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[R7-O-1] 島弧会合部,天草地域の始新世~中新世テクトニクス
キーワード:日本海拡大、堆積盆、応力、岩脈
日本列島形成史において古第三紀はミッシングリンクである.というのも,西南日本の帯状構造が大きく改変され,また,日本海拡大を準備した時期であったにもかかわらず,当時の地層が前後の時代のものに比べてあまり残っていないためである.しかし,九州北部には例外的に古第三紀の地層が多く残っている.中でも天草地域には,断層・褶曲・火成岩の貫入をうけた厚さ3 kmにおよぶ始新統が露出し,多くの情報が読み出されないまま残されている.そこでわれわれは,天草地域の地質構造の再調査を進めている.その結果,この地域の始新統が褶曲時階をはさんで2段階の伸張テクトニクスを被ったことがわかった.
天草の始新統はNEトレンドの褶曲をなし,また,NEトレンドとNWトレンドの断層群に切られている(高井ほか, 1997; 斎藤ほか, 2010).今回の調査の結果,NE系とNW系のものはいずれも正断層であることが確認できた.また,前者が古く,後者が新しいことがわかった.さらにまた,NW系の断層は,褶曲の両翼で姿勢や変位方向に系統的な違いが見られないことから,褶曲後にできたものと判断された.
天草地域には14~15 Maの貫入岩体が多数存在するが,それらがNW系の正断層によって切られる露頭を複数発見した.貫入岩体を切る小断層のデータをHough変換法(Yamaji et al., 2006; Sato, 2006)で応力解析したところ,NNE-SSW引っ張りの正断層型応力が検出された.これは地質図規模のNW系断層群と整合的な応力である.これらのことから,NW系正断層は火成活動より若いと判断された.
本研究の結果,天草地域は褶曲の前後に伸張テクトニクスを経験したことが分かった.このうち,褶曲より古い NE系正断層群は活動時期の制約が弱いが、低角正断層もあり、伸長歪み量は大きい.したがってこの系統の断層群は、東シナ海域で深いグラーベンを多数つくった暁新世~始新世の伸張テクトニクス(e.g., Itoh et al., 1999; Cuker et al., 2011)の一環として動いた可能性がある.他方,褶曲・貫入より新しいNW系正断層群は,山口西部~九州北部に分布するNW系の正断層群と対比できる.従来,九州北部のNW系統の正断層群は「筑豊型構造」と呼ばれ,古第三紀の堆積同時正断層とされてきたが(松下,1971; 酒井,1993),近年は中期中新世頃の正断層とされている(尾崎,2013).本研究の結果は後者と整合的で,天草を含めて北西九州は中期中新世に広く島弧直交方向の伸張場にあった可能性がある.また,火成活動時の天草は琉球弧に属していたという示唆があるが(山元, 1991),当時の天草の応力は西南日本と同一である(Ushimaru & Yamaji, in prep.).つまり,中新世までの天草は,琉球弧北端ではなく,西南日本西端として考えた方が良さそうである.天草の褶曲は,設楽地域の漸新世のナップ形成(長谷川ほか, 2019)や三陸沖の始新統の褶曲(大澤ほか, 2002)と同時だった可能性がある.
◆引用文献: Cukur et al., 2011, Mar. Geophys. Res., 32, 363–381. 長谷川ほか, 2019, 地学雑誌, 128, 391–417. Itoh et al., 1999, Island arc, 8, 56–65. 松下, 1971, 九大理研報 (地質学之部), 11, 1–16. 大澤ほか, 2002, 石油技術協会誌, 67, 38–51. 尾崎, 2013, 海域シームレス地質情報集「福岡沿岸域」, 産総研地質調査総合センター. 斎藤ほか, 2010, 20万分の1地質図幅「八代および野母崎の一部」,地質調査所. 酒井, 1993, 地質学論集, 42, 183–201. Sato, 2006, Tectonophysics, 421, 319–330. 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書, 地質調査所. Yamaji et al., 2006, J, Struct. Geol., 28, 980–990. 山元, 1991, 地調月報, 42, 131–148.
天草の始新統はNEトレンドの褶曲をなし,また,NEトレンドとNWトレンドの断層群に切られている(高井ほか, 1997; 斎藤ほか, 2010).今回の調査の結果,NE系とNW系のものはいずれも正断層であることが確認できた.また,前者が古く,後者が新しいことがわかった.さらにまた,NW系の断層は,褶曲の両翼で姿勢や変位方向に系統的な違いが見られないことから,褶曲後にできたものと判断された.
天草地域には14~15 Maの貫入岩体が多数存在するが,それらがNW系の正断層によって切られる露頭を複数発見した.貫入岩体を切る小断層のデータをHough変換法(Yamaji et al., 2006; Sato, 2006)で応力解析したところ,NNE-SSW引っ張りの正断層型応力が検出された.これは地質図規模のNW系断層群と整合的な応力である.これらのことから,NW系正断層は火成活動より若いと判断された.
本研究の結果,天草地域は褶曲の前後に伸張テクトニクスを経験したことが分かった.このうち,褶曲より古い NE系正断層群は活動時期の制約が弱いが、低角正断層もあり、伸長歪み量は大きい.したがってこの系統の断層群は、東シナ海域で深いグラーベンを多数つくった暁新世~始新世の伸張テクトニクス(e.g., Itoh et al., 1999; Cuker et al., 2011)の一環として動いた可能性がある.他方,褶曲・貫入より新しいNW系正断層群は,山口西部~九州北部に分布するNW系の正断層群と対比できる.従来,九州北部のNW系統の正断層群は「筑豊型構造」と呼ばれ,古第三紀の堆積同時正断層とされてきたが(松下,1971; 酒井,1993),近年は中期中新世頃の正断層とされている(尾崎,2013).本研究の結果は後者と整合的で,天草を含めて北西九州は中期中新世に広く島弧直交方向の伸張場にあった可能性がある.また,火成活動時の天草は琉球弧に属していたという示唆があるが(山元, 1991),当時の天草の応力は西南日本と同一である(Ushimaru & Yamaji, in prep.).つまり,中新世までの天草は,琉球弧北端ではなく,西南日本西端として考えた方が良さそうである.天草の褶曲は,設楽地域の漸新世のナップ形成(長谷川ほか, 2019)や三陸沖の始新統の褶曲(大澤ほか, 2002)と同時だった可能性がある.
◆引用文献: Cukur et al., 2011, Mar. Geophys. Res., 32, 363–381. 長谷川ほか, 2019, 地学雑誌, 128, 391–417. Itoh et al., 1999, Island arc, 8, 56–65. 松下, 1971, 九大理研報 (地質学之部), 11, 1–16. 大澤ほか, 2002, 石油技術協会誌, 67, 38–51. 尾崎, 2013, 海域シームレス地質情報集「福岡沿岸域」, 産総研地質調査総合センター. 斎藤ほか, 2010, 20万分の1地質図幅「八代および野母崎の一部」,地質調査所. 酒井, 1993, 地質学論集, 42, 183–201. Sato, 2006, Tectonophysics, 421, 319–330. 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書, 地質調査所. Yamaji et al., 2006, J, Struct. Geol., 28, 980–990. 山元, 1991, 地調月報, 42, 131–148.