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[R2-P-9] (ハイライト)先三波川変成作用の高温場で形成された超臨界流体起源の多相包有物
キーワード:先三波川変成作用、マイクロX線CT、集束イオンビーム、流体包有物、超臨界流体
世話人からのハイライト紹介:白亜紀のプレート沈み込みに由来する三波川変成帯から,最近ジュラ紀初期の「先三波川変成作用」と呼ぶべき非常に温度が高い変成イベントが発見された.この研究では,先三波川変成作用で出来たチタン石に含まれる流体包有物をマイクロX線CT撮影で三次元的に観察することで,10ミクロン未満の微小な包有物の中で新たに成長した1ミクロンに満たない石英粒子を発見し,SiO2を高濃度で溶かし込んでいた超臨界流体が先三波川変成作用に関与していたことを明らかにした.参考:ハイライトについて
含水ケイ酸塩メルト(hydrous silicate melt)と水流体(aqueous fluid)の不混和領域が消失する第二臨界終端点(SCEP)よりも高温高圧で存在する,いわゆる超臨界流体は,高い元素運搬能力を持っていることから沈み込み帯での物質移送媒体として注目されている[1].SCEPはケイ酸塩メルトの組成,すなわち共存する岩石の組成によって温度圧力が変わり,高マグネシウム安山岩や堆積岩と水流体の共存下では700-800℃,2.5-3GPaの温度圧力条件が実験的に見積もられている[2].天然試料からの超臨界流体の記載は,超高圧変成岩中に見られる多相固体包有物研究があり[3],ケイ酸塩成分に富む超臨界流体が減圧減温の過程で含水鉱物を含む固相の組み合わせに変化している.
本研究では,四国中央部の三波川変成帯エクロジャイト岩体から見出された先三波川変成作用の高温場(>1000℃)の情報[4]を記録するチタン石中に,石英と共に包有される流体包有物を見出した.この流体包有物は,5μm程度の大きさで,チタン石中に石英の単相包有物と共に胚胎されており,石英単相包有物(Q型)と石英-流体包有物(QA型)は組織的に捕獲時期を区別することは出来ない.
QA型包有物に含まれる流体はラマン分光により比較的塩濃度の高い(10mass%NaCl換算程度)水流体である事がわかったが,マイクロサーモメトリーによる成分・濃度決定はその小ささ故に出来なかった.また,ラマン分光では水以外の流体成分は検出されなかった. 流体包有物の詳細な形態記載には,包有物を周囲の母相鉱物ごと集束イオンビーム(FIB)で切り出し,X線CTによる三次元観察を行うことが有効である[5].本研究ではJAMSTEC横須賀本部設置のFIBでQA型包有物を円柱状に切り出し,高エネルギー加速器研究機構のビームラインAR-NW2Aを用いてX線CT撮影[6,7]を行った.
包有物のCT観察の結果,QA型包有物中の石英は,土台となる石英部分の上に新たに成長してファセットを呈しているように見える突起部を2箇所有することがわかった.
この突起部に関して,CT観察を行った試料を再度FIBで加工し,突起部を含む断面を露出させてカソードルミネッセンス(CL)観察を行った.結果,石英の土台部は明るく,突起部は相対的に暗いCL発光を呈することが分かった.またCLスペクトル観察では,土台部・突起部共に650nm近傍のピークが卓越するものの,突起部では490nm近傍の小さなピークが見られる事が分かった.これらCL発光の違いは,土台部と突起部が異なる条件下で晶出したことを強く示す.
以上の観察からQ型包有物とQA型包有物がチタン石中に共存する産状は以下の形成過程で説明出来る.共存する石英と流体がチタン石の成長に伴い,あるものは石英のみの形(Q)で,あるものは石英と流体が一緒に(QA)捕獲される.その後,QA包有物中では流体中に溶けていたSiO2成分が晶出し,共存していた石英の上に成長して新たな結晶を作った. QA型包有物中の石英突起部と流体部の体積比をCT像から読み取り,水流体の密度を適当に仮定して流体の元の組成を推定すると重量比でSiO2を35~45%程度含む水流体となった.本研究で用いたチタン石が>1000℃,約2.5GPaで形成されている[4]ことを踏まえると,水流体中に約40%のSiO2が含まれることは実験や熱力学的に予想されるSiO2-H2O系の臨界終端点[8]とも整合的である.
本研究はKEK課題番号2019G569の成果を一部用いている.
[1] Ni, H. et al. (2017) Earth-Science Review, 167, 62-71. [2] Kawamoto, T. et al. (2012) PNAS, 109, 18695-18700. [3] Ferrando, S. Chem.Geol., 223, 68-81. [4] Yoshida, K. et al. (2021) JpGU2021, SMP25-P17. [5] Yoshida, K. et al. (2016) Eur.J.Min. 25, 245-256. [6] Kimura, M. et al. (2019) Sci.Rep. 9, 19300. [7] Niwa, Y. et al. (2019) AIP Conf. Proc. 2054, 050003. [8] Hunt & Manning (2012) GCA, 86, 196-213.
本研究では,四国中央部の三波川変成帯エクロジャイト岩体から見出された先三波川変成作用の高温場(>1000℃)の情報[4]を記録するチタン石中に,石英と共に包有される流体包有物を見出した.この流体包有物は,5μm程度の大きさで,チタン石中に石英の単相包有物と共に胚胎されており,石英単相包有物(Q型)と石英-流体包有物(QA型)は組織的に捕獲時期を区別することは出来ない.
QA型包有物に含まれる流体はラマン分光により比較的塩濃度の高い(10mass%NaCl換算程度)水流体である事がわかったが,マイクロサーモメトリーによる成分・濃度決定はその小ささ故に出来なかった.また,ラマン分光では水以外の流体成分は検出されなかった. 流体包有物の詳細な形態記載には,包有物を周囲の母相鉱物ごと集束イオンビーム(FIB)で切り出し,X線CTによる三次元観察を行うことが有効である[5].本研究ではJAMSTEC横須賀本部設置のFIBでQA型包有物を円柱状に切り出し,高エネルギー加速器研究機構のビームラインAR-NW2Aを用いてX線CT撮影[6,7]を行った.
包有物のCT観察の結果,QA型包有物中の石英は,土台となる石英部分の上に新たに成長してファセットを呈しているように見える突起部を2箇所有することがわかった.
この突起部に関して,CT観察を行った試料を再度FIBで加工し,突起部を含む断面を露出させてカソードルミネッセンス(CL)観察を行った.結果,石英の土台部は明るく,突起部は相対的に暗いCL発光を呈することが分かった.またCLスペクトル観察では,土台部・突起部共に650nm近傍のピークが卓越するものの,突起部では490nm近傍の小さなピークが見られる事が分かった.これらCL発光の違いは,土台部と突起部が異なる条件下で晶出したことを強く示す.
以上の観察からQ型包有物とQA型包有物がチタン石中に共存する産状は以下の形成過程で説明出来る.共存する石英と流体がチタン石の成長に伴い,あるものは石英のみの形(Q)で,あるものは石英と流体が一緒に(QA)捕獲される.その後,QA包有物中では流体中に溶けていたSiO2成分が晶出し,共存していた石英の上に成長して新たな結晶を作った. QA型包有物中の石英突起部と流体部の体積比をCT像から読み取り,水流体の密度を適当に仮定して流体の元の組成を推定すると重量比でSiO2を35~45%程度含む水流体となった.本研究で用いたチタン石が>1000℃,約2.5GPaで形成されている[4]ことを踏まえると,水流体中に約40%のSiO2が含まれることは実験や熱力学的に予想されるSiO2-H2O系の臨界終端点[8]とも整合的である.
本研究はKEK課題番号2019G569の成果を一部用いている.
[1] Ni, H. et al. (2017) Earth-Science Review, 167, 62-71. [2] Kawamoto, T. et al. (2012) PNAS, 109, 18695-18700. [3] Ferrando, S. Chem.Geol., 223, 68-81. [4] Yoshida, K. et al. (2021) JpGU2021, SMP25-P17. [5] Yoshida, K. et al. (2016) Eur.J.Min. 25, 245-256. [6] Kimura, M. et al. (2019) Sci.Rep. 9, 19300. [7] Niwa, Y. et al. (2019) AIP Conf. Proc. 2054, 050003. [8] Hunt & Manning (2012) GCA, 86, 196-213.