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[R5-P-4] (エントリー)関東山地北部秩父帯蛇木ユニットから得られた放散虫化石と砕屑性ジルコンのU-Pb年代
キーワード:秩父帯、ジュラ紀付加体、放散虫化石、ジルコン
はじめに
関東山地に分布するジュラ紀の付加体である北部秩父帯は,傾斜角度などの構造的な特徴から主部と南縁部に区分されてきた(例えば,大久保・堀口,1969).久田ほか(2016)は,蛇紋岩が欠如するといった黒瀬川帯との相違点を挙げながらも,南縁部が黒瀬川帯に属する可能性を指摘している.つまり北部秩父帯内における主部と南縁部の境界は,地質学的に大きな境界である可能性がある.
南縁部の住居附ユニットはKamikawa et al. (1997)により構成岩の堆積年代が求められている一方,同じく南縁部を構成する蛇木ユニットからは,ジュラ紀前期を示す放散虫化石が数か所報告されているのみである(久田・岸田,1987;Kamikawa et. al., 1997;松岡ほか,1998).蛇木ユニットは,主部や南縁部の他のユニットと比較し,構成岩の年代報告が少なく,他のユニットとの比較やその境界の議論は不十分である.そこで本研究では,群馬県上野村から埼玉県小鹿野町にかけて分布する北部秩父帯蛇木ユニットを対象として,放散虫化石と砕屑性ジルコンのU-Pb年代を用いた構成岩の堆積年代の推定を行った.
手法
蛇木ユニット中の珪質頁岩 5 試料(久田・岸田,1987の珪質頁岩を含む)と,チャート 28 試料,頁岩 26 試料をフッ酸処理し,放散虫化石の抽出を試みた.
砕屑性ジルコンは,蛇木ユニット中の砂岩 2 試料から分離し,国立科学博物館のLA-ICP-MSにより年代測定を行った.採取した試料はいずれも岩片の少ないアレナイトで,鉱物比(組成)が類似する.
結果
蛇木ユニット中の珪質頁岩 5 試料からは,Sinemurian~Pliensbachianを示す放散虫化石を得た.チャートの 4 試料からは三畳紀後期のCarnian~Norianを示す放散虫化石が,1 試料からはペルム紀後期を示す放散虫化石が得られた.頁岩からは放散虫化石を得られなかった.
砕屑性ジルコンが示すU-Pb年代の結果は,2 試料とも約 230-280 Maのピークが顕著であった.また,最も若い単一粒子の年代はそれぞれ 223.4±3.5 Ma,230.4±2.9 Maであった.
考察
通常ジュラ紀付加体の構成岩から復元される海洋プレート層序では,砕屑岩の堆積年代は半遠洋性~遠洋性の堆積年代よりも若くなることが一般的である(例えば,脇田,1997).したがって,蛇木ユニットの砕屑岩類(砂岩や頁岩)の堆積年代は,Sinemurian以降と期待される.しかし,砂岩中の砕屑性ジルコンによって求められた年代は,放散虫化石によって求められた珪質頁岩の堆積年代よりも古い.
中間ほか(2010)によると,日本列島では,400-520 Ma,210-280 Ma,160-190 Ma,90-110 Ma,60-80 Maの 5 回の断続的な花崗岩バソリス帯が形成された.蛇木ユニット中の砕屑性ジルコンに見られる 225-280 Maのピークは,このうち,210-280 Maの花崗岩バソリス帯の影響を受けたと考えられる.一方で蛇木ユニットの砂岩には 160-190 Maの粒子が全く含まれない.これは何らかの地形的バリアーの影響により蛇木ユニットに 160-190 Maを示す砕屑性ジルコンが堆積しなかったか,または,蛇木ユニットが 160-190 Maを示す砕屑性ジルコンが堆積する前に沈み込んだことが考えられる.
今後は得られた構成岩の堆積年代とそれに基づき復元された海洋プレート層序を用いて,蛇木ユニットと同じく南縁部の住居附ユニット,主部の上吉田ユニット・柏木ユニットとを比較検討していく予定である.
引用文献
大久保・堀口(1969),5万分の1地質図幅「万場」.
久田ほか(2016),地質学雑誌,122,325–342.
Kamikawa et al. (1997), Sci. Rep. Inst. Geosci., Univ. Tsukuba Sec. B, 18, 19–38.
久田・岸田(1987),地質学雑誌,93,521–523.
松岡ほか(1998),地質学雑誌,104,634–653.
脇田(1997),地球科学,51,300–301.
中間ほか(2010),地学雑誌,119,1161–1172.
関東山地に分布するジュラ紀の付加体である北部秩父帯は,傾斜角度などの構造的な特徴から主部と南縁部に区分されてきた(例えば,大久保・堀口,1969).久田ほか(2016)は,蛇紋岩が欠如するといった黒瀬川帯との相違点を挙げながらも,南縁部が黒瀬川帯に属する可能性を指摘している.つまり北部秩父帯内における主部と南縁部の境界は,地質学的に大きな境界である可能性がある.
南縁部の住居附ユニットはKamikawa et al. (1997)により構成岩の堆積年代が求められている一方,同じく南縁部を構成する蛇木ユニットからは,ジュラ紀前期を示す放散虫化石が数か所報告されているのみである(久田・岸田,1987;Kamikawa et. al., 1997;松岡ほか,1998).蛇木ユニットは,主部や南縁部の他のユニットと比較し,構成岩の年代報告が少なく,他のユニットとの比較やその境界の議論は不十分である.そこで本研究では,群馬県上野村から埼玉県小鹿野町にかけて分布する北部秩父帯蛇木ユニットを対象として,放散虫化石と砕屑性ジルコンのU-Pb年代を用いた構成岩の堆積年代の推定を行った.
手法
蛇木ユニット中の珪質頁岩 5 試料(久田・岸田,1987の珪質頁岩を含む)と,チャート 28 試料,頁岩 26 試料をフッ酸処理し,放散虫化石の抽出を試みた.
砕屑性ジルコンは,蛇木ユニット中の砂岩 2 試料から分離し,国立科学博物館のLA-ICP-MSにより年代測定を行った.採取した試料はいずれも岩片の少ないアレナイトで,鉱物比(組成)が類似する.
結果
蛇木ユニット中の珪質頁岩 5 試料からは,Sinemurian~Pliensbachianを示す放散虫化石を得た.チャートの 4 試料からは三畳紀後期のCarnian~Norianを示す放散虫化石が,1 試料からはペルム紀後期を示す放散虫化石が得られた.頁岩からは放散虫化石を得られなかった.
砕屑性ジルコンが示すU-Pb年代の結果は,2 試料とも約 230-280 Maのピークが顕著であった.また,最も若い単一粒子の年代はそれぞれ 223.4±3.5 Ma,230.4±2.9 Maであった.
考察
通常ジュラ紀付加体の構成岩から復元される海洋プレート層序では,砕屑岩の堆積年代は半遠洋性~遠洋性の堆積年代よりも若くなることが一般的である(例えば,脇田,1997).したがって,蛇木ユニットの砕屑岩類(砂岩や頁岩)の堆積年代は,Sinemurian以降と期待される.しかし,砂岩中の砕屑性ジルコンによって求められた年代は,放散虫化石によって求められた珪質頁岩の堆積年代よりも古い.
中間ほか(2010)によると,日本列島では,400-520 Ma,210-280 Ma,160-190 Ma,90-110 Ma,60-80 Maの 5 回の断続的な花崗岩バソリス帯が形成された.蛇木ユニット中の砕屑性ジルコンに見られる 225-280 Maのピークは,このうち,210-280 Maの花崗岩バソリス帯の影響を受けたと考えられる.一方で蛇木ユニットの砂岩には 160-190 Maの粒子が全く含まれない.これは何らかの地形的バリアーの影響により蛇木ユニットに 160-190 Maを示す砕屑性ジルコンが堆積しなかったか,または,蛇木ユニットが 160-190 Maを示す砕屑性ジルコンが堆積する前に沈み込んだことが考えられる.
今後は得られた構成岩の堆積年代とそれに基づき復元された海洋プレート層序を用いて,蛇木ユニットと同じく南縁部の住居附ユニット,主部の上吉田ユニット・柏木ユニットとを比較検討していく予定である.
引用文献
大久保・堀口(1969),5万分の1地質図幅「万場」.
久田ほか(2016),地質学雑誌,122,325–342.
Kamikawa et al. (1997), Sci. Rep. Inst. Geosci., Univ. Tsukuba Sec. B, 18, 19–38.
久田・岸田(1987),地質学雑誌,93,521–523.
松岡ほか(1998),地質学雑誌,104,634–653.
脇田(1997),地球科学,51,300–301.
中間ほか(2010),地学雑誌,119,1161–1172.