The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(口演・誌上開催)

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症例・施設

[O一般-049] 高齢者に発症した広範囲にわたる上下顎骨放射線性顎骨壊死の1例

○高橋 悠1、佐久間 要1、戸谷 収二2、田中 彰1,3 (1. 日本歯科大学新潟生命歯学部口腔外科学講座、2. 日本歯科大学新潟病院口腔外科、3. 日本歯科大学新潟生命歯学研究科顎口腔全身関連治療学)

【目的】頭頸部癌では形態や機能の温存の観点から放射線治療の役割は大きく、以前より根治療法の1つとして用いられてきた。しかし放射線治療による晩期有害事象の1つである顎骨壊死は、照射方法をはじめとした放射線治療法の進歩により減少傾向にあるものの、ひとたび発症すると不可逆的でその治療には難渋する。今回、高齢者の上下顎骨に発症した広範囲にわたる放射線性顎骨壊死の1例を経験したので報告する。
【症例の概要と処置】74歳の男性。右側上顎癌(T4aN0M0)に対して紹介医にて選択的動注化学放射線治療後、口腔ケアと歯科治療のため当科紹介来院となった。口腔内は多数齲蝕や残根があったが、放射線照射野内であり、残存歯は口腔ケアを中心として保存的に治療した。放射線治療を行って約3年経過後より、放射線性骨壊死の症状である右側上顎臼歯部に骨露出を認めるようになってから、右側下顎にも骨露出を認めるようになり、洗浄療法を継続したが進行の制御は困難であった。さらに4年経過後、右側上下顎骨の放射線性骨壊死は徐々に増悪し、右側頬部瘻孔からの排膿および疼痛の制御が困難となった。画像検査では、CTにて右側上顎骨は上顎洞や鼻腔に達する腐骨形成を認め、右側下顎骨は小臼歯相当部〜下顎枝まで腐骨形成を認めた。同様の範囲に、MRIではT1強調像にて低信号、T2強調像にて高信号、骨シンチグラフィでは集積像を認めた。そこで、当初は患者が保存的療法を希望していたが、手術療法に同意されたため、顎骨壊死の根治的治療を目的に手術療法を計画し、全身麻酔下に右側上顎骨部分切除術および右側下顎骨区域切除術を施行した。病理組織学的所見では、右側上下顎ともに顎骨壊死の所見を認めた。
【結果と考察】今回は、右側頬部皮膚にも高線量の放射線照射が当たっていたことから、金属プレートによる再建後の感染やプレート露出のリスクが高いと判断したため、再建術は行わなかった。術後、上顎洞瘻や区域切除に伴う摂食障害はあるものの現在まで再燃は認めない。高齢者では全身状態や機能障害、生命予後を考慮した治療方法およびその時期の選択が重要である。本症例は広範囲に及ぶ放射線性顎骨壊死であったが、手術療法を行ったことにより壊死進行拡大を抑制し、排膿や疼痛症状は改善され、QOLが回復されたと考えられる。