16:00 〜 18:30
[R13-P-2] (エントリー)南海トラフ沈み込みプレート境界のラフネス解析
近年、沈み込みプレート境界面でプレート収束運動より速く、通常地震より著しく遅いすべりである「スロー地震」という現象が発見され、世界中で通常地震との関係性について追求されている(Obara and Kato., 2016)。このことから、沈み込みプレート境界面では、通常地震と「スロー地震」のように、すべり速度に多様性があることが明らかとなった。
先行研究では、この多様性を生むモデルとして、物性分布の空間スケールが階層的であることを原因とする提案が出されたが(Ide et al., 2014)、これはあくまで概念的であり、その物性分布そのものの要因については考慮されていない。
そこで、本研究では、東西約11㎞、南北約26㎞を範囲とした南海トラフ紀伊半島沖三次元地震波反射断面による実際の沈み込みプレート境界を対象とし、天然における地形という要素の不均質分布をラフネス解析で階層的に明らかにした上で、概念的モデルを検証する。具体的には、天然のデコルマ地形のラフネス解析により得られた地形の振幅分布を図示し、セグメント長さの違いによる多様な要素の階層的な分布の比較、高振幅領域の面積を破壊領域としたときのモーメントマグニチュードの累積頻度とグーテンベルク・リヒター則との対比を行い、スロー地震との関係について議論した。
本研究地域は、3次元音響反射断面が得られているだけでなく、同地域の浅部デコルマ域においてVery Low Frequency Earthquake(VLF)やスロースリップイベント(SSE)といったスロー地震が観測されていることから(Nakano et al., 2018, Araki et al., 2017),天然の対象としてふさわしい地域と考えられる。
本研究ではセグメント長さを変えながら地形波形のフーリエ変換で得た波長とPSD間の両対数グラフを用いてラフネス解析を行い、右肩上がりの直線関係を持っていることが確認できた。このことから、波長と振幅には冪乗の関係が成立していると言える。
小さいセグメント長さでは、振幅の変化を空間的に細かくとらえており、面積の小さいパッチ状のものが所々で確認できた。また、大きいセグメント長さでは、高い振幅の領域が比較的広範囲に分布する。 様々な検証によってこのセグメント長さに応じたパッチのサイズ変化は天然の特性であると考えられる。これは、セグメント長さが大きいことによって、振幅の数値を平均する範囲が広くなるため、波の中でも比較的大きな範囲で見た波長をとらえることができたと推定した。
これを踏まえると、セグメント長さが小さくなるにしたがって、振幅の変化を細かくとらえていることが確認できたことも、振幅の数値を平均する範囲が狭いため、微小な波長や、細かい振幅の変化もとらえることができたと考えられる。
以上のことから、セグメント長さの変化に応じて、地形の効果として高い振幅領域の階層的な分布が見られたと言える。
このパッチサイズを破壊領域として求めたモーメントマグニチュードの累積頻度のグラフでは、一部を除き、両対数グラフで直線関係(べき乗関係)を得ることができた。また、破壊面積が小さいほど発生頻度が多くなることが分かった。この関係からb値的なものを得ることができる。しかし、このb値は、グーテンベルク・リヒター則とは一致しておらず、高振幅領域パッチの分布と観測されているスロー地震の領域とも不一致であった。
この要因として、本研究が、南海トラフ沈み込みプレート境界全域から見て、相対的に小さい対象を範囲としている可能性が考えられる。現段階では、反射法探査の解像度の限界から、極小規模な地震の確定的な地震の発生頻度と規模の関係を得ることが困難である。このことから、グーテンベルク・リヒター則の関係から逸脱してしまったと考えられる。
これらを踏まえると、本研対象地域である紀伊半島沖南海トラフ3次元地震波反射断面の地震計の観測の精度が上がれば、高振幅領域の面積の分布にも異なるしきい値ごとに階層性が見られることが期待できる。また、本研究で求めたモーメントマグニチュードの累積頻度のグラフにおいても、グーテンベルク・リヒター則と非常に近いb値が導き出されるかもしれない。
引用文献
Obara, K., Kato, A., 2016. Science 353, 253-257.
Ide, S., 2014. Proceedings of the Japan Academy, Series B 90, 259-277.
Nakano, M., Hori, T., Araki, E., Kodaira, S., Ide, S., 2018. Nature communications 9, 984.
先行研究では、この多様性を生むモデルとして、物性分布の空間スケールが階層的であることを原因とする提案が出されたが(Ide et al., 2014)、これはあくまで概念的であり、その物性分布そのものの要因については考慮されていない。
そこで、本研究では、東西約11㎞、南北約26㎞を範囲とした南海トラフ紀伊半島沖三次元地震波反射断面による実際の沈み込みプレート境界を対象とし、天然における地形という要素の不均質分布をラフネス解析で階層的に明らかにした上で、概念的モデルを検証する。具体的には、天然のデコルマ地形のラフネス解析により得られた地形の振幅分布を図示し、セグメント長さの違いによる多様な要素の階層的な分布の比較、高振幅領域の面積を破壊領域としたときのモーメントマグニチュードの累積頻度とグーテンベルク・リヒター則との対比を行い、スロー地震との関係について議論した。
本研究地域は、3次元音響反射断面が得られているだけでなく、同地域の浅部デコルマ域においてVery Low Frequency Earthquake(VLF)やスロースリップイベント(SSE)といったスロー地震が観測されていることから(Nakano et al., 2018, Araki et al., 2017),天然の対象としてふさわしい地域と考えられる。
本研究ではセグメント長さを変えながら地形波形のフーリエ変換で得た波長とPSD間の両対数グラフを用いてラフネス解析を行い、右肩上がりの直線関係を持っていることが確認できた。このことから、波長と振幅には冪乗の関係が成立していると言える。
小さいセグメント長さでは、振幅の変化を空間的に細かくとらえており、面積の小さいパッチ状のものが所々で確認できた。また、大きいセグメント長さでは、高い振幅の領域が比較的広範囲に分布する。 様々な検証によってこのセグメント長さに応じたパッチのサイズ変化は天然の特性であると考えられる。これは、セグメント長さが大きいことによって、振幅の数値を平均する範囲が広くなるため、波の中でも比較的大きな範囲で見た波長をとらえることができたと推定した。
これを踏まえると、セグメント長さが小さくなるにしたがって、振幅の変化を細かくとらえていることが確認できたことも、振幅の数値を平均する範囲が狭いため、微小な波長や、細かい振幅の変化もとらえることができたと考えられる。
以上のことから、セグメント長さの変化に応じて、地形の効果として高い振幅領域の階層的な分布が見られたと言える。
このパッチサイズを破壊領域として求めたモーメントマグニチュードの累積頻度のグラフでは、一部を除き、両対数グラフで直線関係(べき乗関係)を得ることができた。また、破壊面積が小さいほど発生頻度が多くなることが分かった。この関係からb値的なものを得ることができる。しかし、このb値は、グーテンベルク・リヒター則とは一致しておらず、高振幅領域パッチの分布と観測されているスロー地震の領域とも不一致であった。
この要因として、本研究が、南海トラフ沈み込みプレート境界全域から見て、相対的に小さい対象を範囲としている可能性が考えられる。現段階では、反射法探査の解像度の限界から、極小規模な地震の確定的な地震の発生頻度と規模の関係を得ることが困難である。このことから、グーテンベルク・リヒター則の関係から逸脱してしまったと考えられる。
これらを踏まえると、本研対象地域である紀伊半島沖南海トラフ3次元地震波反射断面の地震計の観測の精度が上がれば、高振幅領域の面積の分布にも異なるしきい値ごとに階層性が見られることが期待できる。また、本研究で求めたモーメントマグニチュードの累積頻度のグラフにおいても、グーテンベルク・リヒター則と非常に近いb値が導き出されるかもしれない。
引用文献
Obara, K., Kato, A., 2016. Science 353, 253-257.
Ide, S., 2014. Proceedings of the Japan Academy, Series B 90, 259-277.
Nakano, M., Hori, T., Araki, E., Kodaira, S., Ide, S., 2018. Nature communications 9, 984.