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[R2-P-7] 蓮華帯糸魚川市山之坊露頭の端成分コスモクロアの産状と化学組成
キーワード:ひすい輝石、蛇紋岩、曹長岩、エッケルマン閃石、飛騨外縁帯
コスモクロアはNaCrSi2O6の単斜輝石で,メキシコに落下したトルカ鉄隕石からはじめて記載された(Laspeyers, 1897).地球上の岩石からのコスモクロアは,まず,ミャンマーのヒスイ産出地域より記載され(Harlow and Olds, 1983),さらにロシアのサヤン・オフィオライト(Dobretsov and Tatarinov, 1983),イタリア西アルプス(Harlow and Olds, 1987)からも発見された.Sakamoto and Takasu (1996)は岡山県大佐山の蓮華帯超塩基性岩中のトレモラ閃石岩ブロックよりコスモクロアを記載した.これが日本で最初,世界では4番目のコスモクロアの発見となった.その後,蓮華帯(飛騨外縁帯)の青海川及び姫川の河床礫よりコスモクロアが相次いで発見された(阪本・高須, 1997; Takasu and Sakamoto, 1998).姫川流域の根知で廣川和雄氏により採取されたNa角閃石岩の河床礫は,その中に球顆状にコスモクロアの集合体が形成されている.球顆の中心部においてコスモクロア成分が高い傾向が認められ,Koは最大96 mol%で,当時としは最も端成分に近い化学組成であった.球顆の中心部にはクロム鉄鉱が存在することがあり,コスモクロアの形成に超塩基性岩(蛇紋岩)の関与が考えられた.
鈴木・大木(2019)は新潟県糸魚川市山之坊の飛騨外縁帯の蛇紋岩分布地域の露頭からコスモクロアを発見した.この露頭では,蛇紋岩中に径数10 mのNa角閃石岩が見られ,蛇紋岩と角閃石岩の境界には幅数mの曹長岩が存在する.Na角閃石岩を構成する角閃石は大部分はeckermanniteで,その他glaucophane, magnesio-arfvedsonite, richterite, magnesio-kataphoriteが認められる.主にNa角閃閃石からなる細粒基質中にtremolite, actinolite, magnesio-hornblendeの比較的粗粒の角閃石結晶が存在する(鈴木・大木, 2019; 小河原・植田, 2020; 本研究).コスモクロアはNa角閃閃石岩中にレンズ状あるいはschlieren様に産する.
山之坊露頭のコスモクロアは,Takasu and Sakamoto (1998)によって記載された根知のコスモクロア同様,Na角閃石岩中に球顆状の集合体として産することが多い.球顆の中心部にはクロム鉄鉱が認められる場合があり(小河原・植田, 2020),その中心部から外側に向かって柱状のコスモクロアが放射状に配列する.Koは球顆の中心部から縁に向かって減少する傾向が見られ,最大Koは98 mol%に達する.これは,これまで報告されたコスモクロアの中で最も端成分に近い組成をである(鈴木・大木, 2019; 小河原・植田, 2020;本研究).本講演要旨投稿時までの球顆を構成する単斜輝石の予察的な分析結果は,コスモクロア (Ko98Jd0Ae1Q1)からひすい輝石(Ko31Jd60Ae1Q8)の広い組成範囲を示す.球顆の単斜輝石の化学組成がKo-Jd間の固溶体関係を示すことは,根知のコスモクロアと同様の傾向である.コスモクロア球顆近傍の角閃石は淡緑色を呈し,最大12 wt%のCr2O3(O: 23, C:=1.34 apfu)を含有する.
山之坊露頭のコスモクロアの記載岩石学的産状と化学組成の特徴は,根知のNa角閃石岩中のコスモクロアとの著しい類似性を示す.山之坊露頭は根知のコスモクロアを含むNa角閃石岩礫の原産地のひとつと考えられる.山之坊及び根知のコスモクロアを伴うNa角閃石岩中の角閃石(eckermannite, glaucophane, nyböite)の一部には相当量のCrが含まれており,新鉱物としての認定も考えられる.端成分組成コスモクロアと合わせ,今後,鉱物学的,結晶学的研究の進展が期待される.
本講演で紹介する山之坊露頭は2020年に糸魚川市の天然記念物に指定され、監視カメラや柵が設置され保護保全がなされている.
文献
Dobretsov・Tatarinov (1983) Nauka Press, 122 pp.
Harlow・Olds (1983, 1987) EOS, 64: 353: Am Min, 72: 126-136.
Laspeyers (1897) Kristallograp Minneral, 27: 586-600.
小河原・植田(2020)鉱物科学会2020要旨.
Sakamoto・Takasu (1996) J Geol Soc. Jap, 102: 49-52.
阪本・高須(1997)地質学雑,103: 1093-1096.
鈴木・大木(2019)地学研究,65: 185-187.
Takasu・Sakamoto (1998) Earth Sci, 52: 341-344.
鈴木・大木(2019)は新潟県糸魚川市山之坊の飛騨外縁帯の蛇紋岩分布地域の露頭からコスモクロアを発見した.この露頭では,蛇紋岩中に径数10 mのNa角閃石岩が見られ,蛇紋岩と角閃石岩の境界には幅数mの曹長岩が存在する.Na角閃石岩を構成する角閃石は大部分はeckermanniteで,その他glaucophane, magnesio-arfvedsonite, richterite, magnesio-kataphoriteが認められる.主にNa角閃閃石からなる細粒基質中にtremolite, actinolite, magnesio-hornblendeの比較的粗粒の角閃石結晶が存在する(鈴木・大木, 2019; 小河原・植田, 2020; 本研究).コスモクロアはNa角閃閃石岩中にレンズ状あるいはschlieren様に産する.
山之坊露頭のコスモクロアは,Takasu and Sakamoto (1998)によって記載された根知のコスモクロア同様,Na角閃石岩中に球顆状の集合体として産することが多い.球顆の中心部にはクロム鉄鉱が認められる場合があり(小河原・植田, 2020),その中心部から外側に向かって柱状のコスモクロアが放射状に配列する.Koは球顆の中心部から縁に向かって減少する傾向が見られ,最大Koは98 mol%に達する.これは,これまで報告されたコスモクロアの中で最も端成分に近い組成をである(鈴木・大木, 2019; 小河原・植田, 2020;本研究).本講演要旨投稿時までの球顆を構成する単斜輝石の予察的な分析結果は,コスモクロア (Ko98Jd0Ae1Q1)からひすい輝石(Ko31Jd60Ae1Q8)の広い組成範囲を示す.球顆の単斜輝石の化学組成がKo-Jd間の固溶体関係を示すことは,根知のコスモクロアと同様の傾向である.コスモクロア球顆近傍の角閃石は淡緑色を呈し,最大12 wt%のCr2O3(O: 23, C:=1.34 apfu)を含有する.
山之坊露頭のコスモクロアの記載岩石学的産状と化学組成の特徴は,根知のNa角閃石岩中のコスモクロアとの著しい類似性を示す.山之坊露頭は根知のコスモクロアを含むNa角閃石岩礫の原産地のひとつと考えられる.山之坊及び根知のコスモクロアを伴うNa角閃石岩中の角閃石(eckermannite, glaucophane, nyböite)の一部には相当量のCrが含まれており,新鉱物としての認定も考えられる.端成分組成コスモクロアと合わせ,今後,鉱物学的,結晶学的研究の進展が期待される.
本講演で紹介する山之坊露頭は2020年に糸魚川市の天然記念物に指定され、監視カメラや柵が設置され保護保全がなされている.
文献
Dobretsov・Tatarinov (1983) Nauka Press, 122 pp.
Harlow・Olds (1983, 1987) EOS, 64: 353: Am Min, 72: 126-136.
Laspeyers (1897) Kristallograp Minneral, 27: 586-600.
小河原・植田(2020)鉱物科学会2020要旨.
Sakamoto・Takasu (1996) J Geol Soc. Jap, 102: 49-52.
阪本・高須(1997)地質学雑,103: 1093-1096.
鈴木・大木(2019)地学研究,65: 185-187.
Takasu・Sakamoto (1998) Earth Sci, 52: 341-344.