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[R2-P-6] (エントリー)岩手県雫石町玄武洞溶岩の内部構造と岩石組織から推定されるエンタブラチャーの形成過程
厚い溶岩や溶結凝灰岩に発達する柱状節理には,colonnadeとentablatureと呼ばれる2つの構造が認められることがある。colonnadeでは,節理がつくる柱の幅が大きく直線的であるのに対し,entablatureでは柱の幅が小さく曲がっている。柱状節理の発達する岩体にこうした2つの構造が生じる原因については長年議論されているが,colonnade-entablature間の急激な構造転位の要因など,未だ明らかでないことが多い。そこで我々は,colonnadeとentablatureの両構造を有する岩体である岩手火山の玄武洞溶岩流(葛根田の大岩屋)を対象に,溶岩の内部構造観察,節理の形態観察,岩石組織観察を行い,entablatureの成因を考察した。
岩手火山の南西部に分布する玄武洞溶岩流は,新期網張火山群(中川,1987)の噴出物に属する玄武岩質安山岩溶岩である。岩手県雫石町の葛根田川沿いの「葛根田の大岩屋」には同溶岩流の末端が露出し,下位の火山礫凝灰岩との境界から溶岩流の上面までの厚さは約40-50 mである。溶岩流の下部10 mはcolonnade,中部25 mはentablature,凹凸のある最上部(5-10 m)からなる。colonnadeの柱の幅は50-70 cm程度である。柱の側面をつくるフラクチャーには,フラクチャーの段階的な伸展を示すchisel-mark(stria)が柱にほぼ垂直な方向に生じている。 entablatureに発達するフラクチャーがつくる構造は,見る方向によっては柱のように見えるが,複数の方向から観察すると厚さが5-10 cm程度の板状であることがわかる。この板状構造は2方向のフラクチャーによって形成されている。1つは広範囲にわたってほぼ平行に発達し表面が滑らかなメインフラクチャー,もう1つはメインフラクチャーにほぼ垂直に発達し凹凸の著しい表面をもつサブフラクチャーである。このサブフラクチャーの近傍は他の部分に比べて黒色緻密であり,サブフラクチャーの面にほぼ垂直に間隔2-3 cm,長さ5 cm程度の細かいミニフラクチャーが生じている。 溶岩流最上部には,溶岩本体から上方へ伸びる径1-5 m程度の突起状構造が発達し,突起と突起の間には同質の火砕岩が堆積している。突起状構造の表面に垂直な方向に多数のフラクチャーが発達する。突起状構造に隣接して同質の岩片からなるpyroclastic brecciaが周囲を取り囲み,さらにその外側にtuff brecciaが分布する。これらpyroclastic rockに含まれる岩片にはジグソーフィット構造が認められることがある。また,突起と突起の間にpsuedo-pillow structureをもつ球状の溶岩が認められた。
玄武洞溶岩の岩石組織を偏光顕微鏡とSEM-EDSを用いて観察した。Colonnadeや,Entablatureのサブフラクチャーから離れた部分の試料では,石基の結晶度が高く,斜長石や普通輝石のほかに磁鉄鉱や石英が生じ,ほぼ完晶質であった。それに対し,Entablatureのサブフラクチャー近傍の試料では,石基の結晶度が低く,火山ガラスが残存し,磁鉄鉱や石英はほとんど生じていなかった。また石基の普通輝石マイクロライトには,粒径数10 µmの半自形結晶と,粒径10 µm程度の樹枝状結晶の2種類が認められた。また,このEntablatureのサブフラクチャー近傍には,幅10 µm以下のpalagonite脈が網目状に分布し,palagonite脈に面した火山ガラスとの間には球状の気泡が生じていた。これらの観察から,玄武洞溶岩流のEntablatureに発達するサブフラクチャー近傍では,マグマが未固結の時期に,サブフラクチャーやそこから派生した薄いフラクチャーに沿って水が浸入し,そのことにより急冷が起きたと考えられる。溶岩流最上部の突起状構造や同質火砕岩は,溶岩流の上面に生じた鉛直方向のフラクチャーに沿って水が浸入し,水冷破砕が発生したことでできたと考えられる。
【引用文献】中川 光弘, 東北日本,岩手火山群の形成史, 岩石鉱物鉱床学会誌, 1987, 82 巻, 4 号, p. 132-150
岩手火山の南西部に分布する玄武洞溶岩流は,新期網張火山群(中川,1987)の噴出物に属する玄武岩質安山岩溶岩である。岩手県雫石町の葛根田川沿いの「葛根田の大岩屋」には同溶岩流の末端が露出し,下位の火山礫凝灰岩との境界から溶岩流の上面までの厚さは約40-50 mである。溶岩流の下部10 mはcolonnade,中部25 mはentablature,凹凸のある最上部(5-10 m)からなる。colonnadeの柱の幅は50-70 cm程度である。柱の側面をつくるフラクチャーには,フラクチャーの段階的な伸展を示すchisel-mark(stria)が柱にほぼ垂直な方向に生じている。 entablatureに発達するフラクチャーがつくる構造は,見る方向によっては柱のように見えるが,複数の方向から観察すると厚さが5-10 cm程度の板状であることがわかる。この板状構造は2方向のフラクチャーによって形成されている。1つは広範囲にわたってほぼ平行に発達し表面が滑らかなメインフラクチャー,もう1つはメインフラクチャーにほぼ垂直に発達し凹凸の著しい表面をもつサブフラクチャーである。このサブフラクチャーの近傍は他の部分に比べて黒色緻密であり,サブフラクチャーの面にほぼ垂直に間隔2-3 cm,長さ5 cm程度の細かいミニフラクチャーが生じている。 溶岩流最上部には,溶岩本体から上方へ伸びる径1-5 m程度の突起状構造が発達し,突起と突起の間には同質の火砕岩が堆積している。突起状構造の表面に垂直な方向に多数のフラクチャーが発達する。突起状構造に隣接して同質の岩片からなるpyroclastic brecciaが周囲を取り囲み,さらにその外側にtuff brecciaが分布する。これらpyroclastic rockに含まれる岩片にはジグソーフィット構造が認められることがある。また,突起と突起の間にpsuedo-pillow structureをもつ球状の溶岩が認められた。
玄武洞溶岩の岩石組織を偏光顕微鏡とSEM-EDSを用いて観察した。Colonnadeや,Entablatureのサブフラクチャーから離れた部分の試料では,石基の結晶度が高く,斜長石や普通輝石のほかに磁鉄鉱や石英が生じ,ほぼ完晶質であった。それに対し,Entablatureのサブフラクチャー近傍の試料では,石基の結晶度が低く,火山ガラスが残存し,磁鉄鉱や石英はほとんど生じていなかった。また石基の普通輝石マイクロライトには,粒径数10 µmの半自形結晶と,粒径10 µm程度の樹枝状結晶の2種類が認められた。また,このEntablatureのサブフラクチャー近傍には,幅10 µm以下のpalagonite脈が網目状に分布し,palagonite脈に面した火山ガラスとの間には球状の気泡が生じていた。これらの観察から,玄武洞溶岩流のEntablatureに発達するサブフラクチャー近傍では,マグマが未固結の時期に,サブフラクチャーやそこから派生した薄いフラクチャーに沿って水が浸入し,そのことにより急冷が起きたと考えられる。溶岩流最上部の突起状構造や同質火砕岩は,溶岩流の上面に生じた鉛直方向のフラクチャーに沿って水が浸入し,水冷破砕が発生したことでできたと考えられる。
【引用文献】中川 光弘, 東北日本,岩手火山群の形成史, 岩石鉱物鉱床学会誌, 1987, 82 巻, 4 号, p. 132-150