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[T2-P-1] (エントリー)八代海における白鳳丸KH-18-3次研究航海ピストンコア試料に含まれる火山ガラスの同定
キーワード:火山灰、ATテフラ、平成28年熊本地震
1.はじめに
九州西部に位置する八代海には多数の海底断層群が認められており,日奈久断層帯八代海区間を構成している.またこの海域は閉鎖度が高く,河川からの砕屑物の堆積盆となっている.新しい堆積層と活断層の組み合わせから,潜在的に海底地すべりの発生条件を備えている.井上ほか(2011)により八代海の堆積物ピストンコア中の年代の逆転が報告されており,さらに詳細な海底地すべり履歴の検討のために白鳳丸KH-18-3次研究航海によりピストンコア試料が採取された.
伊藤(2020卒論)で八代海の堆積物試料から姶良Tnテフラを構成する入戸火砕流堆積物の火山ガラスが確認されたが,推定された堆積年代と合致せず,さらなる検証が必要とされた.本研究は,八代海南部で行われたKH-18-3次研究航海で採取されたピストンコア試料に含まれる火山ガラスの屈折率をもとに同定し,層序を考察することを目的とする.
2.手法
KH-18-3次研究航海で採取されたピストンコア試料PC01~PC11の計11本のコアから,伊藤(2020卒論)によりDI001~DI110の合計110試料に分けられた.本研究ではPC03(DI023~DI032)とPC09(DI081~DI091)の21試料を使用した.21試料を水洗,乾燥,分割し,1つの試料から30粒の火山ガラスの屈折率をRIMS2000を使用して測定した.DI082においては斜方輝石の屈折率も測定した.また,試料分割後のスミアスライドを作成し,偏光顕微鏡を用いて200粒の鉱物組成を割り出した.
3.結果と考察
PC03(DI023~DI032)ではバブル型,軽石型の火山ガラスが見られた.30粒全て姶良Tnの屈折率(1.498~1.501)の火山ガラスであった.PC09(DI081~DI091)も同様にバブル型,軽石型の火山ガラスが見られ,ほとんどが姶良Tnの屈折率と一致した.DI081, DI082,DI084~DI086では1~4粒の火山ガラスが姶良Tnの屈折率とは一致せず,阿蘇4(Aso-4)の屈折率(1.506~1.510)または鬼界アカホヤ(K-Ah)の屈折率(1.508~1.516)に一致した.DI082の斜方輝石はK-Ahの屈折率(1.708~1.713)に一致した.堀(2019卒論)で推定された650±40年前や10910±50年前の層にも連続的に姶良Tnの火山ガラスが見られたため,これらは二次堆積したものだと考えられる.
PC03のスミアスライドではDI023~DI026,DI028~DI030で岩片が顕著に見られ,DI027,DI031,DI032で火山ガラスが顕著に見られた.DI027~DI029では植物片が目立った.PC09のスミアスライドではDI081~DI086で有孔虫や生物片などが25%程度見られ,DI087以降は火山ガラスが顕著に見られた.
4.まとめ
入戸火砕流堆積物は人吉盆地周辺の地質図上ではほとんど残っていない.これについて横山(2000)は,山岳地域の谷底の堆積物が顕著な削剥を受けたとみている.堀(2019卒論)で推定された異なる年代の層にも入戸火砕流堆積物が見られることから,八代海の堆積物中の火山ガラスは河川からの流入による二次堆積物であると考えられる.K-Ahは含まれている可能性はあるが,見つかった粒数が少ないため,今後ほかのコアの火山ガラスや重鉱物を調べることが望まれる.
5.引用文献
伊藤大悟(2020卒論)八代海南部における底生有孔虫群集から推定される堆積環境,鹿児島大学卒業論文,55p.
井上直人・北田奈緒子・越後智雄・久保尚大・一井直宏・林田明・坂本泉・滝野義幸・楮原京子,2011,布田川・日奈久断層帯海域延長部におけるピストンコア調査,活断層・古地震研究報告,11,295―308.
堀航喜(2019卒論)日奈久断層八代区間の海底断層群分布海域における浅海表層堆積物の物性から推定される堆積環境,鹿児島大学卒業論文,90p.
横山勝三(2000)入戸火砕流堆積物の分布北限,火山第45巻,第4号,209-216.
九州西部に位置する八代海には多数の海底断層群が認められており,日奈久断層帯八代海区間を構成している.またこの海域は閉鎖度が高く,河川からの砕屑物の堆積盆となっている.新しい堆積層と活断層の組み合わせから,潜在的に海底地すべりの発生条件を備えている.井上ほか(2011)により八代海の堆積物ピストンコア中の年代の逆転が報告されており,さらに詳細な海底地すべり履歴の検討のために白鳳丸KH-18-3次研究航海によりピストンコア試料が採取された.
伊藤(2020卒論)で八代海の堆積物試料から姶良Tnテフラを構成する入戸火砕流堆積物の火山ガラスが確認されたが,推定された堆積年代と合致せず,さらなる検証が必要とされた.本研究は,八代海南部で行われたKH-18-3次研究航海で採取されたピストンコア試料に含まれる火山ガラスの屈折率をもとに同定し,層序を考察することを目的とする.
2.手法
KH-18-3次研究航海で採取されたピストンコア試料PC01~PC11の計11本のコアから,伊藤(2020卒論)によりDI001~DI110の合計110試料に分けられた.本研究ではPC03(DI023~DI032)とPC09(DI081~DI091)の21試料を使用した.21試料を水洗,乾燥,分割し,1つの試料から30粒の火山ガラスの屈折率をRIMS2000を使用して測定した.DI082においては斜方輝石の屈折率も測定した.また,試料分割後のスミアスライドを作成し,偏光顕微鏡を用いて200粒の鉱物組成を割り出した.
3.結果と考察
PC03(DI023~DI032)ではバブル型,軽石型の火山ガラスが見られた.30粒全て姶良Tnの屈折率(1.498~1.501)の火山ガラスであった.PC09(DI081~DI091)も同様にバブル型,軽石型の火山ガラスが見られ,ほとんどが姶良Tnの屈折率と一致した.DI081, DI082,DI084~DI086では1~4粒の火山ガラスが姶良Tnの屈折率とは一致せず,阿蘇4(Aso-4)の屈折率(1.506~1.510)または鬼界アカホヤ(K-Ah)の屈折率(1.508~1.516)に一致した.DI082の斜方輝石はK-Ahの屈折率(1.708~1.713)に一致した.堀(2019卒論)で推定された650±40年前や10910±50年前の層にも連続的に姶良Tnの火山ガラスが見られたため,これらは二次堆積したものだと考えられる.
PC03のスミアスライドではDI023~DI026,DI028~DI030で岩片が顕著に見られ,DI027,DI031,DI032で火山ガラスが顕著に見られた.DI027~DI029では植物片が目立った.PC09のスミアスライドではDI081~DI086で有孔虫や生物片などが25%程度見られ,DI087以降は火山ガラスが顕著に見られた.
4.まとめ
入戸火砕流堆積物は人吉盆地周辺の地質図上ではほとんど残っていない.これについて横山(2000)は,山岳地域の谷底の堆積物が顕著な削剥を受けたとみている.堀(2019卒論)で推定された異なる年代の層にも入戸火砕流堆積物が見られることから,八代海の堆積物中の火山ガラスは河川からの流入による二次堆積物であると考えられる.K-Ahは含まれている可能性はあるが,見つかった粒数が少ないため,今後ほかのコアの火山ガラスや重鉱物を調べることが望まれる.
5.引用文献
伊藤大悟(2020卒論)八代海南部における底生有孔虫群集から推定される堆積環境,鹿児島大学卒業論文,55p.
井上直人・北田奈緒子・越後智雄・久保尚大・一井直宏・林田明・坂本泉・滝野義幸・楮原京子,2011,布田川・日奈久断層帯海域延長部におけるピストンコア調査,活断層・古地震研究報告,11,295―308.
堀航喜(2019卒論)日奈久断層八代区間の海底断層群分布海域における浅海表層堆積物の物性から推定される堆積環境,鹿児島大学卒業論文,90p.
横山勝三(2000)入戸火砕流堆積物の分布北限,火山第45巻,第4号,209-216.