日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R1[レギュラー]深成岩・火山岩とマグマプロセス

[3ch301-12] R1[レギュラー]深成岩・火山岩とマグマプロセス

2021年9月6日(月) 08:00 〜 11:45 第3 (第3)

座長:金丸 龍夫、道林 克禎、針金 由美子

11:30 〜 11:45

[R1-O-12] 西南日本弧北陸地域に分布する前期~中期中新世火山岩類の岩石学的・地球化学的研究

*渡邉 駿1、高橋 俊郎1、下田 玄2、後藤 孝介2 (1. 新潟大学、2. 国立研究開発法人産業技術総合研究所)

キーワード:西南日本弧、中新世、島弧火山岩、北陸地域 、Sr-Nd-Pb同位体

【はじめに】  
 西南日本弧東部北陸地域には後期漸新世~中期中新世にかけて形成された火山岩類が分布する.富山県東部~福井県東部には前期~中期中新世に活動した安山岩類が分布し,ソレアイト系列やカルクアルカリ系列の火山岩,高マグネシア安山岩(HMA),アダカイト質火山岩など多様な岩石学的特徴を示す火山岩類から構成される.これら火山岩類は主要元素および微量元素組成に基づく成因の考察が行われている(石渡・大浜,1997;高橋・周藤,1999など).北陸地域は西南日本弧の東端にあたり,東西日本弧の会合部である北部フォッサマグナと糸魚川-静岡構造線を介して接している.従って,本地域における新第三紀火成活動の起源を解明することは,東西日本弧の火成活動を論じる上で重要である.
 本発表では北陸地域の東端に位置する富山県東部上市地域に分布する前期中新世~中期中新世火山岩類について全岩化学組成およびSr-Nd-Pb同位体組成に基づく岩石学的・地球化学的検討を行った.
【地質概説】
 本地域は中世界手取層群を基盤岩類として、中新統八尾層群が不整合で重なる。八尾層群は下位から、楡原層、岩稲層、黒瀬谷層、福平層が累重する。本発表では岩稲層およびと福平層を構成する溶岩,および火山砕屑岩中の火山各礫角礫を対象とする.
【記載岩石学的特徴】
・タイプ1(両輝石安山岩)
斑晶鉱物は斜長石,単斜輝石,直方輝石からなる.
・タイプ2(含かんらん石両輝石安山岩)
斑晶鉱物は主に斜長石,単斜輝石,直方輝石からなり,稀にかんらん石を含む.斜長石は汚濁帯や蜂の巣状組織が見られる.
・タイプ3(両輝石安山岩)
斑晶鉱物は主に斜長石,単斜輝石,直方輝石からなる.斜長石は汚濁帯や蜂の巣状組織が見られる.
・タイプ4(角閃石両輝石安山岩)
斑晶鉱物は主に斜長石,角閃石,単斜輝石,直方輝石からなる.斜長石は汚濁帯や蜂の巣状組織が見られる.
【岩石学的・地球化学的特徴】  
 タイプ1の多くは中間K安山岩領域にプロットされ,ソレアイト系列のトレンド示す.また,SiO₂濃度の増加に対してMgO,Cr,Ni,Ca濃度が減少し,LILEやHFSEといった不適合元素濃度が増加する.この化学的特徴は斑晶鉱物の分別結晶作用で説明することができる.不適合元素パターンは同時期の東北日本弧背弧域の玄武岩に類似することから,これらの未分化玄武岩質マグマは中新世東北日本弧背弧域玄武岩に近い組成であったと考えられる.一方,同位体組成は広い組成範囲を示し,SiO₂やZr濃度の増加に伴い肥沃化することから地殻物質(例えば花崗岩類)の同化作用が働いたと考えられる.しかし,地殻物質の影響が小さいと推定されるタイプ1の玄武岩質安山岩試料でも,同時期の東北日本弧火山フロント側玄武岩より肥沃的な同位体組成を示す.Okamura et al.(2016)では,近接する北部フォッサマグナ地域の中新世火山岩類の同位体組成が沈み込む堆積物起源の流体やメルトの影響で肥沃化する可能性を議論している.よって,本地域のソレアイト系列火山岩おいても,そのような過程を考慮する必要がある.
 タイプ2~4の多くは低K安山岩と中間K安山岩の境界付近にプロットされ,カルクアルカリ系列のトレンドを示す.同程度のSiO₂量を示すタイプ1に比べ高いMgO,Cr,Ni,Sr濃度や低いY,HREE濃度を示す.このような特徴はタイプ4で最も顕著に見られ,SiO₂-各種元素図上ではタイプ2とタイプ3はタイプ1とタイプ4の中間にプロットされる.タイプ2~4の持つ微量元素の特長はアダカイト(Defant and Drummond、1990)に類似する事から本タイプはタイプ1マグマとアダカイト質マグマの混合により形成されたと考えられる.これはタイプ2~4に含まれる斜長石に汚濁帯などのマグマ混合を示唆する組織が見られる事と調和的である.タイプ2~4はBulk Silicate Earthに近い同位体組成を示すが,タイプ1マグマとのマグマ混合の影響を考慮すると端成分マグマであるアダカイト質マグマの同位体組成はタイプ2~4より枯渇的でDMMに近い特徴を示すと考えられる.アダカイト質マグマの形成場には幾つかのモデルが考えられているが,同位体組成は起源物質を反映するとされる(Castillo,2012).よって,本地域のアダカイト質マグマは沈み込んだ海洋地殻の部分溶融により形成されたと結論できる.
【引用】 Castillo,2012,Lithos,134-135.Defant・Drummond,1990,Nature,347.石渡・大浜,1997,地質雑,103.Okamura et al.,2016,Journal of Geodynamics,97.高橋・周藤, 1999, 地質雑 105.