日本地質学会第128年学術大会

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口頭発表

T7.[トピック]地球年代学が拓く高精度火山噴火史・発達史

[1ch514-18] T7.[トピック]地球年代学が拓く高精度火山噴火史・発達史

2021年9月4日(土) 14:15 〜 16:00 第5 (第5)

座長:及川 輝樹、上澤 真平

14:15 〜 14:45

[T7-O-1] (招待講演)ジルコンのU-Pb年代測定と第四紀テフラ

*伊藤 久敏1 (1. 電力中央研究所)

キーワード:ジルコン、U-Pb法、広域テフラ、第四紀、マグマ

従来,5万年よりも古い第四紀テフラを対象とした年代測定は,主にK-Ar法もしくはジルコンのフィッション・トラック(FT)法が適用されてきた.一方,最近の10~20年で,ジルコンのU-Pb法の我が国の地質学への貢献は凄まじく,主に第四紀よりも古い地質を対象に,従来の常識を覆す様々な成果が創出されている.ジルコンのU-Pb法は,第四紀の地質試料にも適用可能であり,発表者は第四紀のテフラや花崗岩を対象に同法の適用を進めてきた.
今回,約10万年前に噴出したとされる以下の3つのテフラ,すなわち,洞爺カルデラ起源のToya,鬼界カルデラ起源のK-Tz,立山起源のTt-D (もしくはDPm)とこれらに関連するテフラのジルコンのU-Pb年代,U-Th年代,(U-Th)/He年代,を紹介し,これらのテフラの噴出に関連した巨大カルデラのマグマ活動の変遷に関して,ジルコンから得られる知見を紹介する.
Toyaに関しては,LA-ICP-MS装置により,ジルコン1粒から,同時にU-Pb年代とU-Th年代が得られることを報告した(Ito, 2014).その後の指摘(Guillong et al., 2015)もあり,残念ながらU-Th法に関しては,確立した方法には至っていないが,本手法のその後の取り組みを紹介する.
屋久島に分布する3枚の広域テフラのうち,K-Tzからは,最も若いジルコンが約10万年前を示すことや,60~70万年前の2枚のテフラ(Anbo, Ksd)も鬼界カルデラ起源である可能性があることを紹介する(Ito et al., 2017).
大町テフラ(中谷,1972)のうち,A1PmとDPmを対象に,ジルコンのU-Pb年代と(U-Th)/He年代を求めた(Ito and Danišík, 2020).閉鎖温度が低い(U-Th)/He法からは,予想される噴出年代(A1Pmは約40万年前)とほぼ一致する年代が得られた.マグマからジルコンが晶出した年代を示すU-Pb法からは,最若年代で,それぞれの噴出年代にほぼ一致する年代を示すことや,これらのテフラを噴出したマグマが数10万年に亘ってジルコンを晶出する活動を続けたことを紹介する.

引用文献:
Guillong, M., A.K. Schmitt, O. Bachmann, 2015. Comment on “Zircon U–Th–Pb dating using LA-ICP-MS: Simultaneous U–Pb and U–Th dating on 0.1 Ma Toya Tephra, Japan” by Hisatoshi Ito. J. Volcanol. Geotherm. Res., 296, 101–103.
Ito, H., 2014. Zircon U–Th–Pb dating using LA-ICP-MS: Simultaneous U–Pb and U–Th dating on the 0.1 Ma Toya Tephra, Japan. J. Volcanol. Geotherm. Res., 289, 210–223.
Ito, H. and Danišík, M., 2020. Dating late Quaternary events by the combined U-Pb LA-ICP-MS and (U-Th)/He dating of zircon: A case study on Omachi Tephra suite (central Japan). Terra Nova, 32, 134–140.
Ito, H., Uesawa, S., Nanayama, F., and Nakagawa, S., 2017. Zircon U–Pb dating using LA-ICP-MS: Quaternary tephras in Yakushima Island, Japan. J. Volcanol. Geotherm. Res., 338, 92–100.
中谷 進,1972.大町テフラ層とテフロクロノロジー,第四紀研究,11,305–317.