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[R22-P-1] 東南極中央ドロンイングモードランドにおける完新世の急激な東南極氷床高度低下
キーワード:南大洋・南極氷床、新学術
近年,衛星観測などによって南極氷床の融解や流出の加速が相次いで報告され,近い将来の急激な海水準上昇が社会的に強く懸念されている.しかし,近年融解傾向の加速が顕著な西南極氷床や東南極氷床の一部に対して,東南極ドロンイングモードランド域は氷床質量の増加傾向を示すなど,その動態は南極全体において一様ではない.そもそも,南極氷床の質量収支は,降雪による涵養と沿岸での融解・崩壊によって主に支配されるが,そのメカニズムの理解と定量的な観測は容易ではなく,気候変動予測精度向上における課題となっている.一方,南極氷床周辺や内陸の露岩域から得られる地質学的なデータは,断片的ではあるものの,長期的な南極氷床の質量収支を理解する上で貴重な情報を提供する.その観点において,最終氷期における氷床量やその後の氷床変動過程の復元,そして氷床変動メカニズムの解明は重要な研究課題である. そこで我々は,東南極中央ドロンイングモードランドを対象として,とくに最終氷期以降の氷床変動の復元を試みた.その結果,現地での氷河地形調査と採取試料の表面露出年代から,当該地域における東南極氷床が約8〜6 kaにかけて急激に高度を減じたことが明らかになった.この氷床量減少の規模とタイミングは,ドロンイングモードランド東端のリュツォホルム湾における氷床高度低下データ(9~6 ka)(Kawamata et al., 2020)ともおおよそ一致することから,ドロンイングモードランドにおける普遍的な傾向であると考えられる.つまり,東南極ドロンイングモードランドでは,最終氷期では現在よりも氷床が厚く,広く分布しており,その後約9 kaから急激に氷床高度が低下し,約6 ka頃にはこの急激な氷床融解が停止したと考えられる.今回得られた東南極氷床変動データは,氷床モデルや気候・海洋モデルの較正や,これらを用いた将来予測の高精度化に資するものとなる.