The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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学術シンポジウム

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口腔機能低下症の「疑問」に応える

座長:水口 俊介(東京医科歯科大学大学院高齢者歯科学分野)、池邉 一典(大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野)

[SY6-3] 口腔機能管理のゴール設定と管理の手順

○上田 貴之1 (1. 東京歯科大学老年歯科補綴学講座)

【略歴】
1999年:
東京歯科大学卒業
2003年:
東京歯科大学大学院歯学研究科修了
2003年:
東京歯科大学・助手
2007年:
東京歯科大学・講師
2007年:
長期海外出張(スイス連邦・ベルン大学歯学部補綴科客員教授)
2009年:
東京歯科大学復職
2010年:
東京歯科大学・准教授
2016年:
文部科学省高等教育局医学教育課技術参与(2018年まで)
2019年:
東京歯科大学・教授(現在に至る)

口腔機能低下症と診断された場合,口腔機能管理を行うことになっている.口腔機能低下症における口腔機能管理の目標(ゴール)は,口腔機能の維持・向上である.従って,診断のための7つの検査(口腔機能精密検査)で低下が認められた項目を基準値以上に向上させることがゴールではない.もちろん,基準値以上に向上させることができるのであれば,それに取り組むことは適切なことである.しかし,年齢や機能低下の状態だけでなく,全身状態,社会的背景や心理的状況,パーソナリティも考慮してゴールを決定する必要がある.口腔機能低下症の主な原因は老化であり,まだ障害ではない,一歩手前の状況である.よって,顕著な向上が認められないとしても,1年後,2年後と口腔機能を維持できていれば,その口腔機能管理は成功しているといえるのではないだろうか.

口腔機能低下症は,主に運動性の口腔機能を対象としているが,口腔機能管理は筋力アップだけを目的とするわけではない.口腔機能低下症は,将来の低栄養を防止することが疾患概念であるため,栄養状態の把握や改善,生活習慣の改善なども管理に含まれるべきである.口腔機能管理の第1段階は,患者自身に自身の口腔機能の現状を知ってもらい,口腔機能の維持の必要性を知ってもらうことであり,生活習慣や食生活の見直しのきっかけをつくることである.その後に,必要に応じて口腔機能のトレーニングを行う.このように,はじめからトレーニングありきではなく,患者に気づきを与えることが長期の管理を成功させるために重要であろう.

また,口腔機能管理が単独で行われることは、ほとんどない.歯周病や齲蝕の治療・管理,補綴治療と合わせて行われるものである.補綴治療を単独で行っても栄養改善にはつながらず,補綴治療と栄養指導を併用して初めて栄養改善につながることが,国内外の研究で明らかになっている.従って,形態の回復と機能の回復は,同時に行わなければならないといえるだろう.

口腔機能低下症と混同しやすい言葉として,オーラルフレイルがある.オーラルフレイルは,口腔機能の低下を広く表す概念である.様々な考え方があるが,2019年に日本歯科医師会は,オーラルフレイルの定義を公表した.日本老年歯科医学会学術委員会でも口腔機能低下症とオーラルフレイルの関係性を提示しており,両者の関係性が整合性のとれた形で明確になっている.
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