第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

一般演題(口演) O2群
看護実践・管理

2018年6月30日(土) 14:30 〜 15:30 第5会場 (2階 平安)

座長:樅山 定美(いわき明星大学 看護学部), 座長:山崎 早苗(東海大学医学部付属病院 集中治療室)

[O2-2] 心停止後症候群で脳低温療法を受ける患者の体温管理の特徴

宮本 愛1, 横山 瑞恵1, 高橋 幸憲1, 田端 陽太1, 川原 龍太1, 高橋 聡子1, 山﨑 直人1, 志村 知子1, 横堀 将司2 (1. 日本医科大学付属病院 看護部, 2. 日本医科大学大学院 医学研究科 救急医学分野)

[背景]
脳低温療法の治療過程では冷却システムなどの機器管理と体温変動のモニタリングに対する緻密な看護介入が求められる。その内容は選択される冷却システムによって異なるべきであるが、検査や処置、清潔ケア等の医療的イベントによって生じる冷却中止期間の判断など、体温変動に影響を及ぼすと推測される看護介入の方法は個人の経験知に委ねられている。一方、病態や治療に起因した合併症などの発生を予防し重篤化を防ぐことも看護の役割であるが、冷却システムの違いによって特徴的に生じる患者への影響についてその内容は明らかではない。
[目的]
自動体温調節機能を持つ2つの冷却システム【パッド式の体表面冷却法(Arctic Sun2000・5000)と血管内冷却法(サーモガードシステムTM)】の体温管理の特徴を医療的イベントとの関連性ならびに患者への影響をもとに検証する。
[方法]
 2014年~2016年の2年間に研究対象施設において体表面冷却法と血管内冷却法による脳低温療法を受けた心停止後症候群患者20名に対し、患者基本情報、脳低温療法実施期間における治療条件、体温変動に影響を与えると推測される検査・処置等の医療的イベント(以下イベント)、導入期を除く体温の推移と逸脱許容温度からの逸脱幅(絶対値)、逸脱頻度、二次的合併症、担当看護師の経験年数について後方視的調査を行った。逸脱許容温度は各機器メーカーが示す値とした(体表面冷却法:標的温度±0.5℃、血管内冷却法:標的温度±0.2℃)。患者を体表面冷却法実施者(体表面群)と血管内冷却法実施者(血管内群)に分け、収集した変数毎に2群を比較した。また各群において逸脱頻度とイベント発生との関係を検証した。統計手法はカイ二乗検定、Mann-WhitneyのU検定を用い、有意確率0.05未満で有意差ありと判定した。本研究は対象施設倫理委員会の承認を得た上で実施した。
[結果]
逸脱頻度において2群に有意な差はなかったが(p=0.066)、逸脱幅は血管内群において有意に低かった(p=0.000)。2群において逸脱頻度が平均値(4.17%)を上回った時間帯は、いずれも研究対象施設で清拭や処置などの看護ケアが最も頻繁に実施される10時~12時台に合致せず、逸脱要因として明らかな医療的イベントは体温センサー不良であった(体表面群5回、血管内群1回)。また看護師の経験年数は体表面群で5.41±3.1年、血管内群で4.61±3.0年と有意に血管内群の方が低かった(p=0.020)。さらに統計的有意差はなかったが、肺合併症の発生頻度が体表面冷却群で高い傾向を示した。
[考察]
血管内冷却法は体表面冷却法に比較して標的温度に対する逸脱許容幅がより厳正に制限されており、標的温度への追随性も高く、経験年数に捉われずに看護師を配置できたものと考えられる。しかしいずれの冷却法であっても機器自体を原因とした管理不良が起こり得るため、体温観察はダブルモニタリングで行われることが望ましい。また、身体可動域に制限のない血管内冷却法に対して胸郭全体をパッドで覆う体表面冷却法では、胸郭可動性の低下により肺合併症のリスクが高まる可能性がある。体温変動に影響を及ぼすと推測される清潔ケアや処置が実施される時間帯における実際の体温逸脱頻度は低く、これらの看護介入の影響は小さいと推測されるため、自動体温調節機能をもつ冷却システムを用いた場合には、感染症をはじめとする患者の合併症を予防するために、早期から清潔ケアや肺理学療法などの看護介入を積極的に行うべきである。