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[R9-P-3] 日本列島中央部の内陸盆地における更新世末~完新世の堆積システムの変遷
キーワード:更新世~完新世、湖堆積物、堆積相解析、諏訪湖
はじめに:最終氷期末から完新世にかけてには,短期間の急激な温暖化や寒冷化といったドラスティックな気候変動を伴いながら安定・温暖な気候に移行した(Lowe et al., 2001).気候変動は,陸上域において,化学風化や土壌化,堆積システムを規定する一要素である(Shanley and McCabe, 1994; Miall, 1996; Retallack, 2001).特に内陸盆地は,海流やユースタシーの影響を受けにくく,その堆積空間や砕屑物供給の変遷は,気候変動とテクトニクスに対して鋭敏に反応する (Shanley and McCabe, 1994).日本列島中央部に位置する諏訪盆地は,海洋から離れ独立した内陸盆地であり,冬季に寒冷・乾燥化する内陸型気候に特徴づけられる.このことから,その堆積システムや砕屑物供給・生産プロセスは,気候変動,特に寒冷化に対して鋭敏に反応してきたことが期待できる.本研究では,諏訪湖南岸で掘削された堆積物コア (ST2020)を対象に,諏訪盆地における更新世末~完新世の堆積システムの変遷を追跡した.
コアの概要:ST2020コアは,総掘削長30.0 mのオールコアボーリングであり,諏訪湖から約20 m離れた陸上で掘削された.このコアは,礫,砂,泥,珪藻質泥,火山灰,亜炭,泥炭から構成される.8層準から植物片を採取し,放射性炭素年代測定とIntCal20による暦年較正,堆積速度曲線の作成を行った.このサイトでは,深度21.4 m (約16.7 cal ka BP)を境に,堆積速度が1.12 m/千年から0.74 m/千年へと低下する.
ユニット区分:粒度,堆積構造,層厚,構成物等の堆積学的特徴,細根化石,土色,土壌微細構造等の古土壌学的特徴,TOC, TN, C/N比より,下位より,ユニットI~VIの6ユニットに区分できる.ユニットI (深度30.0~29.1 m)は,根化石等の干上がった証拠に欠く泥質堆積物からなり,沼沢地の堆積物と解釈できる.ユニットII (深度29.1~21.4 m)は,主に砂泥互層,亜炭層,泥炭層から構成され,根化石や粘土集積構造等の古土壌構造を豊富に産する.また,数枚の逆級化砂層を挟在することから,蛇行河川システムの氾濫原や後背湿地,チャネル・バーの堆積物と解釈できる.ユニットIII (深度21.4~18.6 m)は,主に有機質泥層から構成され,水成古土壌の特徴であるフランボイダルパイライトや青灰色土色,グライ化層準を伴うことから,沼沢地の堆積物と解釈できる.この泥層は,著しく高いTOC, TNを示し,珪藻化石を豊富に含む.ユニットIV (深度18.6~13.4 m)は,厚い塊状有機質泥層と珪藻質泥層から構成され,湖の堆積物と解釈できる.このユニットの下部には,約40 cmの砕屑性葉理灰色粘土層が存在する.ユニットV (深度13.4~6.7 m)は,上方粗粒化・厚層化・黒色化サクセッションを示す礫層,砂層,有機質泥層から構成され,プロデルタ~デルタプレーンの堆積物と解釈できる.ユニットVI (深度6.7~4.8 m)は,有機質泥層から構成され,沼沢地の堆積物と解釈できる.
議論:ユニット区分と堆積速度曲線から,堆積システムの変遷とその年代を検討した.その結果,約26.7~16.7 cal ka BPに低湖水準期,約16.7 cal ka BP以降に湖進期となり,約12.2~5.7 cal ka BPに高湖水準期,約5.7 cal ka BPからデルタが前進したと考えられる.約16.7 cal ka BPは,蛇行河川システムから滞水域環境への転換期および堆積速度が低下する時期に相当する.諏訪湖の別サイトにおける花粉分析から,この時期は,諏訪盆地の周辺で亜高山帯針葉樹林が減少し,冷温帯林が拡大した時期に相当する (安間ほか, 1990).このことから,堆積速度の低下と堆積環境の変遷は,更新世末~完新世への温暖化による集水域の森林限界の上昇と植生被覆率の増大が砕屑物生産量の減少を招いたことに起因する可能性がある.
文献: 安間ほか, 1990, 地質学論集, 36, 179–194. Lowe et al., 2001, Quatern. Sci. Rev., 20, 1175–1187. Miall, 1996, Springer-Verlag, Berlin, 582p. Retallack, 2001, Blackwell Sci. Publ., Oxford, 404p. Shanley and McCabe, 1994, Am. Assoc. Petrol. Geol. Bull. 78, 544–568.
コアの概要:ST2020コアは,総掘削長30.0 mのオールコアボーリングであり,諏訪湖から約20 m離れた陸上で掘削された.このコアは,礫,砂,泥,珪藻質泥,火山灰,亜炭,泥炭から構成される.8層準から植物片を採取し,放射性炭素年代測定とIntCal20による暦年較正,堆積速度曲線の作成を行った.このサイトでは,深度21.4 m (約16.7 cal ka BP)を境に,堆積速度が1.12 m/千年から0.74 m/千年へと低下する.
ユニット区分:粒度,堆積構造,層厚,構成物等の堆積学的特徴,細根化石,土色,土壌微細構造等の古土壌学的特徴,TOC, TN, C/N比より,下位より,ユニットI~VIの6ユニットに区分できる.ユニットI (深度30.0~29.1 m)は,根化石等の干上がった証拠に欠く泥質堆積物からなり,沼沢地の堆積物と解釈できる.ユニットII (深度29.1~21.4 m)は,主に砂泥互層,亜炭層,泥炭層から構成され,根化石や粘土集積構造等の古土壌構造を豊富に産する.また,数枚の逆級化砂層を挟在することから,蛇行河川システムの氾濫原や後背湿地,チャネル・バーの堆積物と解釈できる.ユニットIII (深度21.4~18.6 m)は,主に有機質泥層から構成され,水成古土壌の特徴であるフランボイダルパイライトや青灰色土色,グライ化層準を伴うことから,沼沢地の堆積物と解釈できる.この泥層は,著しく高いTOC, TNを示し,珪藻化石を豊富に含む.ユニットIV (深度18.6~13.4 m)は,厚い塊状有機質泥層と珪藻質泥層から構成され,湖の堆積物と解釈できる.このユニットの下部には,約40 cmの砕屑性葉理灰色粘土層が存在する.ユニットV (深度13.4~6.7 m)は,上方粗粒化・厚層化・黒色化サクセッションを示す礫層,砂層,有機質泥層から構成され,プロデルタ~デルタプレーンの堆積物と解釈できる.ユニットVI (深度6.7~4.8 m)は,有機質泥層から構成され,沼沢地の堆積物と解釈できる.
議論:ユニット区分と堆積速度曲線から,堆積システムの変遷とその年代を検討した.その結果,約26.7~16.7 cal ka BPに低湖水準期,約16.7 cal ka BP以降に湖進期となり,約12.2~5.7 cal ka BPに高湖水準期,約5.7 cal ka BPからデルタが前進したと考えられる.約16.7 cal ka BPは,蛇行河川システムから滞水域環境への転換期および堆積速度が低下する時期に相当する.諏訪湖の別サイトにおける花粉分析から,この時期は,諏訪盆地の周辺で亜高山帯針葉樹林が減少し,冷温帯林が拡大した時期に相当する (安間ほか, 1990).このことから,堆積速度の低下と堆積環境の変遷は,更新世末~完新世への温暖化による集水域の森林限界の上昇と植生被覆率の増大が砕屑物生産量の減少を招いたことに起因する可能性がある.
文献: 安間ほか, 1990, 地質学論集, 36, 179–194. Lowe et al., 2001, Quatern. Sci. Rev., 20, 1175–1187. Miall, 1996, Springer-Verlag, Berlin, 582p. Retallack, 2001, Blackwell Sci. Publ., Oxford, 404p. Shanley and McCabe, 1994, Am. Assoc. Petrol. Geol. Bull. 78, 544–568.