日本地質学会第128年学術大会

講演情報

シンポジウム

S1.[シンポ]球状コンクリーションの科学–理解と応用-(一般公募なし)

[2ch101-09] S1.[シンポ]球状コンクリーションの科学–理解と応用-(一般公募なし)

2021年9月5日(日) 09:30 〜 12:30 第1 (第1)

座長:勝田 長貴、吉田 英一、長谷川 精

09:45 〜 10:00

[S1-O-2] (招待講演)アンモノイドを含む石灰質コンクリーションの産状

*御前 明洋1、村宮 悠介2 (1. 北九州市立自然史・歴史博物館、2. 深田地質研究所)

コンクリーションの中にはしばしば保存の良い化石が含まれるため,古生物の研究を行う上で,コンクリーションの形成メカニズムに関する理解は重要である.例えば,化石化過程のどのタイミングでコンクリーションが形成され,どのような情報が保存され,どのような情報が失われたのかを把握することは,詳細な古生態復元にとって不可欠となる.したがって,古生代~中生代の海成層より多産するアンモノイド類に関しても,その化石化過程とコンクリーション形成との関係について,これまで多くの研究が行われてきた.一方,アンモノイド類を含むコンクリーションの産状は,コンクリーションが方解石で形成されている場合と菱鉄鉱で形成されている場合,アンモノイドがコンクリーション中に一個体のみ含まれる場合と多数の化石が密集して含まれる場合,殻全体がコンクリーションに含まれる場合と殻の一部だけが含まれる場合など様々で,それらに応じて形成過程を検討する必要がある.
 演者らは,北海道に分布する白亜系蝦夷層群から,上部に平らな形態のアンモノイド類やイノセラムス類が横たわる産状の石灰質コンクリーションを多数発見し,その形成メカニズムに注目して研究を行っている.主な調査地域は,北海道北西部の羽幌川上流域で,この地域には蝦夷層群の佐久層上部と羽幌川層が分布する.対象とするコンクリーションの多くは,カンパニアン階下部に対比される羽幌川層最上部の岩相ユニットUi-jより産出した.岩相ユニットUi-jは,主に暗灰色泥岩からなり,イノセラムス類のInoceramus (Platyceramus) japonicusや,Sphenoceramus naumanni,アンモノイド類の,Phyllopachyceras ezoenseや,Gaudryceras tenuiliratumHauericeras angustumYokoyamaoceras ishikawaiPolyptychoceras (Subptychoceras) yubarenseなど,多様な化石を含む.羽幌地域の岩相ユニットUi-jのコンクリーション中に含まれるこれらの化石は,一般に保存が極めて良く,殻のアラレ石が残されているものも多い.この層準より産出するコンクリーションは,しばしば上部が平らになっており,そこにI. (P.) japonicusの離弁殻や,H. angustumなどの化石が層理面と平行に含まれる.なお,二枚貝のI. (P.) japonicusは殻の膨らみがそれほど強くない比較的扁平な殻を持ち,殻高は大きいものでは20 cmを超える.また,H. angustumは大きいものでは直径が20 cmに達する正常巻アンモノイドであるが,直径に対する殻の幅が6分の1程度しかなく,極端に厚みの小さい円盤状の殻を持つ.これらのコンクリーションの下部には,他のアンモノイド類や二枚貝類,ウニ類,植物片などの多くの化石が含まれる.露頭では,コンクリーション下部の生物片の多い部分は,側方にコンクリーション周辺の堆積物まで伸びるのが観察できる.コンクリーションを層理面に垂直に切断した研磨面を観察すると,コンクリーションの中央に周辺よりも色の濃い部分があり,この色の濃い部分が下部の生物片を多数含む部分から上部に横たわる化石に向かって伸びている.上部のH. angustumなどの化石は,中央の色の濃い部分よりも外側では圧密の影響で変形し折れ曲がっていることもある.炭素同位体比分析の結果,コンクリーションは全体として,おおよそ−20~−5‰(VPDB)の低い値で特徴づけられることが分かった.走査型X線分析顕微鏡による元素分布分析の結果,中央の色の濃い部分と周辺部分では元素分布に差が見られ,中央部では周辺部に比べて,Caは多く,Si,Mn,Feは少なかった.また,炭素・酸素同位体比においても,中央部と周辺部で値に差が見られ,相対的に中央部は炭素同位体比は低く,酸素同位体比は高い傾向があった.
 以上の観察結果より,これらのコンクリーションは,下部の生物片が多い層準に含まれる有機物が分解されて発生した重炭酸イオンの移動が,その上に埋没するI. (P.) japonicusや,H. angustumの殻によって遮られることによりその部分での濃度が高くなり,間隙水中のカルシウムイオンとの過飽和反応が局所的に生じることによって形成されたと考えられる.また,少なくとも中央の色の濃い部分は圧密の影響を受ける前に形成されたと考えられるが,中央部と周辺部の形成には,時間的なギャップがあった可能性がある.