第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

トリアージ

[O3] 一般演題3

[O3-09] 発熱高齢者のJTASレベル3または4を判定する補足因子に食欲低下の有無を適応させる有用性の検証

○黒木 真二1、村上 貴子1、福島 由衣1、上野 葵1 (1. 独立行政法人 地域医療機能推進機構 九州病院 特殊外来(救急センター))

Keywords:院内トリアージ、発熱、高齢者、食欲低下

【はじめに】
 A病院を受診した高齢者は約4割を占めており、受診理由として発熱は2番目に多い症候であった。2017年4月にA病院を発熱のため受診して、JTASレベル4と判定された高齢者の入院率は30.4%であった。これはCTASレベル4の入院予測率(0~10%)を大きく上回るため、アンダートリアージ(以下UT)が示唆された。しかし、qSOFA 2項目未満の場合は、JTASレベル3または4となるが、それらを判定する補足因子に明確な指標はない。さらに、高齢者は非典型的な症状を呈することが多く、アセスメントの過程は難渋する。UTの場合には、適切な時間での再評価ができないため、敗血症に移行するような何らかの感染症が潜在する場合は急変の可能性がある。MINGYI CHENらは、食欲抑制に影響するレプチンは早期敗血症の有用な指標であるとしている。そこで、食欲低下は発熱高齢者のトリアージの補足因子として適応できると考えた。
【目的】
 発熱を主訴とした高齢者に対して、JTASレベル3または4と判定する補足因子に食欲低下が有用であるかを検証する。
【方法】
1.対象:2020年3月16日~4月13日に、A病院の救急センターに発熱を主訴に自力来院した高齢者。
 2.方法
  1)研究デザイン:前方視的観察研究
  2)トリアージ方法: qSOFA 2項目未満で食欲低下を認める場合はJTASレベル3、認めない場合はJTASレベル4と判定する。
  3)データ収集方法:年齢、食欲低下の有無、qSOFA、転帰、入院時のSOFAスコアを問診表、トリアージ票、電子カルテより収集する。
  4)データ分析方法:JTASレベル3、4の入院率とqSOFA 1項目以上の該当者数と入院患者数を食欲低下の有無によって比較。統計処理はMicrosoft Excelを使用してカイ二乗検定を行い、有意水準をp<0.01とした。
 3.用語の定義
  1)高齢者:WHOの定義に基づき65歳以上とする。
  2)食欲低下:患者が食欲低下を自覚または第三者が患者の食欲低下を認識している場合とする。食事量で規定せず、消化管の器質的異常を認める場合は除外する。
  3)入院:社会的要因で入院した患者は除外する。
 4.倫理的配慮
   所属施設の管理者の許可を得て実施した。個人が特定できないようにデータ管理はロック機能付きUSBメモリを使用する。
【結果】
 対象患者数は36名、年齢の中央値は78歳であった。JTASレベル別の患者数(入院率)は、レベル3は20名(30%)、レベル4では10名(0%)であった。食欲低下を認めた患者(入院患者数)は25名(10名)、認めない患者は11名(1名)であり、入院患者数においては有意差を認めた(p<0.01)。また、食欲低下を認めた患者でqSOFA 1項目以上の該当者とその割合は11名(44%)、食欲低下を認めない患者では該当者はおらず、有意差を認めた(p<0.001)。転帰として、食欲低下を認めた患者で入院となりSOFAスコア2点以上は5名、そのうち2名は死亡退院した。
【考察】
 発熱高齢者に対して、食欲低下を補足因子にしてトリアージを行った結果、JTASレベル別の入院率ではCTASの入院予測率と合致しており、精度の高いトリアージが実施できた。また、入院とqSOFAの項目で有意差を認めたことや、入院患者のなかには敗血症と診断され重症化した事例もあったことから、発熱高齢者の食欲低下は潜在する敗血症を早期に示唆する要因として捉えることができる。食欲低下は、日常生活行動の変化であるため、非典型的症状を呈する高齢者においても評価しやすく、明確な指標として有用である。