16:00 〜 18:30
[R1-P-1] (エントリー)噴火履歴を持つプルトンのマーカーとしての接触変成帯
★(9/6)優秀ポスター賞受賞 ★
キーワード:プルトン形成、接触変成帯、領家変成帯、熱モデリング
プルトンは過去のマグマ溜まりの記録であり、火山下のマグマプロセスを解明する上で重要な情報源となる観察対象である。一方、プルトンの形成は噴火を必ずしも伴うものではないため、プルトンが噴火の履歴をもつかどうかを地質学的に識別することが火山活動とプルトン形成プロセスの関係性を議論することが重要である。しかし、プルトンの露出はより浅い地質構造の侵食による消失のプロセスを伴うために、残されたプルトンから噴火履歴の有無を評価できるケースは非常に限定的である。
本研究では、このような課題を解決するため、プルトンの周囲に形成される接触変成帯に着目する。接触変成帯の熱構造はプルトン領域への熱入力に関係し、接触変成帯を再構成するために必要な熱量と、プルトンの体積から推定される熱量の差が一旦マグマ溜まりに流入しその後流出したマグマの流出程度を表している可能性がある。このため、接触変成帯の詳細な解析によってプルトンの噴火履歴の有無を評価できると思われるが、これを検討した例は。文献に記載のある世界中の珪長質プルトンに伴う接触変成帯の幅や形成時の圧力条件についてコンパイルを行なうと、プルトンの形状や規模、貫入時のマグマ温度のバリエーションでは説明できない範囲で接触変成帯の幅にばらつきが見られることが明らかになった。これらのばらつきを説明可能な未決定パラメータとして、 1)貫入時の周囲の地温勾配、 2)時間あたりのマグマの供給体積、 3)プルトン領域からのマグマ流出が考えられる。
これらの要素を定量的に扱うためには詳細な熱モデリングと接触変成帯の熱構造評価、およびプルトン体積の正確な見積もりが必要となる。本研究ではこれらを実行可能な地域として中部日本の本宮山地域に明瞭な接触変成帯を伴って分布する新城トーナル岩に着目した。推定されている本岩体の定置深度は約9 kmである(遠藤・山﨑,2013)。本接触変成帯は著しい幅広さ(~2 km)をもち、高い貫入時の背景温度による説明がされてきた(Adachi & Wallis, 2008)。しかし、最近の年代学的研究によって、隣接する武節花崗岩もほとんど同時期に貫入したことが明らかとなり(Takatsuka et al., 2018)、この岩体は新城トーナル岩とは対照的にごく狭い接触変成帯を有する(<200 m)ことから、高い背景温度のみではこれらの接触変成帯を説明することが難しく、マグマの流入・流出履歴の差異がより重要であることを示している。本研究では炭質物ラマン温度計やTi石英地質温度計を用いて新城トーナル岩の接触変成帯の熱構造を制約した上で、新城トーナル岩の三次元分布を考慮した貫入岩熱モデリングを実施し、計算結果と観測値を比較することでプルトン内部のマグマの流入・流出履歴の制約を試みた。
その結果、マグマ流出の無いモデルでは、野外で見られる接触変成帯を説明できるほどの温度上昇を達成できず、著しいマグマの流出の履歴があることが示唆された。そこでマグマを同時に流入・流出する熱モデルを構築し、観測される接触変成帯を再現するようなマグマの体積フラックスを求めたところ、1*10-2–4*10-4 km3/yrのフラックスを100万年から数100万年の間継続する必要があることが明らかとなった。これは、新城トーナル岩の体積(~100 km3)を大きく超える1000 km3オーダーのマグマ体積が貫入領域から流出したことを意味している。また、これらの観測値を説明可能な接触変成帯は、貫入直前の地温勾配が45–50°C/kmに達する成熟した地殻の熱状態でのみ達成された。
より浅部のカルデラ噴火を伴うマグマ溜まりからの噴出物体積は一般的にマグマ溜まりに対して10–50%程度以下と推定されており(Geshi et al., 2014)、本研究の結果と大きな差があるが、これはマグマ溜まりの冷却時間スケールを支配する主要因の一つである地殻の背景温度がプルトンと噴出物の最終的な配分を決定する上で重要であることを示唆している。
【References】 遠藤・山﨑, 2013, doi:10.9795/bullgsj.64.59; Adachi & Wallis, 2008, doi:10.1111/j.1440-1738.2007.00603.x; Takatsuka et al., 2018, doi:10.1016/j.lithos.2018.03.018; Geshi et al., 2014, doi:10.1016/j.epsl.2014.03.059
本研究では、このような課題を解決するため、プルトンの周囲に形成される接触変成帯に着目する。接触変成帯の熱構造はプルトン領域への熱入力に関係し、接触変成帯を再構成するために必要な熱量と、プルトンの体積から推定される熱量の差が一旦マグマ溜まりに流入しその後流出したマグマの流出程度を表している可能性がある。このため、接触変成帯の詳細な解析によってプルトンの噴火履歴の有無を評価できると思われるが、これを検討した例は。文献に記載のある世界中の珪長質プルトンに伴う接触変成帯の幅や形成時の圧力条件についてコンパイルを行なうと、プルトンの形状や規模、貫入時のマグマ温度のバリエーションでは説明できない範囲で接触変成帯の幅にばらつきが見られることが明らかになった。これらのばらつきを説明可能な未決定パラメータとして、 1)貫入時の周囲の地温勾配、 2)時間あたりのマグマの供給体積、 3)プルトン領域からのマグマ流出が考えられる。
これらの要素を定量的に扱うためには詳細な熱モデリングと接触変成帯の熱構造評価、およびプルトン体積の正確な見積もりが必要となる。本研究ではこれらを実行可能な地域として中部日本の本宮山地域に明瞭な接触変成帯を伴って分布する新城トーナル岩に着目した。推定されている本岩体の定置深度は約9 kmである(遠藤・山﨑,2013)。本接触変成帯は著しい幅広さ(~2 km)をもち、高い貫入時の背景温度による説明がされてきた(Adachi & Wallis, 2008)。しかし、最近の年代学的研究によって、隣接する武節花崗岩もほとんど同時期に貫入したことが明らかとなり(Takatsuka et al., 2018)、この岩体は新城トーナル岩とは対照的にごく狭い接触変成帯を有する(<200 m)ことから、高い背景温度のみではこれらの接触変成帯を説明することが難しく、マグマの流入・流出履歴の差異がより重要であることを示している。本研究では炭質物ラマン温度計やTi石英地質温度計を用いて新城トーナル岩の接触変成帯の熱構造を制約した上で、新城トーナル岩の三次元分布を考慮した貫入岩熱モデリングを実施し、計算結果と観測値を比較することでプルトン内部のマグマの流入・流出履歴の制約を試みた。
その結果、マグマ流出の無いモデルでは、野外で見られる接触変成帯を説明できるほどの温度上昇を達成できず、著しいマグマの流出の履歴があることが示唆された。そこでマグマを同時に流入・流出する熱モデルを構築し、観測される接触変成帯を再現するようなマグマの体積フラックスを求めたところ、1*10-2–4*10-4 km3/yrのフラックスを100万年から数100万年の間継続する必要があることが明らかとなった。これは、新城トーナル岩の体積(~100 km3)を大きく超える1000 km3オーダーのマグマ体積が貫入領域から流出したことを意味している。また、これらの観測値を説明可能な接触変成帯は、貫入直前の地温勾配が45–50°C/kmに達する成熟した地殻の熱状態でのみ達成された。
より浅部のカルデラ噴火を伴うマグマ溜まりからの噴出物体積は一般的にマグマ溜まりに対して10–50%程度以下と推定されており(Geshi et al., 2014)、本研究の結果と大きな差があるが、これはマグマ溜まりの冷却時間スケールを支配する主要因の一つである地殻の背景温度がプルトンと噴出物の最終的な配分を決定する上で重要であることを示唆している。
【References】 遠藤・山﨑, 2013, doi:10.9795/bullgsj.64.59; Adachi & Wallis, 2008, doi:10.1111/j.1440-1738.2007.00603.x; Takatsuka et al., 2018, doi:10.1016/j.lithos.2018.03.018; Geshi et al., 2014, doi:10.1016/j.epsl.2014.03.059