第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題

[O1] 呼吸・循環管理

[O1-04] スライドシートを用いた体位変換による腹臥位時間の延長とその効果

○小野 香苗1、竹下 智美1、大宅 隆博1、小田 依里香1、清村 紀子2、後藤 孝治3、古賀 寛教3、安部 直子1 (1. 大分大学医学部附属病院 看護部、2. 大分大学 医学部看護学科、3. 大分大学医学部附属病院 集中治療部)

Keywords:腹臥位療法、スライドシート、体位変換

【目的】重症呼吸不全患者への腹臥位療法は有効性が示唆され、長時間の腹臥位が生命予後を改善するとの報告がある。しかし、従来の腹臥位への体位変換は、①人的・物理的負担が大きい、②チューブトラブルや長時間腹臥位による皮膚トラブルなど有害事象のリスクがある、といった課題があった。こうした課題に対応すべく、A病院では、2018年12月よりスライドシートを用いた体位変換を導入している。本研究は、スライドシートを用いた体位変換(以下、スライドシート法)が、腹臥位時間の延長につながるか、さらにその効果について従来の方法(以下、従来式)とスライドシート法を比較検証することを目的とする。
【方法】1) 重症呼吸不全患者(FIO2≧0.6かつPEEP≧5cmH2OでP/F≦200ratioの18歳以上)で腹臥位療法を実施した患者のうち、従来式で体位変換を実施した患者を従来群(2017年12月〜2018年11月)、スライドシート法で体位変換を実施した患者をスライドシート群(2018年12月〜2020年12月)とし、後方視的に電子カルテより、年齢、性別、疾患、腹臥位開始時のAPACHEⅡ、人工呼吸時間、初回腹臥位から抜管までの時間、1回の腹臥位時間、1日の腹臥位時間、総腹臥位時間、初回腹臥位前P/F・TV、腹臥位前後のP/F・TV、皮膚トラブル・チューブトラブル・CHDF装着の有無を抽出した。2) データは記述統計で整理し、名義尺度はχ検定、比率尺度・間隔尺度は正規性の検定後、t検定もしくはMann-Whitney U検定を行った。腹臥位前後のP/F、TVは対応のあるt検定を行った。全ての統計処理はIBM SPSS Statistics version 22®を用い、有意水準0.05で、P<0.05を有意差ありと判定した。3) 倫理的配慮:所属施設の倫理審査委員会の承認を得た(承認番号1555)。対象者にはオプトアウトの機会を保障し対象施設集中治療部ホームページに公開した。
【結果】基準を満たした従来群9例、スライドシート群9例を分析対象とした。年齢・重症度・酸素化障害の程度は2群に差はなかった。1回の腹臥位時間の平均は従来群4.98時間、スライドシート群4.02時間と従来群が長いが、1日の腹臥位時間の平均は従来群4.98時間、スライドシート群8.05時間(P=0.00)とスライドシート群の方が有意に長かった。人工呼吸時間に統計学的な有意差はなかった(P=0.196)が、スライドシート群で平均24時間の短縮を認めた。腹臥位前後のP/Fは2群共に有意に改善した。腹臥位前後のTVは2群で改善し、スライドシート群のみ有意差が認められた。皮膚トラブル発生は2群とも2件、チューブトラブル発生は2群とも0件であった。CHDF装着中の腹臥位への体位変換のべ実施回数は従来群7回、スライドシート群33回とスライドシート群が多かった。
【考察】スライドシート法では1日に複数回の腹臥位への体位変換が可能となり、結果、腹臥位時間の延長につながった。既存研究結果同様、腹臥位時間の延長が酸素化・換気量の改善につながり、人工呼吸時間の短縮に寄与する可能性が示唆された。腹臥位時間の延長により体位変換の回数が増えたが、皮膚トラブル・チューブトラブルの発生に差はなく、スライドシート法の安全性も担保されるものと考える。
【結論】スライドシート法は、安全に複数回の体位変換が実施可能で腹臥位時間の延長に有効な方法であり、呼吸パラメータの改善に寄与する可能性があることが示唆された。