[O7-6] A病院SICU看護師への倫理教育による倫理的行動変容
Keywords:倫理的行動、倫理教育
【目的】
倫理教育によって倫理的感受性は高まるとされているが、倫理的行動がどう変化するか調査した研究はない。本研究の目的は、自部署独自の倫理教育の効果として対象者の倫理的行動の質変容を調査することである。
【方法】
研究デザイン:尺度測定による前後比較研究
対象:A病院SICUに勤務する看護師長を除く看護スタッフ全員
期間:2019年10月1日~2020年1月31日まで
調査内容:看護師経験年数および永野らが開発した『看護師としての倫理的行動自己評価尺度』31項目。選択肢は頻度を問う「いつもそうである(4点)」~「ほとんどそうでない(1点)」の4件法で、最高点は124点。事前に開発者の許可を得て使用した。
調査方法:調査期間中に倫理に関する教育プログラムを段階的に実施し、その前後に測定具を用いてデータを収集した。教育プログラムは、自作の自由回答式アンケート調査から得られた質的記述データ(過去に体感した倫理的ジレンマ、自部署で起こり得る倫理的問題の認識、倫理に関する学習ニーズ)をもとに作成し、それぞれ異なるテーマで合計3回実施した。また、事例を要所で取り入れ、ディスカッションを含む勉強会形式とし、勤務時間内を利用して各15~30分程度で対象者全員に実施した。
分析:基本統計量(看護師経験年数は平均値±標準偏差、その他は中央値[最小値-最大値]で示す)を算出後、統計学的検討としてMann-WhitneyのU検定を行い、p<0.05を有意とした。
倫理的配慮:所属施設の倫理審査委員会の承認を得た上で行った(承認番号第2019025号)。対象者へ配布した各調査用紙には、調査の趣旨・目的に加えて、匿名性の確保、結果の公表などを説明し、調査用紙の回収をもって本調査研究への同意とした。
【結果】
倫理教育前(pre群)は26名(回収率90%)、倫理教育後(post群)は22名(76%)であり、有効回答率は両群とも100%であった。看護師経験年数はそれぞれ8.24±6.93歳、8.80±7.18歳であった。尺度31項目の合計得点はpre群:94.5[79-116]点、post群:101.5[79-118]点(p=0.078)で、両群間に有意な差はみられなかった。項目別では、「患者・家族の不安や疑問が医師に伝わるよう代弁する」の項目でpre群:3[1-4]点、post群:3[2-4]点(p=0.02)、「治療への疑問は医師と話し合い、疑問の解消できた治療を実施する」の項目でpre群:3[1-3]点、post群:3[2-4]点(p=0.017)とpost群が有意に高かった。
【考察】
本研究で用いた測定具は、看護の対象者の特性や看護場面を限定することなく、病院に勤務する看護師が倫理的行動の自己評価に活用可能な尺度である。今回実施した倫理教育プログラムは、倫理原則など基本的な内容を含むものの、クリティカル領域における終末期に関連した考え方やケアを主にした内容であったため、日々の職務活動における倫理的行動全般の質向上には至らなかった。しかしながら、終末期の判断や患者・家族の意思の反映が容易とはいかないクリティカル領域において、有意差の認められた2項目は、看護師のアドボケーターとしての役割や最善の治療提供に向けた倫理調整につながる行動と言える。また、これらは『集中治療領域における終末期患者家族のこころのケア指針』に基づく重要なケアであり、自部署で行った倫理教育が効果的にはたらいたものと評価できる。
今後の課題は、倫理教育の手段・内容の再考と継続、そして倫理的行動による患者・家族のアウトカムを併せて調査することである。
倫理教育によって倫理的感受性は高まるとされているが、倫理的行動がどう変化するか調査した研究はない。本研究の目的は、自部署独自の倫理教育の効果として対象者の倫理的行動の質変容を調査することである。
【方法】
研究デザイン:尺度測定による前後比較研究
対象:A病院SICUに勤務する看護師長を除く看護スタッフ全員
期間:2019年10月1日~2020年1月31日まで
調査内容:看護師経験年数および永野らが開発した『看護師としての倫理的行動自己評価尺度』31項目。選択肢は頻度を問う「いつもそうである(4点)」~「ほとんどそうでない(1点)」の4件法で、最高点は124点。事前に開発者の許可を得て使用した。
調査方法:調査期間中に倫理に関する教育プログラムを段階的に実施し、その前後に測定具を用いてデータを収集した。教育プログラムは、自作の自由回答式アンケート調査から得られた質的記述データ(過去に体感した倫理的ジレンマ、自部署で起こり得る倫理的問題の認識、倫理に関する学習ニーズ)をもとに作成し、それぞれ異なるテーマで合計3回実施した。また、事例を要所で取り入れ、ディスカッションを含む勉強会形式とし、勤務時間内を利用して各15~30分程度で対象者全員に実施した。
分析:基本統計量(看護師経験年数は平均値±標準偏差、その他は中央値[最小値-最大値]で示す)を算出後、統計学的検討としてMann-WhitneyのU検定を行い、p<0.05を有意とした。
倫理的配慮:所属施設の倫理審査委員会の承認を得た上で行った(承認番号第2019025号)。対象者へ配布した各調査用紙には、調査の趣旨・目的に加えて、匿名性の確保、結果の公表などを説明し、調査用紙の回収をもって本調査研究への同意とした。
【結果】
倫理教育前(pre群)は26名(回収率90%)、倫理教育後(post群)は22名(76%)であり、有効回答率は両群とも100%であった。看護師経験年数はそれぞれ8.24±6.93歳、8.80±7.18歳であった。尺度31項目の合計得点はpre群:94.5[79-116]点、post群:101.5[79-118]点(p=0.078)で、両群間に有意な差はみられなかった。項目別では、「患者・家族の不安や疑問が医師に伝わるよう代弁する」の項目でpre群:3[1-4]点、post群:3[2-4]点(p=0.02)、「治療への疑問は医師と話し合い、疑問の解消できた治療を実施する」の項目でpre群:3[1-3]点、post群:3[2-4]点(p=0.017)とpost群が有意に高かった。
【考察】
本研究で用いた測定具は、看護の対象者の特性や看護場面を限定することなく、病院に勤務する看護師が倫理的行動の自己評価に活用可能な尺度である。今回実施した倫理教育プログラムは、倫理原則など基本的な内容を含むものの、クリティカル領域における終末期に関連した考え方やケアを主にした内容であったため、日々の職務活動における倫理的行動全般の質向上には至らなかった。しかしながら、終末期の判断や患者・家族の意思の反映が容易とはいかないクリティカル領域において、有意差の認められた2項目は、看護師のアドボケーターとしての役割や最善の治療提供に向けた倫理調整につながる行動と言える。また、これらは『集中治療領域における終末期患者家族のこころのケア指針』に基づく重要なケアであり、自部署で行った倫理教育が効果的にはたらいたものと評価できる。
今後の課題は、倫理教育の手段・内容の再考と継続、そして倫理的行動による患者・家族のアウトカムを併せて調査することである。