日本地質学会第128年学術大会

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ポスター発表

R19[レギュラー]応用地質学一般およびノンテクトニック構造

[1poster63-67] R19[レギュラー]応用地質学一般およびノンテクトニック構造

2021年9月4日(土) 16:30 〜 19:00 ポスター会場 (ポスター会場)

16:30 〜 19:00

[R19-P-5] (エントリー)布田川断層の破砕帯における長石を用いたルミネッセンス年代測定

*松岡 陽司1、大橋 聖和1、田村 亨2、塚本 すみ子3 (1. 山口大学、2. 産業技術総合研究所地質調査総合センター、3. Leibniz Institute for Applied Geophysics)

キーワード:ルミネッセンス年代測定、断層、地震、長石

はじめに
 ルミネッセンス年代測定法は,鉱物中の自然放射線に由来する捕獲電子が熱や光の刺激を受け再結合することを利用した年代測定法である(奥村・下岡, 2011).ルミネッセンス信号が熱によってリセットすることから,ルミネッセンス年代測定法を活断層の活動年代測定に利用できる可能性が唱えられており,実際にKim et al.(2019)やOohashi et al.(2020)などの高速摩擦試験の結果からルミネッセンス信号のリセットが確認されている.天然の断層帯で地震とルミネッセンス信号のリセットの関連性を明らかにするためには,(1) 最新活動時期とその時のすべりパラメータ(例えばすべり速度やすべり量),(2) 最新活動面,(3)熱水などの地震とは関係ないルミネッセンス信号のリセット要因がないこと,の以上3点がわかっている必要がある.
 本研究では,これらの情報が既知である,2016年熊本地震を引き起こした布田川断層の露頭より採取した試料を用いて,ルミネッセンス年代測定を行った.

布田川断層の等価線量値  
 本研究では,大橋・田村 (2016)で最新すべり面が報告された布田川断層の露頭に暗幕をかけ,遮光状態で断層ガウジ試料,断層角礫試料,母岩である阿蘇-4火砕流堆積物(断層から3 m及び30 m離れた地点)を採取した.断層角礫試料はブロック状で採取し,暗室ですべり面からの距離に応じて1 cmごとにサブサンプリングを行った.
 最初に手でほぐした試料を流水下でふるいにかけ,73~125 μmの粒子を得た.次に,比重2.58~2.63 g/cm³の長石を得るために,2.63 g/cm³の重液を用いて重鉱物を除去し,次いで2.58 g/cm³の重液を用いて火山ガラスなどの軽鉱物を除去した.最後に,マグネティックセパレーターで磁性鉱物を分離し,長石を抽出した.本研究で用いた断層試料および母岩(阿蘇-4火砕流堆積物)に含まれる長石はXRD測定よりAnorthiteが大部分であり,少量のOrthoclaseが存在していた.
 ルミネッセンス測定は産業技術総合研究所のRisø TL/OSL reader を用いpIRIR₂₂₅法で測定した.また,pIRIR₂₂₅法の測定プロトコルのうち低温で励起光を当てる際にIR₅₀測定も実施した.今回の測定は長石試料であるため,人工太陽を用いたフェーディングテストも実施した.
 フェーディングテストの結果より,フェーディング率を表すg値はIR₅₀で平均11.9±3.4 %/decadeと大きな値であるのに対し, pIRIR₂₂₅は平均1.2±1.0 %/decadeであった.フェーディング補正後の等価線量値は,pIRIR₂₂₅で約170~185 Gy,IR₅₀で約90~120 Gyの範囲で求められた.等価線量値はすべり面からの距離とは関係なく全体として一様であったことから,年代値はほとんど同じ値を示すと考えられる.これは,2016年熊本地震および古地震学的に求められている過去数回の活動で,ルミネッセンス信号が完全リセットされなかったことを意味する.

参考文献
Kim et al. (2019). Tectonophysics 769 (2019) 228191.
Oohashi et al. (2020). Journal of Geophysical Research Volume125, Issue10 October 2020, https://doi.org/10.1029/2020JB019900
大橋聖和・田村友識. (2016). 2016年熊本地震で動いた布田川断層の活断層露頭. 地質学雑誌, 122.
奥村輔・下岡順直. (2011). ルミネッセンス年代値を開始するための心得. 地質技術, 1, 5-17.