第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O4] エンド・オブ・ライフケア

2022年6月11日(土) 13:50 〜 15:00 第4会場 (国際会議場 21会議室)

座長:長岡 孝典(独立行政法人国立病院機構 呉医療センター)

14:02 〜 14:14

[O4-02] A病院ICUでの終末期看護に関する教育

○瀧 洋子1,2 (1. 東京医科大学八王子医療センター、2. 救命救急センターICU)

キーワード:ICU、教育、終末期看護、悲嘆ケア

【背景】医療の高度化に加え、高齢多死社会化や人々の価値観の多様化によりICUでの終末期看護の質向上が求められている。ICUでの終末期看護に関して看護師が困難感を抱いていることは既知の事実であり、その要因も検討されている。
【目的】JNAラダーⅠを修了したICU看護師を対象とした終末期にある患者家族への悲嘆ケアに関する教育介入の実際と効果を報告すること。
【方法】1.組織分析 A病院ICUのJNAクリニカルラダーⅠを修了した看護師は、終末期看護に関する教育を受ける機会がなく、COVID-19による患者家族の面会制限により、心理的危機的状況にある患者家族と対峙する機会が極めて少ない状況であった。そのため、終末期に至り患者家族が面会した際に表出する強い悲嘆反応にどのように対処すべきかわからないという困難を抱いていた。 2.介入内容 成人学習理論や先行研究(伊藤ら,2020)を参考とし、教育プログラム(以下、教育)を作成した。終末期にあるICU患者と家族の特徴や心理的危機状態にある患者家族と悲嘆ケアについて学習後、事例検討を行った。事例検討では、実際のICU入室症例を取り上げることで、学習に対しての動機付けを行った。また、臨床現場での悲嘆ケアに関して行動レベルで提示した。OJTでは座学で学習した内容と対象者とともに実践することで、具体と抽象のやり取りを強化した。また、対象者の終末期看護に関する実践や記録にも着目し、その内容や困難を抱きながらも取り組む姿勢を承認した。 3.教育の効果判定 知識と技術を獲得した結果、終末期ケアに関しての困難感が低下すると仮定した。ICU看護師の終末期ケア困難感尺度(Kinoshita et al,2011)を用い、教育介入前後で数値の変化を評価した。
【倫理的配慮 】A病院所属長に承認を得た。対象者には学会発表に関して同意を得た。COIはない。 Ⅴ.結果  対象者は3名で、ICU経験年数、看護師経験年数ともに2年であった。ICU看護師の終末期ケア困難感尺度平均点数は、①終末期ケア環境を整えることに関しては10.3点、教育後14.3点、②終末期ケア体制を整えることに関しては、教育前13点、教育後14.3点、③終末期ケアに自信を持つことに関しては教育前24点から教育後21点、④終末期患者と家族のケアに関しては教育前22.3点から教育後18.2点、⑤治療優先から終末期ケアへ転換することに関しては教育前8.7点から教育後9.7点であった。
【考察】ICU看護師の終末期ケア困難感尺度平均点数を見ると、具体的なケア実践を反映すると考えられる項目③④では平均点数は低下し、対象者の困難感は低下したと推察された。教育対象者の行動変容を促すには効果的な研修計画を立てることが重要である(ガニエ,2007)。本教育では、対象者のレディネスや組織分析に基づき、具体的な症例を用いた事例検討や具体的な行動レベルまで落とし込んだ内容とした。これらは成人学習理論やADDIEモデルなど理論的枠組みを踏まえた教育であったと考えられ、終末期看護に関する教育においても重要であることが示唆された。 ICUでの質の高い終末期看護を提供するためには、ICU看護師の直接ケア実践に加え多職種連携や組織体制整備が重要である(日本クリティカルケア看護学会,2019)。組織体制整備やチーム医療推進の要素が含まれると考えられる①②⑤の項目では、教育開始前より平均点数は上昇していた。本教育により、終末期看護に関する基本的な知識や技術の獲得に加え、OJTとのリンクや実際の症例を用いた事例検討を実施により、対象者の内省が促されたと推察された。その結果、対象者らは自身の終末期看護の実践能力と目標とすべき実践との乖離を認識し、結果点数が上昇した可能性があると推察された。