第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

トリアージ

[O3] 一般演題3

[O3-06] 事例検討会から考える院内トリアージのピットフォール

○酒井 由夏1、近森 秀生1、上總 麻里子1、橿尾 幸聖1、町田 清史1 (1. 社会医療法人近森会 近森病院 救命救急センター)

Keywords:トリアージ、ピットフォール、JTAS

【研究背景】A病院は院内トリアージを2012年に導入し、同時に事後検証を行ってきた。その結果、アンダートリアージは導入当初4.8%であったものが、2018年度は0.8%まで低下することができた。院内トリアージの質の向上には、事後検証が有用であることは様々な先行研究により証明されている。当院の事後検証はアンダートリアージ症例に関してのフィードバックのみであったため、さらなるトリアージの質の向上を目的に、2018年度よりトリアージナース自身によりトリアージ症例を選んで事例検討会を開催している。事例検討会で発表された症例を再検証し、A病院における院内トリアージのピットフォールを抽出することで、トリアージナースの今後の教育に活かせるのではないかと考えた。
【研究目的】院内トリアージのピットフォールを明らかにする
【研究方法】1.期間: 2018年5月20日~2020年5月30日、2.対象:院内トリアージ検証会で発表された13症例、3.方法:院内トリアージ症例検討会で発表されたトリアージ症例を項目毎に集計し、その傾向を分析した
【倫理的配慮】A病院看護部倫理審査の承認を得た
【結果】症例をstep毎に分析した。Step1では第一印象・重症感の決定因子が不明なものが46%、情報の統合が不十分なものが46%であった。Step2では自覚症状の評価として問診が不十分なものが53%、他覚症状の評価として「意識レベルの評価が不適格」15%、「表在性疼痛と深在性疼痛の区別ができていない」15%「ショックの評価ができていない」15%であった。他覚所見の評価では、66%の症例で身体所見が十分に評価できていなかった。Step3では情報の統合が不十分であり69%の症例で疾患の絞りこみができていなかった。
【考察】Step1では重症感の決定因子が不明なものが46%あり、バイタルサインの値を根拠にsickと判断している症例があった。トリアージは患者と接触する前に患者の姿を観察し、重症感の評価を行う必要がある。これらのことができていない要因として、第一印象の基礎知識がない、または定義の理解不足が考えられる。情報の統合では、1つの疾患しか考えられていない症例が38%あり、医学的知識不足や先入観、経験値による疾患の決めつけがあるのではないかと考えられる。
 Step2では問診が不十分なものが53%であり、考えられた疾患と問診の相違がみられた。これは疾患の知識が乏しいため問診につながらないことや、問診スキル不足などが考えられる。他覚症状の評価では「意識レベルの評価が不適切」「ショックの評価ができていない」が15%と数は少ないが、重症化の可能性を見逃しているものがあり、患者訴えなどを軽視した結果起こっているのではないかと考える。他覚所見では身体所見が十分に評価できていない症例が66%あった。これはハード面の問題も関係しているが、step1.2での観察不足などにより必要な身体所見の観察ができていないことが考えられる。
 Step3では疾患の絞り込みができていないものが69%であり、step2での観察不足によりアセスメントが十分に行われていない結果と考える。
 トリアージは、幅広い疾患の知識や少ない情報から患者の状況を素早くアセスメントすることが必要であるが、思い込みや先入観などがピットフォールとなっていることが明らかとなった。