日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R14[レギュラー]テクトニクス

[3ch112-19] R14[レギュラー]テクトニクス

2021年9月6日(月) 13:00 〜 15:45 第1 (第1)

座長:山口 飛鳥、宮川 歩夢、福地 里菜

15:30 〜 15:45

[R14-O-8] 山口県北東部,長門峡断層のトレンチ調査(その2):断層面のSEM・STEM観察

*相山 光太郎1、平野 公平2 (1. 一般財団法人電力中央研究所、2. 株式会社セレス)

キーワード:活断層、非活断層、走査型電子顕微鏡、走査型透過電子顕微鏡、断層面

断層運動で変形した粘土鉱物粒子は定向配列を示すことが知られている(例えば,Janssen et al., 2012).一方,熱水変質により新たに晶出され,断層運動で変形していない粘土鉱物粒子は面-端および端-端接触を伴うランダム配列を呈していた(Janssen et al., 2012, 2014).したがって,ある断層面が活動を停止した後に熱水変質を被った場合,その断層面を構成する粒子の間(表面)にランダム配列を示す粘土鉱物粒子が新たに晶出する可能性がある.また,新たに晶出した粘土鉱物粒子は一部で断層面を横断しているかもしれない.
 長門峡断層は山口県北東部に分布する活断層であり(山内・白石,2013),溶結凝灰岩主体の阿武層群(白亜紀後期)に発達する(今岡ほか,2019).本断層の周辺では,現在の地温勾配は20 ℃/kmで29 ℃以上の温泉は存在しないが,白亜紀後期の火成活動で形成された蔵目喜銅山や,0.165 MaのK-Ar年代を示す第四紀火山が分布するため(高橋,1971; Furuyama, et al., 2002; 西村ほか,2012),白亜紀後期から中期更新世までの間には,熱水活動があった時期があると考えられる.
 本研究では,長門峡断層で掘削されたトレンチ(相山ほか,2021)から,約4,500年前以降に活動した断層面(F1)と約13万年前の段丘礫層に覆われる断層面(F2)の試料をそれぞれ,断層ガウジとカタクレーサイトの境界から採取し,SEM・STEM観察等を実施した. SEM観察では,凍結乾燥処理した断層面上を観察した.またSTEM観察では,SEM観察した断層面から条線に平行・断層面に直交する方向で採取された薄片(F1,またはF2を伴う断層ガウジ試料)に含まれる粘土鉱物粒子の分布形態等を観察した.
 F1:SEM観察の結果,F1上には条線が認められ,F1はナノサイズの板状粒子(粘土鉱物粒子)から構成されていた(図aおよびb).STEM観察の結果,粘土鉱物粒子は顕著に定向配列し,P面を形成するものや,F1やR1面に沿うものがある(図c~e).以上のSEM・STEM観察では,F1を横断する鉱物粒子やランダム配列する粘土鉱物粒子は認められなかった.
 F2:SEM観察の結果,F2上には条線が認められ,多くのランダム配列するイライト粒子と,いくつかの重晶石が見られた(図f~i).重晶石周辺のF2はバルジ状に盛り上がり,クラックを伴う.また,F2は2 μm程度の粘土鉱物粒子から構成されていた.STEM観察の結果, F2は重晶石を中心に凸状を呈し,重晶石に横断されていたことから(図jおよびk),断層活動後(F2形成後)に重晶石が断層ガウジを押し広げながら晶出・成長することで,F2が凸状に変形し,クラックが形成されたと考えられる.
 以上の結果から,F2は重晶石やランダム配列するイライト粒子が晶出して以降,活動していないと考えられる.また,トレンチ横で掘削されたボーリングコアに認められる熱水粘土脈中のイライトでK-Ar年代分析を実施した結果,73.2 ± 1.6 Maの年代値が得られた.したがって,F2で認められたイライト粒子は約73 Maの熱水活動で晶出した可能性がある.さらに重晶石もまた,熱水鉱脈に産する場合があることから(例えば,黒田・諏訪,1983),その熱水活動に関連して晶出したのかもしれない.一方,近傍にあるF1も約73 Maの熱水変質を被っていた場合,その熱水変質以降(例えば,約4,500年前以降)の断層活動によりイライト粒子は定向配列し,重晶石は粉砕されて確認できなくなった可能性がある.
 本研究のSEM分析結果は,電力委託研究「破砕部性状等による断層の活動性評価手法の高度化に関する研究(フェーズ2)」によって行われた研究成果の一部である.ここに記して感謝の意を表する.
引用文献 1) 相山ほか,2021,日本地質学会第128年学術大会講演要旨.2) Furuyama et al., 2002, Bull. Volcanol. Soc. Japan, 47, 481–487. 3) 今岡ほか,2019,地質学雑誌,125,529–553.4) Janssen et al., 2012, Jour. Struct. Geol., 43, 118–127. 5) Janssen et al., 2014, Jour. Struct. Geol., 65, 100–116. 6) 黒田・諏訪,1983,偏光顕微鏡と岩石鉱物 第2版,343p.7) 西村ほか,2012,山口県地質図 第3版(15万分の1)および同説明書,167p.8) 高橋,1971,温泉科学,22,39–46.9) 山内・白石,2013,立命館地理学,25,15‒35.