16:30 〜 19:00
[R2-P-3] 早池峰-宮守超マフィック岩体の蛇紋岩組織の解読
キーワード:蛇紋岩化作用、沈み込み帯、微細組織
沈み込むプレートによって深部にもたらされるH2O流体は、プレート境界のゆっくり滑りや塑性カップリングといった力学的挙動の支配要素である。例えば西南日本のゆっくり滑りの挙動や分布の不均質の要因として、上盤の排水性や吸水性、そして水-岩石反応が引き起こす物性変化が議論されている(Mizukami et al., 2014; Nakajima and Hasegawa, 2016)。マントル中を移動する流体の痕跡は天然のかんらん岩の蛇紋岩化作用として残されており、流体の移動経路、分布、そして反応について直接的な情報が期待される。
南部北上帯の早池峰-宮守超マフィック複合岩体は、岩石学及び地球化学の研究から島弧下のマントルウェッジの断片であることが示されている(Ozawa, 1988; Yoshikawa and Ozawa, 2007)。しかし、オルドビス紀の火成活動ののち花崗岩体の貫入や浅部テクトニクスによる剪断変形などによって二次的な改変を受けている(小澤ほか, 1988; 小澤ほか, 2013)。本研究では、このマントル断片に沈み込み帯における水-岩石反応の痕跡が残されているか否かを検討するため、蛇紋岩化および変成反応の履歴に着目して岩石組織の観察を行なった。この際、蛇紋石を始めとした含水鉱物の同定のために顕微ラマン分光法を用いた。試料は主に宮守岩体のテクトナイトメンバーから採取した。
宮守岩体は西側に接する白亜紀の人首花こう岩体や花こう斑岩の貫入による熱変成作用を考慮し、上書き関係に留意して岩石組織の観察を行なった。その結果、下のように形成ステージを区分した。
ステージ1:アンチゴライト蛇紋岩化作用 アンチゴライト(Atg)メッシュ組織と”劈開”かんらん石(Ol)("cleavable" olivine)の形成によって特徴づけられる。Atgメッシュ組織では、かんらん石粒界もしくは粒子を横切るクラックから両側へ刃状のAtgが成長し、繊維状のリムを形成する。リム中央には磁鉄鉱が濃集する。
ステージ2:低温蛇紋岩化作用 リザダイト(Liz)のメッシュリムとクリソタイル(Ctl)のコアで構成される低温蛇紋石メッシュ組織によって特徴づけられる。
ステージ3:熱変成作用 熱源からの距離に応じて、変成Ol、滑石(Tlc)、再結晶Atgが生じている(小澤ほか (1988)では直方輝石と直閃石も報告されている)。変成Olの生成量は人首花こう岩体に近いほど多く、再結晶Atgの粒度は増加する。被熱温度が上がるにつれて再結晶Atg組織が放射状結晶が噛み合うinterlockingから、刃状結晶が互いに貫くinterpenetrating、結晶が大きく成長するovergrowingへと変化している。ステージ2の低温蛇紋石の構造変化がラマン分析によって確認できる。花こう岩体近傍では低温蛇紋石の形成が顕著である。
ステージ4:脆性剪断(日詰-気仙沼断層の活動に関連する) すべての組織を切る低温蛇紋石の剪断脈が発達する。
最も古いステージとして認識されるAtg蛇紋岩化作用がどのような環境で起こったかは興味深い問題である。1試料ではあるが、Atgメッシュ組織の幅と磁鉄鉱の量には異方性が観察され、かんらん岩の構造形成と同様の応力場で形成された可能性を示す。Atgメッシュ組織は、少なくとも、比較的流動性の低いマントルでOl粒界が流体経路となりやすいことを示している。OlのAtg蛇紋石化率とかんらん岩のOpx量の関係を見ると、Opxの少ない岩石でより蛇紋岩化した傾向にある。すなわち、宮守岩体のAtg蛇紋岩化におけるSiO2源はOpxではなく、流入したH2O流体であったと考えられる。また、Ol粒界が流体経路となることとも整合的である。劈開Olは岩体に広く見られる(小澤ほか, 2013)のに対してAtgメッシュ組織の分布は局在するように見える。劈開OlとAtgメッシュ組織の両者が同一試料で観察されることは稀で、組織の違いは流体の供給量の違いを反映しているのかもしれない。今後、鉱物化学組成も合わせて蛇紋石組織の形成履歴を検討すると共に、ステージ1の流体移動の実態をより詳細に記載していきたい。
【引用文献】Nakajima and Hasegawa (2016) Nature Comm., 7, 1–7: Mizukami et al. (2014) EPSL, 401, 148–158; Ozawa (1988) CMP, 99, 159-175; 小澤ほか (1988) 岩鉱, 83, 150-159; 小澤ほか (2013) 地質雑, 119補遺, 134-153; Yoshikawa and Ozawa (2007) Gondwana Res., 11, 234-246.
南部北上帯の早池峰-宮守超マフィック複合岩体は、岩石学及び地球化学の研究から島弧下のマントルウェッジの断片であることが示されている(Ozawa, 1988; Yoshikawa and Ozawa, 2007)。しかし、オルドビス紀の火成活動ののち花崗岩体の貫入や浅部テクトニクスによる剪断変形などによって二次的な改変を受けている(小澤ほか, 1988; 小澤ほか, 2013)。本研究では、このマントル断片に沈み込み帯における水-岩石反応の痕跡が残されているか否かを検討するため、蛇紋岩化および変成反応の履歴に着目して岩石組織の観察を行なった。この際、蛇紋石を始めとした含水鉱物の同定のために顕微ラマン分光法を用いた。試料は主に宮守岩体のテクトナイトメンバーから採取した。
宮守岩体は西側に接する白亜紀の人首花こう岩体や花こう斑岩の貫入による熱変成作用を考慮し、上書き関係に留意して岩石組織の観察を行なった。その結果、下のように形成ステージを区分した。
ステージ1:アンチゴライト蛇紋岩化作用 アンチゴライト(Atg)メッシュ組織と”劈開”かんらん石(Ol)("cleavable" olivine)の形成によって特徴づけられる。Atgメッシュ組織では、かんらん石粒界もしくは粒子を横切るクラックから両側へ刃状のAtgが成長し、繊維状のリムを形成する。リム中央には磁鉄鉱が濃集する。
ステージ2:低温蛇紋岩化作用 リザダイト(Liz)のメッシュリムとクリソタイル(Ctl)のコアで構成される低温蛇紋石メッシュ組織によって特徴づけられる。
ステージ3:熱変成作用 熱源からの距離に応じて、変成Ol、滑石(Tlc)、再結晶Atgが生じている(小澤ほか (1988)では直方輝石と直閃石も報告されている)。変成Olの生成量は人首花こう岩体に近いほど多く、再結晶Atgの粒度は増加する。被熱温度が上がるにつれて再結晶Atg組織が放射状結晶が噛み合うinterlockingから、刃状結晶が互いに貫くinterpenetrating、結晶が大きく成長するovergrowingへと変化している。ステージ2の低温蛇紋石の構造変化がラマン分析によって確認できる。花こう岩体近傍では低温蛇紋石の形成が顕著である。
ステージ4:脆性剪断(日詰-気仙沼断層の活動に関連する) すべての組織を切る低温蛇紋石の剪断脈が発達する。
最も古いステージとして認識されるAtg蛇紋岩化作用がどのような環境で起こったかは興味深い問題である。1試料ではあるが、Atgメッシュ組織の幅と磁鉄鉱の量には異方性が観察され、かんらん岩の構造形成と同様の応力場で形成された可能性を示す。Atgメッシュ組織は、少なくとも、比較的流動性の低いマントルでOl粒界が流体経路となりやすいことを示している。OlのAtg蛇紋石化率とかんらん岩のOpx量の関係を見ると、Opxの少ない岩石でより蛇紋岩化した傾向にある。すなわち、宮守岩体のAtg蛇紋岩化におけるSiO2源はOpxではなく、流入したH2O流体であったと考えられる。また、Ol粒界が流体経路となることとも整合的である。劈開Olは岩体に広く見られる(小澤ほか, 2013)のに対してAtgメッシュ組織の分布は局在するように見える。劈開OlとAtgメッシュ組織の両者が同一試料で観察されることは稀で、組織の違いは流体の供給量の違いを反映しているのかもしれない。今後、鉱物化学組成も合わせて蛇紋石組織の形成履歴を検討すると共に、ステージ1の流体移動の実態をより詳細に記載していきたい。
【引用文献】Nakajima and Hasegawa (2016) Nature Comm., 7, 1–7: Mizukami et al. (2014) EPSL, 401, 148–158; Ozawa (1988) CMP, 99, 159-175; 小澤ほか (1988) 岩鉱, 83, 150-159; 小澤ほか (2013) 地質雑, 119補遺, 134-153; Yoshikawa and Ozawa (2007) Gondwana Res., 11, 234-246.