日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R10[レギュラー]炭酸塩岩の起源と地球環境

[1poster51-55] R10[レギュラー]炭酸塩岩の起源と地球環境

2021年9月4日(土) 16:30 〜 19:00 ポスター会場 (ポスター会場)

16:30 〜 19:00

[R10-P-3] (エントリー)秋吉石灰岩における石炭紀バシキーリアン期の層孔虫とケーテテス
―礁環境による形態変異の検討―

*須蒲 翔太1、江﨑 洋一1、増井 充1、杦山 哲男2、長井 孝一3、足立 奈津子1 (1. 大阪市立大学、2. 福岡大学、3. 元琉球大学)

キーワード:層孔虫、ケーテテス、石炭紀、秋吉石灰岩、礁

秋吉石灰岩は前期石炭紀から中期ペルム紀にパンサラッサ海の海洋島頂部で形成された生物礁複合体起源の石灰岩である(太田,1968).従来,秋吉生物礁の研究では,礁環境ごとの造礁生物の組み合わせや礁の構築様式の検討が行われてきた.しかし,層孔虫やケーテテスなどの主要な造礁生物の内部形態や外部形態の変異に関する詳細な検討は行われていない.本発表では,礁環境を外洋側から順に下部礁縁,上部礁縁,礁嶺,外側礁原,内側礁原,背礁斜面に区分した上で(Sugiyama and Nagai,1994),石炭紀バシキーリアン期の層孔虫とケーテテスの礁環境ごとの外部形態と内部形態変異及び相互の関係,その変異をもたらした生物や環境要因を考察する.
 縦方向に伸長するピラーと横方向に伸長するラミナを持つことで特徴づけられる層孔虫は,ピラーに円柱状のA型と円錐状のB型の形状が識別されている.ケーテテスは「はしご状」の骨格構造を持つことで特徴づけられる. 外部形態変異はスラブ面での成長形態を観察した.
 外部形態変異は,ケーテテスと層孔虫で共に大きい.ケーテテスは一般的にドーム状を呈するが,礁嶺では層状,背礁斜面ではドーム状,不規則塊状や層状を呈する.層孔虫は成長中断面をしばしば示し,一般的にドーム状を呈するが,礁嶺と背礁斜面では層状,上部礁縁では掌状を呈する.また,礁嶺では層孔虫とケーテテスが相互に被覆している様子が顕著に見られる.
 内部形態変異は測定を行い,測定部位は次の通りである.層孔虫では「ラミナ間隔」,「ピラー幅」,「ピラーのみかけの面積」,ケーテテスでは「床板間隔」,「床板幅」,「床板10枚あたりの面積」である.
 内部形態変異に関して,礁環境による変異はケーテテスでは極めて小さいのに対し,層孔虫では大きい.層孔虫では,礁嶺でピラーが円錐状の形状(B型)を示し,他の礁環境で円柱状の形状(A型)を示す.背礁斜面では,A型とB型の両方が認められる.
 下部礁縁などで層孔虫のピラーが円柱状のA型を示すのは,成長を上位方向に継続させる作用が働いたためと考えられる.特に下部礁縁では水深が深く,上方に成長可能な空間が拡がっていることが関係している.一方,礁嶺で円錐状のB型を示すのは,ケーテテスと相互に被覆することで上位方向に成長を継続させる働きが作用しなかったことに起因する.さらには水深が浅く上方に成長可能な空間が制約されていることが関係している. 背礁斜面で内部形態が特定の形状を示さないのは,基底部では層孔虫が排他的に基盤部に固着・成長し,より上位部では層孔虫とケーテテスが相互に被覆するように成長していることから,上位方向に成長しやすい環境としにくい環境が共存していることに起因する.一方,ケーテテスの内部形態変異が小さいのは,堅固な「はしご状」の骨格構造を形成することに関係し,干出などによる成長中断が生じても,内部形態が変化し難いことに起因している.
 今後は,本検討層準よりも上位層準の層孔虫やケーテテスの造礁生物の形態変異にも注目しながら,前期石炭紀の礁の構築様式を詳しく検討していく必要がある.
引用文献
太田正道 (1968):地向斜型生物礁複合体としての秋吉石灰岩層群.秋吉台科学博物館報告,no.5,1-44.
Sugiyama,T.and Nagai,K.(1994):Reef facies and paleoecology of reef-building corals in the lower part of the Akiyoshi Limestone Group (Carboniferous),Southwest Japan.Courier Forschungsinstitut Senckenberg,172:231-240.