日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R5[レギュラー]地域地質・地域層序・年代層序

[3poster24-33] R5[レギュラー]地域地質・地域層序・年代層序

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R5-P-13] (エントリー)新潟堆積盆地更新統魚沼層群における2系統のデルタシステムと氷河性海水準変動の関連

*河西 夏美1、保柳 康一1 (1. 信州大学)

キーワード:魚沼層群、更新世、デルタシステム、シーケンス層序学、海水準変動

研究地域は新潟県長岡市南部の渋海川西岸に位置し,厚い第三系-第四系が分布する.この地域周辺には鮮新世から続く構造運動によって褶曲構造が形成されている.研究対象としたのは更新統の魚沼層群で,非海成層と海成層の繰り返しで形成され,シーケンス層序学を用いた考察に適している.本研究では魚沼層群における堆積システムの考察を行い,堆積シーケンスの設定とその広域対比から,堆積システムの変遷と海水準変動との関連を明らかにすることを目的とした.  
 野外調査によって岩相を21に区分し,11の堆積相を設定して堆積システムと堆積シーケンスを考察した.その結果,研究地域北部・中部・南部ではシステムの累重が異なり,北部では下位からデルタシステム,海岸平野システム,内湾環境・デルタシステムが累重し,中部では下位から海岸平野システム,内湾環境・デルタシステムが累重し,南部では下位に一部海岸平野システムが存在するが,主に内湾・河川システムが繰り返し累重することが示された.
 堆積システムの変遷と礫種・古流向に周辺地域の既存研究を参考にして古地理の復元を行った.これにより研究地域には2つの異なる給源をもつ河川が影響しており,北部では東から西へ前進するデルタシステムが,南部では南から北へ前進するデルタシステムがそれぞれ発達していることが示された.約1.7 Maにおいて,調査地域北部では西進するデルタによる埋積が行われ,中部は陸棚環境が優先的であり,南部には北進するデルタが活動していた.その後約1.3 Maから調査地域中部・北部が内湾化し,北部の西進するデルタと南部の北進するデルタの2つが同時に前進した.約1.1 Maからは,北進するデルタの影響が支配的となり,調査地域全域で河川システムが卓越して堆積盆の埋積が進んだ.
 研究地域において広範囲に追跡可能な不連続面をシーケンス境界(SB-1~SB-13)として,堆積シーケンスDS-1~DS14を設定した.これらの堆積シーケンスは火山灰鍵層・石灰質ナンノ化石の年代から第4オーダーの堆積シーケンスであると考えられる.また,SB-8は広範囲に分布する河川成堆積物の基底に位置する.
 次に汎世界的海水準変動の指標として用いられるLR04 stack(Lisiecki and Raymo,2005)とシーケンス境界との対比を行った.その結果,SB-1~SB-13は酸素同位体ステージ(MIS) 70,62,58,54,46,40,36,34,30,26,22,20,16の氷期に対応して形成され,それらの周期は約10万年であると考えられる.したがって,形成要因はミランコビッチサイクルによる氷河性海水準変動である可能性が高い.また,広範囲に礫層を形成するSB-8については,約1.1 Maからの長周期の寒冷化傾向への転換点に対応し,その形成は長周期の気候変動と調和的である.よってこれらを長周期の第3オーダー堆積シーケンスのシーケンス境界とした.
 以上より,堆積盆地を埋積した2つのデルタシステムは約1.7 Maまでの寒冷化傾向においては高海水準期から低海水準期の間に形成され,堆積空間の減少によって前進した.約1.7~1.3 Maの海進期にはデルタシステムは後退し,海岸平野システムやエスチュアリーシステムが卓越した.再び約1.1 Maからの寒冷化傾向によって高海水準期から低海水準期にかけてデルタシステムは前進し,堆積盆の埋積を進めたと考えられる.このような長周期的傾向は,数10万年から数100万年の第3オーダーの気候変動周期と一致する.
 さらに,本研究地域の北側に接続する保柳ほか(2000),研究地域南側とより南方を調査地域とした卜部ほか(1995),蒲原地域,北蒲原地域で設定された各堆積シーケンスと,本研究における堆積シーケンスを比較検討した.その結果,SB-8(約1.1 Ma)におけるシーケンス境界は参照した全ての地域で一致しており,広範囲で海水準が低下したことを示唆する.さらにSB-4(約1.57 Ma)においても広域での比較的良い一致を確認した.一方,約SB-3(1.65 Ma),SB-6(約1.3 Ma)のシーケンス境界は東頸城丘陵地域でのみ追跡可能である.SB-6については,境界上位の堆積環境が調査地域中部から北に隣接する保柳ほか(2000)の研究地域まで連続して内湾化することから,気候変動だけではなく,地域的な構造運動の影響を受けて形成された堆積シーケンスである可能性も考えられる.
<文献>
保柳ほか,2000,地球科学,54,393-404
Lisiecki, L. E. and Raymo, M. E.,2005,Paleoceancgraphy,20.
卜部ほか,1995,地質学論集,45,140-153