第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O11] 家族看護1

2022年6月12日(日) 13:00 〜 14:10 第4会場 (国際会議場 21会議室)

座長:中橋 厚子(健和会大手町病院)

13:24 〜 13:36

[O11-03] ICUにおける終末期代理意思決定支援に必要な視点-家族が患者の最善を考えられるようになった一例-

○内山 典代1、佐藤 遥1、今井 圭司1 (1. 日本医科大学多摩永山病院)

キーワード:代理意思決定支援、家族看護

【目的】代理意思決定が行えなかった家族が患者にとっての最善を考え代理意思決定が行えるようになった要因を明らかにする。
【方法】 1.研究場所:A病院救命救急センター 2.対象患者・家族 202X年9月X日~202X年10月X日に入院していたA氏とその家族。 対象患者:A氏、60代男性。胸痛主訴に来院後、院内で急変しICU入室となる。 家族構成:A氏、妻、長男、長女。長女は出産直後であり妻・長男がICを受けていた。 3.倫理的配慮  A病院の症例報告に関するプロトコルに則り患者家族の特定ができない形に一般化を図った。
【結果】家族情報聴取時、妻は「娘は出産直後のため負担をかけたくないと思っている」と発言しICは妻と長男が受ける事を希望した。DNARについての代理意思決定を求められた場面では「1%でも希望があるなら治療をして欲しい」と希望し、A氏の価値観について尋ねても妻・長男ともに言葉に詰まり「死んでほしくない」「いなくなったらどうしていいか分からない」という家族の思いを強く訴えた。妻は面会制限について理解を示す一方で、「少しでも近くにいたい」という思いを記載した手紙を持参して連日来院し面会を強く希望した。長男からは「母は自宅で食事も睡眠もとれていない。母だけでも面会させて欲しい」と希望があった。まずは家族のニードを充足させるために、面会調整、web面会を通じた情報共有、訴えの傾聴、面談しやすい環境調整、家族についての情報共有と介入方法の統一を行った。第10+X病日、妻より「気持ちの整理をつけたい」と臨床心理士との面談を自ら希望し、長女を交えた家族会議で「A氏が治療の継続を希望するのか」という長女からの疑問を受けて、家族間での希望が異なることについての葛藤を表出するようになった。家族会議が行われた後の代理意思決定を求められる場面では、家族の希望だけでは無くA氏が望む事は何かという発言に変化があった。その結果、第20+X病日目に代理意思決定のもとでDNARとなる。
【考察】 当初、A氏の家族は、看護師に対して面会希望を伝える、A氏の近くにいられないことがいかに苦痛かを話すなど家族の要望を訴えていた。ニードの充足を続けるうちに代理意思決定が行えない自身に対する失意を訴えるようになるなど、看護師に対して求める役割が変化していった。これは、看護師が社会的支持の役割を担えた事を示している。行った看護介入は救急・終末期看護プラクティスガイドの「意思決定支援」に該当しており、家族の代理意思決定を支える要因となったと推測できる しかし、家族の発言内容は家族会議後に変化しており、長女の疑問提示が代理意思決定を行う上で重要な役割を果たしたと考えられる。家族情報収集時に長女は出産直後であり負担をかけたくないと発言があった事、キーパーソンである妻が心理的危機の状態となり身体症状を認めていた事から「A氏の家族」を妻とその社会的支持者である長男と認識し双方に対して介入を行った。そのため、長女についての情報収集が不十分となりA氏の家族システムについて充分な把握が行えなかった。本事例より代理意思決定支援として「個人としての家族」への介入だけでなく、「集団としての家族」にも目を向け、家族情報で得た先入観にとらわれず家族機能や関係性、役割機能などの家族システムについての継続した情報収集が必要であった。
【結論】看護介入は救急・終末期看護プラクティスガイドに該当する内容であり代理意思決定支援の要因となった。心理的危機に陥った家族に対し危機介入を行うだけではなく家族システムについて継続した情報収集が必要であった。