The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(口演・誌上開催)

PDFポスター

実態調査

[O一般-029] Bayesian Cohort Model によるDMF歯数の Cohort 分析

○那須 郁夫1,2 (1. 北原学院歯科衛生専門学校、2. 日本大学)

【目的】
 歯科疾患実態調査の対象者には,明治初年から平成20年以降生れまで140年以上にわたる世代の日本人が含まれる。本研究は日本人DMF歯数の変遷を出生世代に着目して分析することを目的とした。
【方法】
 全11回の調査年ごとの男女年齢階級別1人平均DMF歯数から分析の基礎となる17年齢階級×11調査回のcohort表を作成した。等計量線図による俯瞰的観察を実施すると同時に,中村のBayesian Cohort Modelによりcohort分析を実施して,時代効果,年齢効果,cohort効果の3効果を分離検討した。
【結果と考察】
 等計量線図:齲蝕の性質上,加齢とともに蓄積増加する基本的な変動の他に,これまで歯種別には知られていた年間砂糖消費量に連動する齲蝕発病の影響が個人でも認められ,昭和15年前後生れで低下し,概ね昭和40年生れまで増加していた。この世代差は壮年から老年に至るまで生涯にわたり影響をもたらす。最近の若い世代では一貫して低下を続けている。
 Cohort分析:時代効果は,男で1991年,女で1987年が最も高く,その後下降していた。年齢効果は,変化幅が最も大きく加齢とともに直線的に増加していた。Cohort効果は,明治生れでは女性の方が大きい。その後低下して昭和12~15年生れで男女とも最も低く,増加に転じた後は,男で昭和37~41年,女で同32~36年生れで最高となり,男で平成4~8年,女で昭和63~平成3年生れまで低下していた。この数年の性差は,年間砂糖消費量の影響が,男では,萌出直後の第1,第2大臼歯の両方に対して現れたが,女では,第1大臼歯のみであったためと解釈した。
 その他,両分析を通じて,1960~1980年における50歳以降の喪失歯の増加,1990年以降の全年齢層での喪失歯の減少が認められ,前者は国民皆保険による国民全体の受診機会の増加,後者は抜歯を控える国民性に8020運動が拍車をかけたと解釈した。
 島国日本のDMF歯数をみた時,人々は置かれたその時代の影響を「歯」に刻んでいる。DMF歯は,発病―処置―その後の喪失の経過をたどる。これらを踏まえ,日本全体では齲蝕の一貫した減少と治療技術の進歩により「齲蝕(DとF)」の改善は見込まれるので,今後は,歯周病や歯の破折など齲蝕以外の原因による喪失(M)予防にさらに力を注ぐべきである。