14:45 〜 15:00
[T6-O-2] 古生物標本を研究に活かすための方策
キーワード:大学博物館、古生物学、コレクション
学術標本の長期的な収蔵管理は古くからある問題であるが、最近特に重要性が増している。研究の進展とともに標本数は増加するが、収蔵施設や予算などの資源には限りがあり、状況は改善が求められている。我が国は既に人口減少時代に突入し、将来は研究機関の統廃合が行われる可能性も考えられる。貴重な資料が廃棄されたり行方不明にならないよう、国全体で考える必要がある。
本発表では、個別の収蔵機関ではなく、日本全体で収蔵管理体制を議論することの重要性を強調したい。そのためには各地の収蔵機関が全国のコレクションの状況を容易に把握できるシステムが重要であると考える。そのような理想的な体制はまだできていないが、ひとつの出発点は「日本古生物標本横断データベース(jpaleoDB)」である。このデータベースは九州大学の伊藤泰弘博士と佐々木が議論して始めたもので、現時点で日本を代表する37機関に収蔵された383161標本のデータと、12873文献のデータを収録している。このデータベースに登録されているのは日本国内に存在する古生物標本の一部にすぎないが、国家レベルで重要と思われる古生物標本のデータの大半はここに含まれているはずである。
一方、個別の収蔵機関では、限られた予算と人材の制約の中でより効率的な運営を行うための工夫が求められている。状況は収蔵機関によって異なるが、博物館において日常的にコレクションの管理を経験してきた立場から、留意すべき点として以下の3点を強調したい。
(1) 優先順位:標本収蔵管理は優先順位を明確にするべきである。標本収蔵管理のための資源が有限である以上、膨大な数の資料を全て等しく管理するという幻想は持たない方がよい。東京大学総合研究博物館の古生物コレクションは、出版された証拠標本を最優先する形で長い間運用してきた。これには合理的な理由がある。研究者が博物館標本を調査研究する場合、既に出版された論文等を手がかりに調べることが多く、現実に利用希望の大半は出版済標本である。従って、出版されていない標本は「2軍」扱いで、出版されることで「1軍」に昇格を果たすシステムを採用している。研究者にとって重要な標本とは、何らかの研究成果を発表したいというモチベーションを与えるような標本であり、そのような興感を与えない標本は未出版標本の中に残り続ける。
(2) 位置情報:データベースには標本の所在がすぐに特定できるようなデータを入力するべきである。電子化、データベース化が効率的な標本管理に必須であることは論を待たない。経験的に電子化されていない資料はほとんど利用実績がないことがないからものこのことは明白である。しかし、本当に重要なことはデータベースの検索結果から短時間で確実に実物の標本に到達できる収蔵システムを作ることである。これには正解はなく、先端的なテクノロジーを用いれば高度なシステムを構築可能であるが、コストとの兼ね合いが問題である。
(3) 画像作成:標本を電子化する場合必ず画像を作成するべきである。文字情報のみの標本データベースは、利用者にとって、利用しようとするモチベーションがあがらない。実際に自分自身の研究に活用できる状態かどうか判断できないからである。画像はプロの写真家が撮影したようなものを目指すとコストばかりかかり、実りが少ない。高級な画像を作成する必要はなく、標本の存在形態を確認できる程度の簡単な画像を大量生産する方がよい。一例として東京大学総合研究博物館の古生物部門では画像10万点計画を推進中である。
標本管理で最も難しい問題は場所の確保である。どの収蔵機関においても標本が増え続けているが、建物や土地は容易に増やせない。海外の大規模な博物館には郊外に大きな収蔵庫を構えているところがあるが、今後は日本でも同様の取り組みが参考になると予想される。効率だけを考えれば、国家レベルで一箇所に集中させ管理する方式もあり得る。しかし、災害の多い日本では、集中管理方式は一度に壊滅的な被害を受けるリスクがあるため、各地の機関に分散収蔵した方がよいと考えられる。
本発表では、個別の収蔵機関ではなく、日本全体で収蔵管理体制を議論することの重要性を強調したい。そのためには各地の収蔵機関が全国のコレクションの状況を容易に把握できるシステムが重要であると考える。そのような理想的な体制はまだできていないが、ひとつの出発点は「日本古生物標本横断データベース(jpaleoDB)」である。このデータベースは九州大学の伊藤泰弘博士と佐々木が議論して始めたもので、現時点で日本を代表する37機関に収蔵された383161標本のデータと、12873文献のデータを収録している。このデータベースに登録されているのは日本国内に存在する古生物標本の一部にすぎないが、国家レベルで重要と思われる古生物標本のデータの大半はここに含まれているはずである。
一方、個別の収蔵機関では、限られた予算と人材の制約の中でより効率的な運営を行うための工夫が求められている。状況は収蔵機関によって異なるが、博物館において日常的にコレクションの管理を経験してきた立場から、留意すべき点として以下の3点を強調したい。
(1) 優先順位:標本収蔵管理は優先順位を明確にするべきである。標本収蔵管理のための資源が有限である以上、膨大な数の資料を全て等しく管理するという幻想は持たない方がよい。東京大学総合研究博物館の古生物コレクションは、出版された証拠標本を最優先する形で長い間運用してきた。これには合理的な理由がある。研究者が博物館標本を調査研究する場合、既に出版された論文等を手がかりに調べることが多く、現実に利用希望の大半は出版済標本である。従って、出版されていない標本は「2軍」扱いで、出版されることで「1軍」に昇格を果たすシステムを採用している。研究者にとって重要な標本とは、何らかの研究成果を発表したいというモチベーションを与えるような標本であり、そのような興感を与えない標本は未出版標本の中に残り続ける。
(2) 位置情報:データベースには標本の所在がすぐに特定できるようなデータを入力するべきである。電子化、データベース化が効率的な標本管理に必須であることは論を待たない。経験的に電子化されていない資料はほとんど利用実績がないことがないからものこのことは明白である。しかし、本当に重要なことはデータベースの検索結果から短時間で確実に実物の標本に到達できる収蔵システムを作ることである。これには正解はなく、先端的なテクノロジーを用いれば高度なシステムを構築可能であるが、コストとの兼ね合いが問題である。
(3) 画像作成:標本を電子化する場合必ず画像を作成するべきである。文字情報のみの標本データベースは、利用者にとって、利用しようとするモチベーションがあがらない。実際に自分自身の研究に活用できる状態かどうか判断できないからである。画像はプロの写真家が撮影したようなものを目指すとコストばかりかかり、実りが少ない。高級な画像を作成する必要はなく、標本の存在形態を確認できる程度の簡単な画像を大量生産する方がよい。一例として東京大学総合研究博物館の古生物部門では画像10万点計画を推進中である。
標本管理で最も難しい問題は場所の確保である。どの収蔵機関においても標本が増え続けているが、建物や土地は容易に増やせない。海外の大規模な博物館には郊外に大きな収蔵庫を構えているところがあるが、今後は日本でも同様の取り組みが参考になると予想される。効率だけを考えれば、国家レベルで一箇所に集中させ管理する方式もあり得る。しかし、災害の多い日本では、集中管理方式は一度に壊滅的な被害を受けるリスクがあるため、各地の機関に分散収蔵した方がよいと考えられる。