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[R4-P-1] (エントリー)大分県国東半島、杵築地域に分布する領家変成岩類の変成条件
キーワード:杵築地域、領家変成帯、変成温度圧力条件、バソゾーン
杵築地域は大分県国東半島の南部に位置する地域である。この地域には領家変成岩類が分布している(唐木田ほか, 1968;森山ほか, 1983;石塚ほか, 2005)。杵築地域は中新世以降の火山岩類及び火砕流堆積物に広く覆われており、より下位の白亜紀領家変成岩類の露出は小規模である。石塚ほか(2005)では本地域の領家変成岩類の変成度について、山口県柳井地域における珪線石–カリ長石帯に相当するのではないかという指摘をした。本研究では、この地域における領家変成岩類の変成履歴について検討した。
杵築地域の領家変成岩類は本地域北西部の太田俣水、波多方、小武に点在している。主として泥質片麻岩及び珪質片麻岩、一部で角閃岩が分布しており、片理面の走向傾斜は主に東西方向、北傾斜である。深成岩類は牛屋敷周辺に白雲母黒雲母花崗岩、倉成周辺に角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布している。角閃石黒雲母花崗閃緑岩は面構造が発達しており、一部で泥質片麻岩を捕獲している。
杵築地域に分布する泥質片麻岩の主な鉱物組合せは以下のとおりである。
鉱物組合せI: Sil + Ms + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz (± And)
鉱物組合せII: Sil + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz
なお、鉱物組合せIは本地域内に広く見られ、副成分鉱物として電気石を含む。鉱物組合せIIは北東部、及び南東部の一部で見られる傾向がある。黒雲母のチタン含有量は鉱物組合せIIがより高く、XMgは鉱物組合せIがより高い値を示す。またざくろ石は、Alm成分に富み、鉱物組合せIIはSps成分とGrs成分にわずかに富む組成を示す。また、コアからリムにかけてAlm成分の減少、Sps成分の増加が見られる。
鉱物組合せからみて、本研究地域では、次の2つの変成反応が重要であろう。
(1) And = Sil
(2) Ms + Qz = Als + Kfs + H2O
ここで、P–T図上で反応(1)は負の傾斜を、反応(2)は正の傾斜をもち、両者は互いに交差する。したがって2つのバソゾーン(例えばCarmicheal, 1978)を定義することができる。本研究地域では、2つのバソゾーン(以下のAとB)を認識できる。そしてそれらのバソゾーンはさらに、温度条件から3つのP–T領域(以下の1・2・3)に区分できる。
バソゾーン A(低圧条件、P < 約2.2 kbar)
P–T領域 A-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 A-2 (中間的条件)、And + Kfsが共存
P–T領域 A-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
バソゾーン B (高圧条件、P > 約2.2 kbar)
P–T領域B-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 B-2 (中間的条件)、Sil + Msが共存
P–T領域 B-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
鉱物組合せIについて、鏡下の組織において以下の2つの昇温期の変成反応が、以下の順に起きたことが認識できる。
And → Sil
Ms + Qz → Sil + Kfs + H2O
また、後退期においては、変成反応組織として以下の2つが認識できる。
Sil → And
Sil + Kfs + H2O → Ms + Qz
以上のことを踏まえると、鉱物組合せⅠにおいて、昇温期にはより高い圧力条件(バソゾーンB:P > 2.2 kbar)で温度上昇したが、後退期にはより低い圧力条件(バソゾーンA:P < 2.2 kbar)で温度低下したといえる。したがって、本研究地域の領家変成岩類は、時計回りの変成P–T–t経路を経験している。鉱物組合せIIは、バソゾーン区分Bにおける領域B-3に相当する温度圧力条件を経験したといえる。また鉱物組合せIIが見られる岩石の分布から、鉱物組合せIIは一部接触変成作用を被ったことによるものである可能性がある。
引用文献
Carmichael, D. M. (1978) Amer. Jour. Sci., 278, 769–797.
石塚吉浩ほか(2005) 5万分の1地質図幅 「豊後杵築地域」 産総研,11–18.
唐木田芳文ほか(1968) 地質学論集, 4, 3–21.
森山善蔵ほか(1983) 大分大学教育学部,29–62.
杵築地域の領家変成岩類は本地域北西部の太田俣水、波多方、小武に点在している。主として泥質片麻岩及び珪質片麻岩、一部で角閃岩が分布しており、片理面の走向傾斜は主に東西方向、北傾斜である。深成岩類は牛屋敷周辺に白雲母黒雲母花崗岩、倉成周辺に角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布している。角閃石黒雲母花崗閃緑岩は面構造が発達しており、一部で泥質片麻岩を捕獲している。
杵築地域に分布する泥質片麻岩の主な鉱物組合せは以下のとおりである。
鉱物組合せI: Sil + Ms + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz (± And)
鉱物組合せII: Sil + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz
なお、鉱物組合せIは本地域内に広く見られ、副成分鉱物として電気石を含む。鉱物組合せIIは北東部、及び南東部の一部で見られる傾向がある。黒雲母のチタン含有量は鉱物組合せIIがより高く、XMgは鉱物組合せIがより高い値を示す。またざくろ石は、Alm成分に富み、鉱物組合せIIはSps成分とGrs成分にわずかに富む組成を示す。また、コアからリムにかけてAlm成分の減少、Sps成分の増加が見られる。
鉱物組合せからみて、本研究地域では、次の2つの変成反応が重要であろう。
(1) And = Sil
(2) Ms + Qz = Als + Kfs + H2O
ここで、P–T図上で反応(1)は負の傾斜を、反応(2)は正の傾斜をもち、両者は互いに交差する。したがって2つのバソゾーン(例えばCarmicheal, 1978)を定義することができる。本研究地域では、2つのバソゾーン(以下のAとB)を認識できる。そしてそれらのバソゾーンはさらに、温度条件から3つのP–T領域(以下の1・2・3)に区分できる。
バソゾーン A(低圧条件、P < 約2.2 kbar)
P–T領域 A-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 A-2 (中間的条件)、And + Kfsが共存
P–T領域 A-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
バソゾーン B (高圧条件、P > 約2.2 kbar)
P–T領域B-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 B-2 (中間的条件)、Sil + Msが共存
P–T領域 B-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
鉱物組合せIについて、鏡下の組織において以下の2つの昇温期の変成反応が、以下の順に起きたことが認識できる。
And → Sil
Ms + Qz → Sil + Kfs + H2O
また、後退期においては、変成反応組織として以下の2つが認識できる。
Sil → And
Sil + Kfs + H2O → Ms + Qz
以上のことを踏まえると、鉱物組合せⅠにおいて、昇温期にはより高い圧力条件(バソゾーンB:P > 2.2 kbar)で温度上昇したが、後退期にはより低い圧力条件(バソゾーンA:P < 2.2 kbar)で温度低下したといえる。したがって、本研究地域の領家変成岩類は、時計回りの変成P–T–t経路を経験している。鉱物組合せIIは、バソゾーン区分Bにおける領域B-3に相当する温度圧力条件を経験したといえる。また鉱物組合せIIが見られる岩石の分布から、鉱物組合せIIは一部接触変成作用を被ったことによるものである可能性がある。
引用文献
Carmichael, D. M. (1978) Amer. Jour. Sci., 278, 769–797.
石塚吉浩ほか(2005) 5万分の1地質図幅 「豊後杵築地域」 産総研,11–18.
唐木田芳文ほか(1968) 地質学論集, 4, 3–21.
森山善蔵ほか(1983) 大分大学教育学部,29–62.