日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R13[レギュラー]沈み込み帯・陸上付加体

[3poster39-46] R13[レギュラー]沈み込み帯・陸上付加体

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R13-P-5] 断層の浅部活動を特徴づける周辺歪み分布

*坂口 有人1、吉松 寛奈2 (1. 山口大学大学院・創成科学研究科、2. 日本電気航空宇宙システム株式会社)

キーワード:活断層、歪み、断層の性格付け

震源断層の表面は複雑であり,それぞれの場所は,深度や力学的配置に応じた挙動をしていると考えられる.過去の断層を調査する際に,その露頭が震源断層のどこで,どんな役割を果たした部分なのか知ることは容易ではなかった.断層の各部分は,それぞれの場所に応じた歪みと応力を経験していると予想される.そのため断層と周辺の母岩の歪みと応力分布から,その断層のセッティングを推測することができるだろう.本発表では,野島断層の浅部掘削コアの分析結果から,地表付近における断層近傍の母岩の歪みパターンを示す. カルサイトは外力によって結晶内部に双晶変形が生じる特性がある.断層岩のように様々な鉱物粒子からなる多鉱岩であっても,散在するカルサイトを多数測定することで,双晶密度は試料全体の歪みと比例する(Sakaguchi et al., 2011;坂口・安藤,2020).母岩が弾性体である場合は,そのヤング率から最大応力を定量評価することもできる.
 淡路島の野島断層および愛媛県西部の中央構造線において,断層帯のボーリング掘削が原子力規制庁によって行われた.淡路島小倉地区にて地表から約1000mまでNFD-1コアが採取された.野島断層の主剪断面が529mで確認され,上盤および下盤はどちらも花崗岩で,断層の影響で破砕を受けており,そこにカルサイトが脈として含まれている(坂口,2018).主剪断面を挟んで9試料が分析された.カルサイトの双晶密度は主剪断面の約200.2本/mmをピークに,上盤および下盤ともに主剪断面から離れると双晶密度は徐々に減衰し,150-200mほど離れると半分以下に低下していく.その減衰カーブは直線的であり,かなり緩やかである.
 愛媛県西条市湯屋口付近にて地表から約102mのH30MTLD-1コアが採取された.このコアは深度約70mの中央構造線を挟んで上盤の和泉層群は砂岩および泥岩からなり,下盤は三波川帯の泥質片岩,砂質片岩,緑色片岩から構成される.このコアの15試料のカルサイト双晶密度が分析された.その結果,双晶密度は中央構造線近傍の144本/mmをピークに上盤へは約50mかけて,下盤には約30m以上かけて緩やかに低下することがわかった.
 これらに対して四国四万十帯の興津断層は,シュードタキライトを含むプレート沈み込み帯の過去の震源断層であり(Ikesawa et al., 2003),そこのカルサイト双晶密度は主剪断面から15m程度で指数関数的に急減することがわかっている.この減衰カーブは距離の平方根の逆数に近いため,興津断層の高い双晶密度は,弾性体における亀裂尖端の応力集中によるものと考えられる.その一方で,野島断層および中央構造線の減衰カーブは,亀裂先端の応力集中によるものとは大きく異なる.
 浅い領域の断層変位分布としては,例えば人工衛星の合成開口レーダーによる活断層周辺部の変位が観測されており,変位量が断層から離れるにつれて緩やかに減衰する様子が報告されている(例えばFijiwara et al., 2016).野島断層で見られた緩やかで広範な歪み分布は,地表付近の断層による母岩の変形によるものと考えられる.断層周囲の緩やかな歪み分布は浅部断層の特徴なのかもしれない.
引用文献 Fujiwara et al., EPS, 2016. Ikesawa et al., Geology, 2003 坂口・安藤,特願2020-118208,2020 坂口,京都大学編:平成29年度原子力規制庁委託成果報告書,2018 Sakaguchi et al., GRL, 2011