
本研究では薮層基底礫層分布の成因を明らかにするために,ボーリングコアの層相,珪藻化石,テフラ対比に基づき,各ボーリング地点の堆積環境と堆積当時の地形条件を検討した.さらに,ボーリング柱状図データにより堆積相分布を側方へ追跡することにより,千代田区と台東区の間に見られる,急変する礫層分布の成因を考察した.
薮層の堆積相の特徴
ボーリングコアにみられる武蔵野台地地下の薮層は,礫層及び泥層からなる下部と,主に砂層からなる上部に分けられる.
上部の層相は各地点で類似しており,基底部は貝殻片を含む砂層からなり,その上位は淘汰の良い極細粒〜細粒砂が重なり,さらに上部では白斑状生痕化石(Macaronichnus segregatis)が観察される.これらは外浜〜前浜・後浜の堆積物と考えられ,上部の下面は,外浜侵食によって形成されたラビンメント面と解釈される.
下部は地点によってその層相と層厚が大きく異なる.台東区上野公園や板橋区大山では,最下部の礫層の上に層厚約10 mの内湾成の泥層と泥質砂層が重なる.千代田区紀尾井町では,礫層の上に層厚約2 mの淡水成の泥層と泥炭層が重なる.江東区有明では礫層を欠き,下位の地蔵堂層の前浜堆積物の上に,層厚約2 mの内湾成泥層が直接重なる.
薮層基底地形と礫層分布の成因
堆積相の特徴から,基底部に礫層を伴う厚い泥層は,低海水準期に形成された谷地形が海水準の上昇に伴って内湾化して形成された谷埋め堆積物と考えられる.一方,礫層を伴う薄い淡水成泥層も谷埋め堆積物と考えられるが,その堆積場は海水準よりも高かったと考えられる.つまり,礫層や泥層の標高差は,堆積当時から存在した可能性が高い.
ボーリング柱状図データに基づけば,紀尾井町と上野公園の間の薮層下部の基底は,深度が異なる2つの平坦面から構成される.紀尾井町の平坦面は浅く,上野公園の平坦面はやや深く,2つの平坦面の境界付近では礫層の深度が急変する.一方で,砂層からなる薮層上部の基底面(ラビンメント面)には,礫層の深度が急変する地点において,大きな標高の変化は認められない.
これらの堆積相の分布から,紀尾井町と上野公園間にみられる薮層基底の2つの平坦面は,東京低地の地下の埋没段丘のような,薮層基底の開析谷内に発達した異なる段丘面であると考えられる.この解釈に従えば,少なくとも千代田区と台東区に間に見られる薮層基底礫層の段差構造は,断層によって形成された可能性は低く,当時の地形を反映したものである.
低地に位置する江東区有明のボーリングコアでは薮層の基底に礫層が分布しないことから,この地点では開析谷は形成されなかったことを示す.現時点では,低地の地下まで薮層基底の礫層の分布を追跡できていないが,薮層の開析谷の縁で礫層は不連続になることが予想される.
以上の検討から,薮層基底の礫層の分布は,堆積当時の地形を反映して,かなり複雑である可能性が示された.この結果は,礫層の分布を利用して地質構造を推定する際には,礫層の形成年代だけではなく,過去の地形の条件なども総合的に考慮して判断する必要性を示唆している.
文献
[URL1] 産総研地質調査総合センター・東京都土木技術支援・人材育成センター,都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/
豊蔵ほか(2007)地学雑誌,116,410–430.