15:30 〜 16:00
[T7-O-5] (招待講演/ハイライト)古地磁気永年変化層序:火山噴出物層序研究への貢献
キーワード:古地磁気方位、古地磁気永年変化、火山噴出物層序、火山岩、完新世
世話人からのハイライト紹介:火山噴出物の層序や年代は、地質学に加え岩石学的手法や放射年代法を用いて決定されることが多いが、古地磁気学的手法も強力なツールになりうる。地球磁場の変動(古地磁気永年変化)は火山活動とは無関係なので、火山岩の古地磁気方位は、地層の対比や編年において,従来の手法とは独立した定量的データを与える。本発表では、火山層序・編年学における新たな展開(新手法導入、共同研究構築など)の契機となるべく、これまでの著者らの関連研究成果を紹介してもらう。参考:ハイライトについて
日本付近における地磁気方位は,地軸双極子磁場方位のまわり約30度の領域を,(100年あたり数度のペースで)ゆるやかに変動している。このような古地磁気方位の時間変動を古地磁気永年変化と呼ぶ。日本においては,考古遺物(土器の窯跡)から過去2千年間の古地磁気永年変化曲線が報告されていて(Hirooka, 1971),最近はその再検討も進められている。火山が多い日本では,火山岩による古地磁気永年変化の復元が可能であり,我々のグループは過去数千年間の古地磁気学的研究を進めている。考古遺物や火山噴出物から高精度な古地磁気永年変化を復元することは,地球磁場の生成・維持プロセスを理解するための基礎データとして地球物理学的に興味のあるところであるが、層序学的な応用においても重要な可能性を持っている。
地磁気の変動は,火山活動とは無関係な独立した物理量であるので,火山噴出物の時間軸となりうる。また、火山噴出物自体が年代決定の材料となるので,年代測定試料と火山噴出物の関連性を議論する必要がないのも利点である。古地磁気極性や酸素同位体変動が海洋堆積物の年代決定に利用されているように,古地磁気永年変化層序は火山噴出物に対して年代情報を提供できるポテンシャルを持っている。本発表では,古地磁気永年変化とその火山噴出物層序研究への応用として,(1)阿蘇中央火口丘群北西部の溶岩・火砕物の古地磁気学的研究と(2)支笏カルデラ噴火の火砕流堆積物の古地磁気学的研究の2例を紹介する。
(1)阿蘇の古地磁気学的研究では,おもに杵島岳溶岩,往生岳溶岩,米塚溶岩の複数の露頭において定方位試料を採取して,古地磁気方位測定を行った。テフラ層序や地質図の溶岩分布からは,前述の順序で約4–3 kaに噴火したと報告されている。我々の古地磁気学的研究では,20数サイトから精度の良い古地磁気方位が得られた。それらの方位データは,1つの曲線を描くように分布し,4–3 kaの古地磁気永年変化曲線を捉えたと考えられる。曲線の始まりと終わり付近のデータに炭素14年代が報告されているので,この古地磁気永年変化曲線には年代推定値を入れることができた。古地磁気方位データに基いて,阿蘇中央火口丘群北西部の溶岩・火砕物の高時間分解能な噴出順序を提示できた。(2)支笏カルデラ噴火(46 ka)による火砕物について,覚生川の露頭に5ユニットの非溶結火砕流堆積物が確認できる(中川ほか,2018)。我々のグループは,非溶結火砕流堆積物を精度よく定方位採取する方法を開発・適用した上で,これらのユニットの古地磁気方位測定を行った。その結果,これらの火砕流堆積物から精度の良い(95%信頼限界にして2-3度)古地磁気方位データを得た。得られた方位データは1つの曲線上に分布し,その変化量は約15度であった。このことから,5ユニットの火砕流堆積物は数百年間の噴火で形成されたことが示唆される。
以上のように,溶岩・火砕流堆積物から高精度の古地磁気方位データを得ることは,古地磁気永年変化曲線の復元につながるだけでなく,火山噴火履歴の研究に時間情報を提供する。日本の火山噴出物とくに完新世の火山噴出物から古地磁気方位を基礎データとして得ることは有用と考えている。
引用文献
Hirooka, K. (1971): Memoirs of the Faculty of Science, Kyoto University. Series of geology and mineralogy, 38(2), 167-207.
中川ほか(2018):地学雑誌, 127(2), 247-271, doi:10.5026/jgeography.127.247.
地磁気の変動は,火山活動とは無関係な独立した物理量であるので,火山噴出物の時間軸となりうる。また、火山噴出物自体が年代決定の材料となるので,年代測定試料と火山噴出物の関連性を議論する必要がないのも利点である。古地磁気極性や酸素同位体変動が海洋堆積物の年代決定に利用されているように,古地磁気永年変化層序は火山噴出物に対して年代情報を提供できるポテンシャルを持っている。本発表では,古地磁気永年変化とその火山噴出物層序研究への応用として,(1)阿蘇中央火口丘群北西部の溶岩・火砕物の古地磁気学的研究と(2)支笏カルデラ噴火の火砕流堆積物の古地磁気学的研究の2例を紹介する。
(1)阿蘇の古地磁気学的研究では,おもに杵島岳溶岩,往生岳溶岩,米塚溶岩の複数の露頭において定方位試料を採取して,古地磁気方位測定を行った。テフラ層序や地質図の溶岩分布からは,前述の順序で約4–3 kaに噴火したと報告されている。我々の古地磁気学的研究では,20数サイトから精度の良い古地磁気方位が得られた。それらの方位データは,1つの曲線を描くように分布し,4–3 kaの古地磁気永年変化曲線を捉えたと考えられる。曲線の始まりと終わり付近のデータに炭素14年代が報告されているので,この古地磁気永年変化曲線には年代推定値を入れることができた。古地磁気方位データに基いて,阿蘇中央火口丘群北西部の溶岩・火砕物の高時間分解能な噴出順序を提示できた。(2)支笏カルデラ噴火(46 ka)による火砕物について,覚生川の露頭に5ユニットの非溶結火砕流堆積物が確認できる(中川ほか,2018)。我々のグループは,非溶結火砕流堆積物を精度よく定方位採取する方法を開発・適用した上で,これらのユニットの古地磁気方位測定を行った。その結果,これらの火砕流堆積物から精度の良い(95%信頼限界にして2-3度)古地磁気方位データを得た。得られた方位データは1つの曲線上に分布し,その変化量は約15度であった。このことから,5ユニットの火砕流堆積物は数百年間の噴火で形成されたことが示唆される。
以上のように,溶岩・火砕流堆積物から高精度の古地磁気方位データを得ることは,古地磁気永年変化曲線の復元につながるだけでなく,火山噴火履歴の研究に時間情報を提供する。日本の火山噴出物とくに完新世の火山噴出物から古地磁気方位を基礎データとして得ることは有用と考えている。
引用文献
Hirooka, K. (1971): Memoirs of the Faculty of Science, Kyoto University. Series of geology and mineralogy, 38(2), 167-207.
中川ほか(2018):地学雑誌, 127(2), 247-271, doi:10.5026/jgeography.127.247.