日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R14[レギュラー]テクトニクス

[3poster47-56] R14[レギュラー]テクトニクス

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R14-P-10] 上高地群発地震の活動推移と断層系―1998年と2020年の比較―

*津金 達郎1 (1. 信州大学)

キーワード:3次元断層モデル、上高地断層、地殻流体、コンラッド面

■群発地震域■
 2020年4月22日未明,松本市西部の徳本峠の付近でM3.8の地震が発生し,微小な余震がおさまりつつあった翌日昼過ぎM5.5の地震が発生した.その13分後,六百山の南で起こった地震(M5.0)から震源域は上高地付近へと広がり,群発地震の様相が強くなった.上高地周辺では1998年にも群発地震が発生しており,8月7日に六百山の東で発生したM2.2の地震からはじまり,その東西の領域で,最大M5.0の地震を起こすなど1週間ほど活動した後,震源域が穂高岳の西方へ飛び,のちその南北に広がった.その領域は,北は野口五郎岳付近まで及び,群発領域は南北23kmに達した.2020年の群発域は樅沢岳付近から霞沢岳南部までの21kmの範囲で,1998年より南にシフトしたが,両者ともに特に地震が集中したのは上高地周辺であった.
■活動推移の比較■
 [1998年/2020年]群発地震を発生から1年間の期間で比較する.両群発地震の地震数の時間推移は,前震・本震・余震型が重なり合うような形で,多数の断層活動が示唆される.総観測回数は設定範囲(30km以浅)で[6900/42014]回に及ぶ.極微小な地震を除いたM1以上の回数は[3721/6824]回となる.最大Mは[5.6/5.5]であるが,総地震エネルギーをM換算すると,[5.757/5.855]となり,2020年は1998年の約1.4倍であった.エネルギー放出過程を見ると,エネルギーの99%を放出するのにかかった時間は群発地震開始から約[43/75]日であるが,M1以上の地震回数が95%に達する時間は約[105/175]日となり,小規模な地震の数が減るには時間がかかることがわかる.収束を群発前の地震活動度(平均的地震数)まで戻ることと考えると1998年は680日を要するが,活動度がやや上がったと解釈すると,230日程度と見ることもできる.2020年群発地震は開始から324日後(2021/3/11)にM4.3の地震が発生するなど,群発以前より活動度がかなり高い状況が継続しており収束はまだかなり先になりそうである.
■断層面の認識■
 津金(2018)は長野県中北部で震源の3D分布から多くの活動的な断層面を認識した.上高地を含む北アルプス地域でも断層面を見出したが,1998年群発地震の領域は震源集中域そのものが広く,面としての認識が困難であったため解析対象から外した.2020年群発地震も同様であったが,その端緒となった地震の断層面の認識が比較的容易であったため,さらなる探索を試みた.具体的には3Dプロットする地震の期間を数日から数ヶ月まで変化させ,かつ期間をスライドさせて断層面を検出した.その結果2020年群発地震は上高地付近で東西走向の長さ1.5~5㎞ほどの垂直に近い断層面10枚を認識した.1998年群発地震は同地域で東西走向1~4㎞の垂直に近い断層面6枚を認識した.そのうち1つの断層面は2020年にも活動している.
 井上・原山(2012)は地表踏査の結果,上高地地域で3-4本の活断層を発見しており,本合ほか(2015)はこれを上高地断層と呼び,1998年の群発地震震央集中域と関係を述べている.3D震源分布から認識した2020年地震の断層の地表投影は上高地断層に重なるものもあるので,両者の一部は同一であると考える.なお両群発地震で地表変位の報告はないので,上高地断層が地表で認識できるのは,より古い時期の地震による変位のため,或いは北アルプスの隆起と浸食によって地下の断層面が地表に現われたためであろう.
■群発地震と地殻内流体■
 日本の火山近傍では15km以深で希に地震が起こる領域が多くあり,その震源を集積すると平面ではクラスター状の分布となる.これをここでは深部震源クラスター(DHC)と呼ぶ.北アルプスには乗鞍火山列に沿ってDHCが白馬大池火山から乗鞍火山にかけて7ヶ所存在する.そのうちの焼岳北方で上高地西方のDHCは北アルプスのDHCのうち最も多くの地震が観測されている.地震観測網の拡充の影響*で,この地域で15km以深の地震が観測されるのは1999年以降で,数多く観測されるようになるのは2004年以降である.1998年時点ではDHCは見えないが,2018年3月から焼岳北方のDHCでの活動が観測史上最も活発で,群発地震開始以降さらに活動度を上げている.DHCの最浅所はコンラッド面付近のマグマ集積域と考えられるのでDHCでの活動には地殻流体が関わっていると予想され,この地殻流体が群発地震の消長に関係している可能性がある.

◇文献
本合弘樹・井上 篤・原山 智(2015)地質学会演旨.
井上 篤・原山 智(2012)地理学会演旨.
津金達郎(2018)地質学会演旨.

震源データは気象庁地震月報,気象庁一元化処理震源要素による.