日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R7[レギュラー]新生代の地質事変記録

[1poster40-42] R7[レギュラー]新生代の地質事変記録

2021年9月4日(土) 16:30 〜 19:00 ポスター会場 (ポスター会場)

16:30 〜 19:00

[R7-P-3] レーザーアブレーションICP質量分析法に基づいたジルコンフィッション・トラック年代絶対較正とその意義

*岩野 英樹1、檀原 徹1、平田 岳史2 (1. (株)京都フィッション・トラック、2. 東京大学大学院理学研究科)

キーワード:ジルコン、フィッション・トラック年代測定、絶対較正、レーザーアブレーションICP質量分析法

2000年代以降,ジルコンのフィッション・トラック(FT)年代測定法において,U定量に際しレーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICPMS)が使われるようになり(Košler and Sylvester, 2003),現在では1粒のジルコン粒子からU-Pb年代とFT年代を同時に求めるLA-ICPMSダブル年代測定が定着した(Hasebe et al., 2013, Iwano et al., 2020).本発表では,最近2年間に行った標準試料Fish Canyon Tuff ジルコン(FCT; 28.45 Ma; Schmitz and Bowring, 2001)の繰り返し測定(31回)から得たLA-ICPMS FT年代絶対較正結果を示す.
ジルコンのFT/U-Pbダブル年代測定手順はIwano et al. (2020)に準拠した.FCTジルコンは自然外部面(12回)と研磨内部面(19回)を併用した.他に年代既知5試料(0.77~61Ma)も分析した.自発FT密度を計測後,東京大学地殻化学実験施設設置のLA-ICPMS (Thermo Fisher Scientific社製四重極型ICPMS iCAP-TQとConversion 社製フェムト秒レーザーCARBIDEの組み合せ)により,U-Pb年代とU濃度を同時分析した.同レーザーのビーム径は約10㎛だが,ガルバノ光学系を用いた高速走査により,30㎛角領域を深さ約6μmまで掘削した.スタンダードは,U濃度用としてNIST発行のガラス標準物質SRM610,Pb/U比の補正として91500ジルコン(Wiedenbeck et al., 1995)を用いた.測定した元素及びその同位体は29Si,202Hg,204Pb,206Pb,207Pb,208Pb,232Th,238Uである.FT年代絶対較正は壊変定数8.5×10-17 yr-1 (Yoshioka et al., 2005)を用い,その他の物理パラメータはIwano et al. (2018, 2020)と同じである.
FCTの絶対較正FT年代値は25~34 Maの範囲内でランダムにばらつき,31回の平均値として28.22±0.32 Ma (1SE)を得た.この繰り返し測定結果は,現行のFT年代測定条件(例えば,1回の測定に20~30粒子を分析)に伴う計数誤差に従ったばらつき(ゆらぎ)と考えられる.加重平均を求めたところ,最大と最小年代値の1個ずつが外れ値として棄却され,最終的に28.25±0.51 Maを得た.この値はジルコンU-Pb年代(28.45 Ma)と整合的である.また並行して分析した他の年代既知試料についてもFT年代とU-Pb年代が一致した.このことから,LA-ICPMSによるU定量とそれに基づいた絶対較正によるFT年代が正確に機能すると判断される.一方,91500ジルコン片について,ランダムに測定した538点のU濃度平均値は81ppmとなったが,最小と最大の範囲は62~101ppmと比較的大きいことが明らかになった.Iwano et al. (2020) が提案したゼータ較正では,同一マトリクスU濃度スタンダード候補として91500ジルコンを用い,1回のセッション内で分析する年代標準ジルコンからセッションごとのゼータ値を決め,未知試料に適用する.しかしその場合,ゼータ(FCT)分析でのランダムなゆらぎ(±10%)と91500のU濃度不均一(±20%)が未知試料の年代決定の不確定要因として潜む可能性が示唆される.
文献:Hasebe et al. (2013) Island Arc 22, 280-291. Iwano et al. (2018). Chemical Geology, 488, 87-104. Iwano et al. (2020) Island Arc. 29:e12348. Košler and Sylvester (2003) Reviews in Mineralogy & Geochemistry 53, 243–75. Schmitz and Bowring (2001) Geochimica et Cosmochimica Acta 65, 2571–2587.Wiedenbeck et al. (1995) Geostandards Newsletter 19, 1–23. Yoshioka et al. (2005) NIM-A 555, 386–395.