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[R14-O-6] 方解石の機械的双晶による差応力と埋没深度の推定
キーワード:応力インバージョン、差応力、埋没深度、機械的双晶、房総半島
方解石の機械的双晶から差応力と埋没深度を推定した.その結果,地質学的に矛盾の無い結果が得られたので報告する.方解石双晶の方向データについて,双晶を形成したときの主応力軸の方向・応力比・無次元差応力(双晶を形成するための分解剪断応力τcで差応力を規格化した値)を決定する逆問題を構成し,解くことができる(山路・若森,本セッション).他方,方解石双晶では,その密度(単位長さあたりの双晶ラメラの数)から差応力を推定する方法も広く行われている.密度から差応力への換算式には,Rowe and Rutter (1990), Sakaguchi et al. (2011), Rybacki et al. (2013) などがある.しかしRybackiらの実験結果を見ると,密度と差応力との相関はよくない.差応力へのこれら2つのアプローチを,実データにもとづいて比較してみた.
外房地域の中期中新統天津層中の2地点の方解石脈から採られた方解石多結晶体に,まず前者の方法を適用した.その結果,2試料からあわせて6種類の応力が検出された.それらの主軸方向は,小断層解析で推定されていた応力と調和的である.差応力の決定については,τcの値が不確定であることがこのアプローチの弱点なのだが,変形実験で推定されているτcの値5~10 MPa(e.g., Lacombe, 2010)を使うと,決定された差応力は > 100,22~44,43~86,15~30,19~38,23~46 MPaとなった.無次元差応力が20程度より大きな高差応力でできた双晶では,無次元差応力の決定精度が落ちる.そこで,100 Maをこえるという最初の解を,下の議論からはずす.
差応力と応力比と主軸方向が分かれば、Byerlee則を仮定し,双晶形成時の埋没深度の最小値を決定することができる(山路・若森,本セッション).Kamiya et al. (2020) にならって上載層の代表的密度を2100 kg m−3とすると,サンプリング地点の最小深度は1.1~2.3,1.5~3.1,1.5~3.0,2.2~4.4,2.1~4.2 kmとなった.これらは外房地域の層序と矛盾がない.すなわち,試料採取層準から上総層群上部までの積算層厚は約4 kmだから(中嶋ほか,1981;七山ほか,2016;宇都宮・大井,2019),サンプリング地点の埋没深度が1~4 kmのときに双晶が形成されたと考えられる.
双晶密度の平均値は2つの試料で55.9 /mmと59.6 /mmであった.Rowe and Rutter (1990)の換算式を使ったところ,上記の2サンプルから推定した差応力は247 ± 43 MPaと251 ± 43 MPaとなった.これらの値を深度に換算すると20 kmをこえ,天津層の最小埋没深度として非現実的な値になってしまった.原因ははっきりしないが,換算式を作るための変形実験が比較的高温かつ高応力で行われているため,地下数kmという浅所には適用できないのかもしれない.今回,双晶密度による差応力の推定値が過大になった原因は,この推定方法が単一の応力ステージしか考慮していないことも可能性として考えられる.複数の応力ステージを経験した今回の試料では,密度から換算した差応力が過大評価されたと考えられる.
【引用文献】Kamiya et al., 2020, Island Arc, 29, e12344. / Lacombe, 2010, Oil Gas Sci., 65, 809–838. /中嶋ほか, 1981, 鴨川地域の地質,1/5万地質図幅./ 七山ほか,2016,茂原地域の地質,1/5万地質図幅./ Rowe and Rutter, 1990, J. Struct. Geol., 12, 1–17. / Rybacki et al., 2013, Tectonophysics, 601, 20–36. / Sakaguchi et al., 2011, Geophys. Res. Lett., 28, L09316. / 宇都宮・大井,2019,上総大原地域の地質,1/5万地質図幅.
外房地域の中期中新統天津層中の2地点の方解石脈から採られた方解石多結晶体に,まず前者の方法を適用した.その結果,2試料からあわせて6種類の応力が検出された.それらの主軸方向は,小断層解析で推定されていた応力と調和的である.差応力の決定については,τcの値が不確定であることがこのアプローチの弱点なのだが,変形実験で推定されているτcの値5~10 MPa(e.g., Lacombe, 2010)を使うと,決定された差応力は > 100,22~44,43~86,15~30,19~38,23~46 MPaとなった.無次元差応力が20程度より大きな高差応力でできた双晶では,無次元差応力の決定精度が落ちる.そこで,100 Maをこえるという最初の解を,下の議論からはずす.
差応力と応力比と主軸方向が分かれば、Byerlee則を仮定し,双晶形成時の埋没深度の最小値を決定することができる(山路・若森,本セッション).Kamiya et al. (2020) にならって上載層の代表的密度を2100 kg m−3とすると,サンプリング地点の最小深度は1.1~2.3,1.5~3.1,1.5~3.0,2.2~4.4,2.1~4.2 kmとなった.これらは外房地域の層序と矛盾がない.すなわち,試料採取層準から上総層群上部までの積算層厚は約4 kmだから(中嶋ほか,1981;七山ほか,2016;宇都宮・大井,2019),サンプリング地点の埋没深度が1~4 kmのときに双晶が形成されたと考えられる.
双晶密度の平均値は2つの試料で55.9 /mmと59.6 /mmであった.Rowe and Rutter (1990)の換算式を使ったところ,上記の2サンプルから推定した差応力は247 ± 43 MPaと251 ± 43 MPaとなった.これらの値を深度に換算すると20 kmをこえ,天津層の最小埋没深度として非現実的な値になってしまった.原因ははっきりしないが,換算式を作るための変形実験が比較的高温かつ高応力で行われているため,地下数kmという浅所には適用できないのかもしれない.今回,双晶密度による差応力の推定値が過大になった原因は,この推定方法が単一の応力ステージしか考慮していないことも可能性として考えられる.複数の応力ステージを経験した今回の試料では,密度から換算した差応力が過大評価されたと考えられる.
【引用文献】Kamiya et al., 2020, Island Arc, 29, e12344. / Lacombe, 2010, Oil Gas Sci., 65, 809–838. /中嶋ほか, 1981, 鴨川地域の地質,1/5万地質図幅./ 七山ほか,2016,茂原地域の地質,1/5万地質図幅./ Rowe and Rutter, 1990, J. Struct. Geol., 12, 1–17. / Rybacki et al., 2013, Tectonophysics, 601, 20–36. / Sakaguchi et al., 2011, Geophys. Res. Lett., 28, L09316. / 宇都宮・大井,2019,上総大原地域の地質,1/5万地質図幅.