129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

Presentation information

Session Oral

T11.[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology

[2oral412-21] T11.[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology

Mon. Sep 5, 2022 1:30 PM - 4:45 PM oral room 4 (Build. 14, 401)

Chiar:Natsuko ADACHI, Hirokazu Kato, Fumito SHIRAISHI

2:15 PM - 2:45 PM

[T11-O-22] (Invited)Coralogy

【ハイライト講演】

*Tsuyoshi Watanabe1 (1. Faculty of Science, Hokkaido University)

世話人よりハイライトの紹介:本講演は,このセッションの招待講演である.講演者は,サンゴ礁に生息するサンゴやシャコガイ,硬骨海綿などの炭酸塩骨格に刻まれた日輪をもとにした超高解像度の古環境復元に取り組まれている.本講演では,炭酸塩骨格を用いた地球環境変動研究の現状と問題点,他分野・異文化の人々を巻き込んだ総合的観点からのサンゴ礁と地球環境の問題,今後の展望について講演いただく予定である.※ハイライトとは

Keywords:coral, carbonate rock, geological record

地球上に広範囲に分布する炭酸塩岩には海洋生物の骨格が含まれるものが多く、それらの特性や形成過程を理解することにより、地球環境変動を詳細に知る手がかりとなる。その中でもサンゴは過去数億年間の様々な地質記録から産出され、現在においても深海から浅海域まで幅広い生息域を持っている。現在の沿岸域においては、六射サンゴが炭酸カルシウム(アラレ石)からなる骨格に年輪を刻みながら付加成長し、それらの骨格からなるフレームワークは他の生物遺骸や堆積物を捕捉しながらサンゴ礁と呼ばれる独特の地形を形成する。サンゴ礁では、自然の防波堤である礁嶺が外洋からの波浪のエネルギーを吸収し造礁サンゴと体内に生息する褐虫藻が織りなすミクロコズム(準閉鎖生態系)が物質循環を支えることにより、サンゴ生態系の豊富な生産性と生物多様性を支えている。サンゴ礁内には、造礁サンゴと同様に共生藻類を体内に保持して分厚い殻を形成するシャコガイや共生藻類を持たずに海底洞窟などに生息する硬骨海綿などが生息しており、それぞれ日輪や年輪を刻みながら生息時の様々な情報をその骨格の中に閉じ込めている。これらの高時間解像度の地質記録は、様々な地質時代において当時の環境と生物の関係を切り取る“時代窓”、或いは、精巧なタイムマシーンとして用いることができる。サンゴ礁の多くが分布する熱帯域、亜熱帯域はエルニーニョ現象などに代表されるように、地球規模の気候変動に大きな影響を与える”駆動部”に位置しており、地球温暖化や二酸化炭素濃度の上昇、海洋酸性化といった百年スケールの大気海洋の変化やその影響を捉えるには重要な海域である。また、火山噴火や地震・津波、台風といった短期間に起こる環境事変を捉えることができる。一方で、サンゴ礁は、近年頻発している白化現象などに見られるように地球温暖化やそれに伴う海洋酸性化などのグローバルな環境ストレス、土地開発などによる土砂の流入や富栄養化、海洋汚染などのローカルなストレスによる複合的な要因による生育環境の劣化が指摘されている。サンゴは数億年の地球環境の激しい変動の中で敏感に応答し、進化や適応を繰り返してきた。また、サンゴのもつ多様性と可変性、そして多元的な物質循環はサンゴ礁生態系に高い生物多様性を維持させている。このサンゴ礁生態系のもつ"敏感性"と"強靭性"の二つの相反するように見える特性はどのように生まれて維持されてきたのか、また、人間活動がもたらす急激で複合的な環境ストレスは将来の人とサンゴの関係性にどのような影響を与えるのか、現代において人類は、サンゴからの恵みを享受するのと同時に大きな影響を与えうる存在になっている。サンゴ礁という人と生物、そして環境が多次元で絡み合う複雑系を理解しようとする時、我々研究者は何ができるだろうか。また、これらの課題は広く地球環境と人類の関係性を考える上でも重要な示唆を与えるものである。奄美群島の喜界島に著者らは2014年からフィールド研究の拠点を形成してきた。喜界島では過去10万年前から現在までの様々な地球環境において形成されたサンゴ礁段丘が観察でき、完新世以降の陸上にはサンゴ石灰岩に蓄えられた湧水と地下水、サンゴ礁から得られた食資源や石材を活用した集落が古い歴史と多様性を保ちながら存在する。このような恵まれた立地もあり自然科学の一研究者の学術的な関心で始まったフィールド拠点は、現在では人文科学や社会科学を含む様々な研究分野の研究者、子どもから大学院生までの幅広い世代の学生、多種多様な生業を営む島の住民と地域から国政を担当する行政や政治関係者などのステークホルダー、演劇から音楽、舞踊など様々な表現方法を持つアーティストが集まり、過去から現在、そして未来の人と環境の関係性という問いへの探究を目指している。これらの現象もサンゴ礁のもつ魅力と特性よるものと捉え、それら一体の研究と活動をサンゴロジーと呼んでいる。本講演では、著者の専門である炭酸塩骨格を用いた地球環境変動研究の現状と問題点から、多分野異文化の人々を巻き込んだ総合的な観点からのサンゴ礁と地球環境の問題につながった研究と実践への発展を概観する。