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[R7-O-4] 中新統対州層群の特異な石灰岩の起源・形成水深とBathymodiolus sp.の古生態系
キーワード:日本海拡大期、深海環境、嫌気的メタン酸化
日本海南西部に分布する対州層群は,筆者らの研究により18~16 Maの日本海拡大期に短期間に堆積したことが明らかになった(Ninomiya et al., 2014).対州層群下部の吹崎石灰岩からBathymodiolus sp.が記載され,その産状から化学合成化石群集の可能性を指摘した(Ninomiya, 2011).しかし,吹崎石灰岩が深海で形成され,Bathymodiolus sp. が化学合成群集であることを示す明瞭な証拠がなかった.本研究は,それらの証拠を得ることを目的とした.
吹崎石灰岩は泥岩に含まれる幅約4m,厚さ約50cmの現地性の特異な石灰岩体で,下部の苦灰岩,上部のBathymodiolus sp.を含む石灰岩,これらを切るカルサイト脈からなり,石灰岩直下の泥岩中に直径5cm以下のドロマイトからなるコンクリーションを多数含んでいる.石灰岩周辺を含む対州層群下部は水深を示す示相化石に乏しいが,底生有孔虫(Sakai & Nishi, 1990)やまれに泥岩から産出する貝類化石(Masuda, 1970)は,吹崎石灰岩を含む対州層群下部は水深800m以深の深海環境で堆積したことを示す.
石灰岩の炭酸塩の低いδ13C値(−39.8‰から−31.7‰)は,石灰岩が熱分解起源もしくは微生物起源のメタンの嫌気的メタン酸化により海底面下で形成されたことを強く示唆している.苦灰岩,コンクリーション, カルサイト脈から得られたδ13C値(−5.8‰から−9.7‰)は,通常の海洋性炭酸塩のδ13C 値(−2‰から+6‰; Veizer et al., 1999)よりも低い.それゆえ,これらの炭酸塩岩は,嫌気的メタン酸化に由来する炭酸イオンと海水中の炭酸イオンの混合により形成されたことを示唆している.
また,石灰岩,苦灰岩およびコンクリーション中のパイライトのδ34S値は−3.3‰から−16.4‰と0‰より低く,硫酸還元細菌の活動によって形成されたことを示しており,活発な嫌気的メタン酸化がおこっていたことを示唆する.硫酸還元細菌によって生成された硫化水素が化学合成の一次生産に使用される場合,RuBisCOによって固定された有機物のδ13C値は−35 ± 5‰の範囲に入ることが知られている(e.g., Nelson & Fisher, 1995). 石灰岩から得られた全有機炭素(TOC)のδ13C値は−37.6‰であったことから,化学合成によって固定された有機物と考えられる.苦灰岩およびコンクリーションのTOCのδ13C値(−27.9‰から−29.9‰)は,−35 ± 5‰よりも高いが,通常の海洋性堆積物のTOCのδ13C値(−25‰; Denies, 1980)と比べて低い.石灰岩中のTOCと同様に化学合成によって固定された有機物である可能性が高い.
これらの結果とBathymodiolus sp. がδ13C値とδ34S値が最も低い石灰岩に限られ,16 Ma以前のシンカイヒバリガイ類は硫黄酸化細菌を共生させていたと考えられている(Lorion et al., 2013).吹崎石灰岩中のBathymodiolus sp.は,硫黄酸化細菌のみを共生させ,嫌気的メタン酸化により生成される硫化水素に依存していたと考えられる.対州層群の年代やデイサイトの活動を加味すると(Ninomiya et al., 2014),対州層群下部の環境は浅海から急速に深海化し,メタンが湧出する背弧海盆となっていたことを示唆している.
文献 Denies, P., 1980, In: Fitz, P., Fontes, J.C. (Eds.), pp. 239–246. Lorion et al, 2013, Proc. R. Soc. B 280, 20131243. Masuda, 1970, Mem. Nat. Sci. Mus. 14, 25-32. Nelson, D.C., Fisher, C.R., 1995, In: Karl, D.M. (Ed.), pp. 125–167. Ninomiya, T., 2011, Mem. Fac. Sci. Kyushu Univ. Ser. D, Earth & Planet. Sci. 32, 11–26. Ninomiya et al., 2014, Isl. Arc 23, 206–220. Sakai, H., Nishi, H., 1990, J. Geol. Soc. Jap. 96, 389–392. Veizer et al., 1999, Chem. Geol. 161, 59–88.
吹崎石灰岩は泥岩に含まれる幅約4m,厚さ約50cmの現地性の特異な石灰岩体で,下部の苦灰岩,上部のBathymodiolus sp.を含む石灰岩,これらを切るカルサイト脈からなり,石灰岩直下の泥岩中に直径5cm以下のドロマイトからなるコンクリーションを多数含んでいる.石灰岩周辺を含む対州層群下部は水深を示す示相化石に乏しいが,底生有孔虫(Sakai & Nishi, 1990)やまれに泥岩から産出する貝類化石(Masuda, 1970)は,吹崎石灰岩を含む対州層群下部は水深800m以深の深海環境で堆積したことを示す.
石灰岩の炭酸塩の低いδ13C値(−39.8‰から−31.7‰)は,石灰岩が熱分解起源もしくは微生物起源のメタンの嫌気的メタン酸化により海底面下で形成されたことを強く示唆している.苦灰岩,コンクリーション, カルサイト脈から得られたδ13C値(−5.8‰から−9.7‰)は,通常の海洋性炭酸塩のδ13C 値(−2‰から+6‰; Veizer et al., 1999)よりも低い.それゆえ,これらの炭酸塩岩は,嫌気的メタン酸化に由来する炭酸イオンと海水中の炭酸イオンの混合により形成されたことを示唆している.
また,石灰岩,苦灰岩およびコンクリーション中のパイライトのδ34S値は−3.3‰から−16.4‰と0‰より低く,硫酸還元細菌の活動によって形成されたことを示しており,活発な嫌気的メタン酸化がおこっていたことを示唆する.硫酸還元細菌によって生成された硫化水素が化学合成の一次生産に使用される場合,RuBisCOによって固定された有機物のδ13C値は−35 ± 5‰の範囲に入ることが知られている(e.g., Nelson & Fisher, 1995). 石灰岩から得られた全有機炭素(TOC)のδ13C値は−37.6‰であったことから,化学合成によって固定された有機物と考えられる.苦灰岩およびコンクリーションのTOCのδ13C値(−27.9‰から−29.9‰)は,−35 ± 5‰よりも高いが,通常の海洋性堆積物のTOCのδ13C値(−25‰; Denies, 1980)と比べて低い.石灰岩中のTOCと同様に化学合成によって固定された有機物である可能性が高い.
これらの結果とBathymodiolus sp. がδ13C値とδ34S値が最も低い石灰岩に限られ,16 Ma以前のシンカイヒバリガイ類は硫黄酸化細菌を共生させていたと考えられている(Lorion et al., 2013).吹崎石灰岩中のBathymodiolus sp.は,硫黄酸化細菌のみを共生させ,嫌気的メタン酸化により生成される硫化水素に依存していたと考えられる.対州層群の年代やデイサイトの活動を加味すると(Ninomiya et al., 2014),対州層群下部の環境は浅海から急速に深海化し,メタンが湧出する背弧海盆となっていたことを示唆している.
文献 Denies, P., 1980, In: Fitz, P., Fontes, J.C. (Eds.), pp. 239–246. Lorion et al, 2013, Proc. R. Soc. B 280, 20131243. Masuda, 1970, Mem. Nat. Sci. Mus. 14, 25-32. Nelson, D.C., Fisher, C.R., 1995, In: Karl, D.M. (Ed.), pp. 125–167. Ninomiya, T., 2011, Mem. Fac. Sci. Kyushu Univ. Ser. D, Earth & Planet. Sci. 32, 11–26. Ninomiya et al., 2014, Isl. Arc 23, 206–220. Sakai, H., Nishi, H., 1990, J. Geol. Soc. Jap. 96, 389–392. Veizer et al., 1999, Chem. Geol. 161, 59–88.