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[R21-P-8] (エントリー/ハイライト)茨城県北浦湖底堆積物中の珪藻殻の破片化率・両殻共存率による堆積過程
キーワード:珪藻、北浦、現地性、異地性
世話人からのハイライト紹介:珪藻は多様な水環境に生息するため,その遺骸群集は過去の水環境を推定するために有用である.しかし,遺骸群集に含まれる異地性個体の運搬・堆積過程に関する知見は限られているらしい.本報告は茨城県北浦湖の表層堆積物に含まれる珪藻遺骸を分析し,現地性・異地性を判断するためのパラメーターを得ようとした意欲的な研究である.参考:ハイライトについて
植物プランクトンの珪藻は,陸水から海洋までの幅広い水環境に汎世界的に分布している.種ごとに形態の異なる珪藻の生物源オパール殻は堆積物中に保存され,珪藻遺骸群集は過去の水環境を反映する.ただし,珪藻遺骸群集から古環境を復元する際には,珪藻殻の現地性・異地性を評価する必要がある.特に,陸水域や沿岸域の珪藻遺骸群集に異地性の個体が含まれることが知られているが,その運搬・堆積過程に関する知見は限られている.本研究では,陸水域における珪藻殻の運搬・堆積過程を理解するため,茨城県北浦の珪藻殻の現地性・異地性の評価を行った.珪藻殻の現地性・異地性の指標として,殻の破片化率(小杉,1986)と両殻共存率(Sawai, 2001)を用いた.破片化率は種の総殻数のうちの破片の割合で表し,両殻共存率は珪藻1個体が有する2個の殻(上半被殻と下半被殻)が共に産出する割合である.
北浦において2014年8月から9月に重力式採泥器により採取した計22地点の表層堆積物を使用した.各堆積物試料は,有機物分解後に,懸濁液をカバーガラス上に滴下し自然乾燥した後,マウントメディアで封入しプレパラートを作製した.プレパラートを光学顕微鏡(倍率1000倍)で観察し,種ないし属を同定した上で各試料につき300殻の珪藻殻を計数し,出現頻度,破片化率,両殻共存率を算出した.このとき,出現した珪藻を浮遊性,一時浮遊性,付着性の3グループに分けた.
顕微鏡観察の結果,流入河川である巴川,鉾田川,山田川および雁通川の河口周辺で付着性種が増加していた.北浦で出現頻度が高かった珪藻は,湖水中に群体を形成するAulacoseira属を中心とした浮遊性種であった.Aulacoseira属の破片化率は流入河川の河口付近で増加したものの,全測点で20 %以下であった.種別ではA. granulateの破片化率は,水深および湖岸からの距離に負の相関を示した.その理由として,湖岸から離れた水深の比較的深い場で生息したA. granulataの殻が湖岸の浅い場へ運搬されたことで破片化したと考えた.湖心付近においてAulacoseira属の破片化率が減少したことは,湖水の鉛直混合が破片化率を増加させないことを示唆している.
流入河川の河口周辺で付着性種の出現頻度が増加したことは,珪藻殻の運搬過程における河川の重要性を示している.そこで,上下殻で殻構造の異なるCocconeis placentulaおよびPlanothidium lanceolatumに着目し,河川から流入する付着性珪藻殻の運搬過程を明らかにするために両殻共存率を調べた.その結果,両殻共存率は種によって異なる傾向を示した.すなわち,C. placentulaの両殻共存率は,流入河川から離れるにしたがって増加し,さらに距離が離れると減少に転じた.一方で,P. lanceolatumの両殻共存率は流入河川の河口域で最も高かった.また,C. placentulaの破片化率・両殻共存率と平均粒径,水深,湖岸からの距離との相関係数のうち,破片化率と湖岸からの距離の間に正の相関が示された.一方,P. lanceolatumuは破片化率・両殻共存率ともに平均粒径,水深,湖岸からの距離との相関を示さなかった.この違いは,両種の形態と付着の状態によって説明できる.Cocconeis placentulaは下半被殻で基質に付着するため,下半被殻は基質付近に残存しやすく,上半被殻は流されやすい.このため,生息場から離れるにしたがい両殻共存率は低下した.一方,P. lanceolatumは細胞から分泌した粘着質の茎で基質に付着するため,被殻が容易に分離し選択的に下半被殻が残る傾向がなかった.また、C. placentulaの両殻共存率が高い試料のスミアスライドの観察から,植物片に付着した被殻が多く見つかった.上記の結果から,植物片に付着したC. placentulaが,河口付近の強い水流で流されて両殻共存率が低下したことが示唆された.この時,運搬距離の増加に伴い破片化が促進されたことが,破片化率と湖岸からの距離の正の相関が認められた理由であろう.Planothidium lanceolatumは巴川および鉾田川の河口で特に多産するため河口付近でのみ両殻共存率が高く,運搬距離の増加にしたがって被殻が容易に分離し,両殻共存率が低下した.また,巴川および鉾田川河口から離れると稀産となり,湖岸から距離等との相関が認められなかった.
参考文献
小杉.1986.Diatom,2,169-174.
Sawai, Y. 2001. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 173, 125-141.
北浦において2014年8月から9月に重力式採泥器により採取した計22地点の表層堆積物を使用した.各堆積物試料は,有機物分解後に,懸濁液をカバーガラス上に滴下し自然乾燥した後,マウントメディアで封入しプレパラートを作製した.プレパラートを光学顕微鏡(倍率1000倍)で観察し,種ないし属を同定した上で各試料につき300殻の珪藻殻を計数し,出現頻度,破片化率,両殻共存率を算出した.このとき,出現した珪藻を浮遊性,一時浮遊性,付着性の3グループに分けた.
顕微鏡観察の結果,流入河川である巴川,鉾田川,山田川および雁通川の河口周辺で付着性種が増加していた.北浦で出現頻度が高かった珪藻は,湖水中に群体を形成するAulacoseira属を中心とした浮遊性種であった.Aulacoseira属の破片化率は流入河川の河口付近で増加したものの,全測点で20 %以下であった.種別ではA. granulateの破片化率は,水深および湖岸からの距離に負の相関を示した.その理由として,湖岸から離れた水深の比較的深い場で生息したA. granulataの殻が湖岸の浅い場へ運搬されたことで破片化したと考えた.湖心付近においてAulacoseira属の破片化率が減少したことは,湖水の鉛直混合が破片化率を増加させないことを示唆している.
流入河川の河口周辺で付着性種の出現頻度が増加したことは,珪藻殻の運搬過程における河川の重要性を示している.そこで,上下殻で殻構造の異なるCocconeis placentulaおよびPlanothidium lanceolatumに着目し,河川から流入する付着性珪藻殻の運搬過程を明らかにするために両殻共存率を調べた.その結果,両殻共存率は種によって異なる傾向を示した.すなわち,C. placentulaの両殻共存率は,流入河川から離れるにしたがって増加し,さらに距離が離れると減少に転じた.一方で,P. lanceolatumの両殻共存率は流入河川の河口域で最も高かった.また,C. placentulaの破片化率・両殻共存率と平均粒径,水深,湖岸からの距離との相関係数のうち,破片化率と湖岸からの距離の間に正の相関が示された.一方,P. lanceolatumuは破片化率・両殻共存率ともに平均粒径,水深,湖岸からの距離との相関を示さなかった.この違いは,両種の形態と付着の状態によって説明できる.Cocconeis placentulaは下半被殻で基質に付着するため,下半被殻は基質付近に残存しやすく,上半被殻は流されやすい.このため,生息場から離れるにしたがい両殻共存率は低下した.一方,P. lanceolatumは細胞から分泌した粘着質の茎で基質に付着するため,被殻が容易に分離し選択的に下半被殻が残る傾向がなかった.また、C. placentulaの両殻共存率が高い試料のスミアスライドの観察から,植物片に付着した被殻が多く見つかった.上記の結果から,植物片に付着したC. placentulaが,河口付近の強い水流で流されて両殻共存率が低下したことが示唆された.この時,運搬距離の増加に伴い破片化が促進されたことが,破片化率と湖岸からの距離の正の相関が認められた理由であろう.Planothidium lanceolatumは巴川および鉾田川の河口で特に多産するため河口付近でのみ両殻共存率が高く,運搬距離の増加にしたがって被殻が容易に分離し,両殻共存率が低下した.また,巴川および鉾田川河口から離れると稀産となり,湖岸から距離等との相関が認められなかった.
参考文献
小杉.1986.Diatom,2,169-174.
Sawai, Y. 2001. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 173, 125-141.