16:00 〜 18:30
[R14-P-2] (エントリー)巨摩山地桃の木亜層群の年代・後背地の再検討:伊豆弧衝突開始年代の地質学的制約に向けて
キーワード:伊豆衝突帯、ジルコン、U-Pb
【緒言】
伊豆弧は太平洋プレートのフィリピン海プレートに対する沈み込みに関連した火成活動で形成されるため、伊豆弧が本州弧に衝突を開始した年代はその時代のプレート配置を制約する。このプレート配置の復元について、フィリピン海プレートが約15 Maから現在と同じ位置にあったとする説(Kimura et al., 2005, BGSAなど)が日本では広く支持されているが、古地磁気学的研究に基づきフィリピン海プレートは5 Maまで時計回り回転を継続したとする Hall et al. (1995, Tectonophysics)の推定が世界的には広く支持されており (Mahony et al., 2011, BGSA,; Clift et al., 2013, Tectonicsなど)、伊豆弧の衝突開始年代に関して議論が続いている (Kimura et al., 2014, Tectonicsなど)。
【目的と手法】
本研究では、中新世の日本周辺のプレート配置復元のために、伊豆弧が本州弧に衝突を開始した年代を伊豆衝突帯を対象とした地質学的研究から制約することを目的とした。具体的には、伊豆衝突帯で最初に衝突したとされる櫛形山ブロックに着目して地質調査を行い、トラフ充填堆積物 (衝突に伴い海溝を充填した堆積物)と考えられている桃の木亜層群の後背地と堆積年代を、薄片観察およびジルコンU-Pb年代測定から明らかにすることを試みた。桃の木亜層群の試料は、貫入岩の影響が比較的少ないと考えられる丸山林道および仙城沢から採取し、ジルコンU-Pb年代測定は国立科学博物館つくば研究施設のLA-ICP-MSで行った。
【地質概説】
櫛形山ブロックは安山岩〜玄武岩質の溶岩および火山砕屑岩を主とした櫛形山亜層群と、その上位に累重し、ほとんど砕屑岩類で構成される桃の木亜層群からなり(小山, 1993, 地質学論集)、後者がトラフ充填堆積物と考えられている(青池, 1999, 神奈川県博調研報)。桃の木亜層群は層序や構造が複雑で研究者間で一致した見解が得られていないが、本研究では詳細な堆積相解析を行った黒田 (2000, B.S.)に基づき、礫岩主体の上部層、砂岩泥岩互層・泥岩からなる中部層、砂岩泥岩互層・礫岩からなる下部層に区分されると解釈した。
【結果】
桃の木亜層群下部層に挟在する凝灰岩中のジルコンU-Pb年代は23.5 Maに集中した。下部層の砂岩中のジルコンからは20~2300 Maに及ぶ広範囲の年代が得られた。下部層の砂岩の薄片観察によるモード組成はDickinson et al. (1983, GSA Bull.)の造構場識別図において”Transitional Recycled”に該当した。一方、中部層に挟在する砂岩中のジルコンからは13~2300 Maに及ぶU-Pb年代データが得られたが、測定した29点中17点が14.6 Ma付近に集中した。中部層の砂岩モード組成は”Mixed”に該当した。
【議論】
桃の木亜層群下部層の砂岩が示したジルコンU-Pb年代頻度分布は、西南日本に分布するジュラ紀〜白亜紀付加体のジルコン年代頻度分布 (Fujisaki et al., 2014, JAES; Shimura et al., 2019, Island Arc; 常盤ほか, 2018, 地雑)と類似しており、後背地は本州弧の付加体であったと考えられる。若い年代を示したジルコン粒子が極めて少数であったことや薄片に火山岩片がほとんど存在しなかったことから、下部層堆積時には伊豆弧の影響はほとんどなかったと考えられる。中部層も同様の傾向を示唆する。上部層の礫種は大部分が堆積岩であったため伊豆弧の影響は小さいと考えられる。これらを統合すると、伊豆弧の衝突は少なくとも14.6 Ma以降であることが示唆される。桃の木亜層群の堆積年代は微化石層序や貫入岩の冷却年代に基づいて15~13.5 Ma (青池, 1999)とされた。今回分析した下部層中の凝灰岩は産状から降下火山灰と考えられるため、下部層の一部は23.5 Maに堆積した層準を含むと考えられる。一方で中部層の砂岩の堆積年代は約14.6 Maと推定されるため、下部層と中部層が一連とすると、日本海拡大をはさむ900万年間堆積を続けたことになる。その場合の平均堆積速度は10 cm/kyのオーダーとなり、トラフ充填堆積物としては小さいため、桃の木亜層群はその内部にこれまで未確認の不連続が存在する可能性がある。
【結論】
桃の木亜層群下部層の堆積年代は15~13.5 Ma (青池, 1999)よりも古い23.5 Maを含むことが明らかになった。伊豆弧の衝突開始は少なくとも14.6 Ma以降出逢ったと考えられる。今後桃の木亜層群やより上位の層準について詳細な地質調査・分析を行うことで、伊豆弧衝突の変遷が明らかになると期待される。
伊豆弧は太平洋プレートのフィリピン海プレートに対する沈み込みに関連した火成活動で形成されるため、伊豆弧が本州弧に衝突を開始した年代はその時代のプレート配置を制約する。このプレート配置の復元について、フィリピン海プレートが約15 Maから現在と同じ位置にあったとする説(Kimura et al., 2005, BGSAなど)が日本では広く支持されているが、古地磁気学的研究に基づきフィリピン海プレートは5 Maまで時計回り回転を継続したとする Hall et al. (1995, Tectonophysics)の推定が世界的には広く支持されており (Mahony et al., 2011, BGSA,; Clift et al., 2013, Tectonicsなど)、伊豆弧の衝突開始年代に関して議論が続いている (Kimura et al., 2014, Tectonicsなど)。
【目的と手法】
本研究では、中新世の日本周辺のプレート配置復元のために、伊豆弧が本州弧に衝突を開始した年代を伊豆衝突帯を対象とした地質学的研究から制約することを目的とした。具体的には、伊豆衝突帯で最初に衝突したとされる櫛形山ブロックに着目して地質調査を行い、トラフ充填堆積物 (衝突に伴い海溝を充填した堆積物)と考えられている桃の木亜層群の後背地と堆積年代を、薄片観察およびジルコンU-Pb年代測定から明らかにすることを試みた。桃の木亜層群の試料は、貫入岩の影響が比較的少ないと考えられる丸山林道および仙城沢から採取し、ジルコンU-Pb年代測定は国立科学博物館つくば研究施設のLA-ICP-MSで行った。
【地質概説】
櫛形山ブロックは安山岩〜玄武岩質の溶岩および火山砕屑岩を主とした櫛形山亜層群と、その上位に累重し、ほとんど砕屑岩類で構成される桃の木亜層群からなり(小山, 1993, 地質学論集)、後者がトラフ充填堆積物と考えられている(青池, 1999, 神奈川県博調研報)。桃の木亜層群は層序や構造が複雑で研究者間で一致した見解が得られていないが、本研究では詳細な堆積相解析を行った黒田 (2000, B.S.)に基づき、礫岩主体の上部層、砂岩泥岩互層・泥岩からなる中部層、砂岩泥岩互層・礫岩からなる下部層に区分されると解釈した。
【結果】
桃の木亜層群下部層に挟在する凝灰岩中のジルコンU-Pb年代は23.5 Maに集中した。下部層の砂岩中のジルコンからは20~2300 Maに及ぶ広範囲の年代が得られた。下部層の砂岩の薄片観察によるモード組成はDickinson et al. (1983, GSA Bull.)の造構場識別図において”Transitional Recycled”に該当した。一方、中部層に挟在する砂岩中のジルコンからは13~2300 Maに及ぶU-Pb年代データが得られたが、測定した29点中17点が14.6 Ma付近に集中した。中部層の砂岩モード組成は”Mixed”に該当した。
【議論】
桃の木亜層群下部層の砂岩が示したジルコンU-Pb年代頻度分布は、西南日本に分布するジュラ紀〜白亜紀付加体のジルコン年代頻度分布 (Fujisaki et al., 2014, JAES; Shimura et al., 2019, Island Arc; 常盤ほか, 2018, 地雑)と類似しており、後背地は本州弧の付加体であったと考えられる。若い年代を示したジルコン粒子が極めて少数であったことや薄片に火山岩片がほとんど存在しなかったことから、下部層堆積時には伊豆弧の影響はほとんどなかったと考えられる。中部層も同様の傾向を示唆する。上部層の礫種は大部分が堆積岩であったため伊豆弧の影響は小さいと考えられる。これらを統合すると、伊豆弧の衝突は少なくとも14.6 Ma以降であることが示唆される。桃の木亜層群の堆積年代は微化石層序や貫入岩の冷却年代に基づいて15~13.5 Ma (青池, 1999)とされた。今回分析した下部層中の凝灰岩は産状から降下火山灰と考えられるため、下部層の一部は23.5 Maに堆積した層準を含むと考えられる。一方で中部層の砂岩の堆積年代は約14.6 Maと推定されるため、下部層と中部層が一連とすると、日本海拡大をはさむ900万年間堆積を続けたことになる。その場合の平均堆積速度は10 cm/kyのオーダーとなり、トラフ充填堆積物としては小さいため、桃の木亜層群はその内部にこれまで未確認の不連続が存在する可能性がある。
【結論】
桃の木亜層群下部層の堆積年代は15~13.5 Ma (青池, 1999)よりも古い23.5 Maを含むことが明らかになった。伊豆弧の衝突開始は少なくとも14.6 Ma以降出逢ったと考えられる。今後桃の木亜層群やより上位の層準について詳細な地質調査・分析を行うことで、伊豆弧衝突の変遷が明らかになると期待される。