日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R8[レギュラー]海洋地質

[3ch313-21] R8[レギュラー]海洋地質

2021年9月6日(月) 13:00 〜 15:30 第3 (第3)

座長:鈴木 克明、小原 泰彦

13:00 〜 13:15

[R8-O-1] 石灰質ナノ化石群集に基づく北西太平洋海域の前期更新世表層海水温の復元

*桑野 太輔1、亀尾 浩司1、久保田 好美2、宇都宮 正志3、万徳 佳菜子4,2、岡田 誠5 (1. 千葉大学、2. 国立科学博物館、3. 産業技術総合研究所、4. 国立環境研究所、5. 茨城大学)

キーワード:石灰質ナノ化石、北西太平洋海域、前期更新世、表層海水温

北西太平洋海域は,熱輸送を担う黒潮や親潮といった海洋循環と、偏西風やアジアモンスーンといった大気循環の影響を受ける海域に位置しており,過去の地球環境を復元するためには重要な地域である (Gallagher et al., 2015).特に,房総半島から三陸沖に位置する黒潮と親潮の境界付近では,表層海水温が大きく変化するため (Locarnini et al., 2013),地質記録からこれらを復元することで,過去の黒潮・親潮の変動を理解することが可能である.これまで,北西太平洋海域では,多くの古海洋学的な研究が進められてきたが(e.g., Yamamoto et al., 2005; Sagawa et al., 2006),そのほとんどは後期更新世以降であり,前期更新世における表層海水温の復元はほとんど行われてこなかった.そこで本研究では,房総半島中央部に分布する上総層群から産出する石灰質ナノ化石を検討し,これらの群集組成をもとに現生アナログ法を用いて表層海水温を復元することを目的とした.
本研究では,近年,Kuwano et al. (2021) により年代モデルが構築された黄和田層上部を対象とした.Kuwano et al. (2021) によって報告された夕木川ルートの試料73点に加え,新たに夷隅川の支流である大野川ルートの試料18点を追加し,石灰質ナノ化石の群集組成の検討を行った.現生アナログ法は,Squared Chord Distanceを類似度として使用し,これらの値が大きい上位5地点の現在の海水温の加重平均をとることで水温の推定を行った.表層堆積物における群集組成のデータセットはTanaka (1991) を利用し,現在の水温は,日本海洋データセンターの夏季の水温を緯度経度ごとにリサンプリングしたものを使用した.
復元された表層海水温は,概ね氷期・間氷期のスケールでの変化が卓越し,間氷期では27℃付近の安定した値をとる.一方,氷期ではこれよりも2–3℃程度低くなり,MIS 38の後半では21℃付近まで低下する.しかし,これらの水温は,MIS 1や2と比較しても非常に高い温度を示しており(Yamamoto et al., 2005; Sagawa et al., 2006),MIS 31でも近い水温を示すことから(Kajita et al., 2021),前期更新世における房総半島周辺は,現在よりも温暖な海洋環境が続いていたことが示唆される.
[引用文献]
Gallagher et al., 2015, Progress in Earth and Planetary Science, 2, 17.
Kajita et al., 2021, Communications Earth & Environment, 2, 82.
Kuwano et al., 2021, Stratigraphy, 18,103–121.
Locarnini et al., 2013, World Ocean Atlas 2013, Volume 1: Temperature.
Sagawa et al., 2006, Journal of Quaternary Science, 21, 63–73
Tanaka, 1991, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 61, 127–198.
Yamamoto et al., 2005, Geophysical Research Letter, 32, 1–4.