第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

トリアージ

[O3] 一般演題3

[O3-10] 年齢を補足因子として発熱患者のトリアージを行ったことによる影響

○飯田 京介1、竹下 諒1、中島 真寿美1、宮下 恵理子1、富山 絢子1 (1. 横浜労災病院救命救急センター)

Keywords:トリアージ、JTAS、発熱

【目的】
 緊急度判定支援システム(JTAS)による発熱患者の緊急度判定では、来院時SIRS2項目以上又はqSOFA2点以上でレベル2(緊急)としている。しかし、冬季におけるインフルエンザなどの流行期には敗血症でない多数の軽症者がSIRS2項目以上となり、同様の対応が求められてきた。当院では、2014年10月~2015年3月に発熱患者の年齢による適切なトリアージレベルについての研究を行なった。その結果、発熱を主訴に独歩で来院し、SIRS2項目以上を満たす患者において、65歳未満ではその入院率が低く、Canadian Triage and Acuity Scale(CTAS)の定めるレベル3(準緊急)の予測入院率に相当した。研究以降、当院ではSIRS2項目以上を満たす65歳未満の発熱患者は、他の因子が要因とならない限りレベル3としている。発熱患者のトリアージに年齢を補足因子とする有用性を述べている先行研究はあるが、実用例の報告はほとんどされていない。今回、発熱患者のトリアージにおいて年齢を補足因子としたことによる影響を検証した。
【研究方法】
研究期間:2019年10月~2020年3月
研究対象:上記期間中に発熱(>38℃)を主訴に当院救急外来を独歩受診し、SIRS2項目以上を満たした15歳以上の患者
調査方法:診療録・トリアージ問診票を基に検証した後ろ向き観察研究
Primary outcome:65歳未満(若年群)をレベル3、65歳以上(高齢群)をレベル2とし、その入院率をCTASの定めるトリアージレベルごとの予測入院率と比較
Secondary outcome:トリアージレベルの変更に伴う影響を検証
分析方法:統計解析ソフトEZRを用い、p<0.05を統計学的有意とした。
【倫理的配慮】 
 本研究は、当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
 対象症例数350件(若年群291例、高齢群59例)であり、基本情報は先行研究の結果を含め表の通りであった。今回の研究における入院率は若年群4.1%に対し、高齢群39.0%であった。これらはそれぞれCTASレベル5(0~10%)とCTASレベル3(20~40%)の予測入院率に相当していた。性別・SpO2・血圧・診察開始時間を説明変数として行ったロジスティック回帰分析では高齢群に対する若年群の入院オッズ比は0.059(p<0.001)と低値であった。
【考察】
 本研究でも若年群と高齢群の入院率に明らかな差が認められ、それぞれCTASの予測入院率より低値であった。若年群と高齢群を65歳で分けたが、今後はより適切な年齢についての検証も必要と考えられる。
 若年群の入院例のうちICU入院はなく、緊急手術例も急性虫垂炎で保存的加療も検討されうる症例のみであった。更に、診察待機中に容体変化した患者は存在せず、レベル3へ下げたことによる患者への影響はなかったと考えられる。また、先行研究と比較し、適切でない可能性のあるトリアージを減らすことで、レベル2のトリアージから診察開始までの待機時間の短縮が期待されたが、中央値に変化はなかった。一方で、両群で15分以内の診察開始の達成率は有意に改善していた。これはレベル2の高齢群を適切に診察できるようになった可能性がある。若年群に関しては、インフルエンザや上気道炎などの軽症例が大幅に増加しており、インフルエンザ検査目的の受診が増えた影響が考えられる。
 今回の研究は冬季に限定したものであり、新型コロナウィルス感染症の影響もある。今後は、年間を通しての前方視的研究や、適切な年齢に関しての研究を行っていく必要があるだろう。
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